第341話 エリート軍人
監視部隊は生き残りで部隊を再編制している。迷いなく淡々と作業が進むのを見てジャンが感心している。
「監視部隊の指揮官は優秀な奴のようだな。中々の手際だ」
俺には、ただ動く魔導機と破壊された魔導機を選別しているだけにしか見えないのでジャンに聞いた。
「再編制ってそんなに難しいのか?」
「あの状況だとかなり難しいだろうよ。指揮官としてはできるかぎり数を残したいと思うのが真情だろうが、実際に戦力として活用できるか判断するのは難しいし、悩むものだ。しかし、あの指揮官にはその迷いがない。戦力として使えるかどうかのイメージをしっかりもってないと、ああはいかねえだろうよ」
「へ~ そんなもんなんだ」
「戦闘を見てましたけど、指揮能力も高いと思います。意外性はありませんが、かなり堅実な戦術で敵に対応してましたね」
ジャンと俺の話を聞いていた清音も、監視部隊の指揮官についてそう見解を示した。
そんな噂の指揮官だけど、直接お目にかかることになった。今後の行動で相談したいことがあるとのことで、ミライへとやってくることになったのだ。
「リュベル王国中央軍所属、エミッツ・シュタイナーです。この度は内々の問題でお騒がせして申し訳ありません」
凄い美少年がやってきたと思ったのだけど、清音や渚から、多分あの人女性だよ、と聞いて驚く。仕草、立ち振る舞いなどは男性ぽいから、完全に男だと思っていた。声はかなりのハスキーボイスで男女どちらともとれるけど……。
コソコソと男だよ、女だよと言っていると、さすがにエミッツが気が付く。こういう場面には慣れているのか、気持ちのいいくらいはっきりとこう教えてくれた。
「私は生物学的には女性です。しかし、すでに女は捨て男として生きることを決意しています。ですから男性として接して頂けるとありがたいです」
なるほど、そう言う事かと納得する。まあ、人の生きざまなどはそれぞれだろう。女性でも、男性として生きたいならそうすればいいと思う。
「それで、相談したい事と言うのはなんですか」
話が脱線していたので、ジャンがエミッツにそう聞いて話を戻した。
「はい。実は不覚にも先ほどの戦闘の首謀者を取り逃がしてしまいました。攻撃してきた集団は地方領主のスイデル伯爵という人物なのですが、この辺りの領主たちとは深いつながりのある古い貴族ということもあり、もしかしたらそれらに助力を得てまた攻撃してくる可能性があります」
「なるほどな、それで俺たちにどうしろと言うんだ?」
「はい。できれば近くにあるリュベル軍の基地へと立ち寄って頂きたいとお願いしたく……」
「戦力が乏しくなって、次の攻撃には耐えられないから、援軍を要請する為に基地によりたいとそう言う話だな」
「貴殿たちには目的とは違う行動になり大変恐縮ではありますが、是非、検討をお願いします」
「ジャン。近くって言ってるし、基地に寄るくらいならいいんじゃないか」
本当に申し訳なさそうに言うエミッツが不憫になり助け船を出した。
「まあ、そうだな。では基地に立ち寄ることは了解した。しかし、俺たちは基地には近づかない。近くで待機するから援軍でもなんでも要請してくれ」
「はい。それで十分です。ありがとうございます」
用心深いジャンは基地への接近は嫌がった。確かに俺たちがリュベル王国軍の基地に近づくメリットはない。
エミッツは軍人らしく敬礼すると、ソウブへと戻っていった。エミッツが去ると、ミライのブリッジでは彼の話で少し盛り上がる。
「本人にこんなこと言ったら怒られると思うけど、すっごく美人なのに男として生きてるってもったいないよね」
渚の言葉に清音も反応する。
「そうですね。女性として生きれば一定の幸せは約束されているくらいに器量は良かったですね」
「まあ、私の足元にも及びませんですけどね」
堂々とそう言い張るリンネカルロの言葉はみんな普通にスルーした。リンネカルロは俺に同意して欲しいと思ったのかジッと俺を見る。どう言えばいいのか言葉に困ったので目線をそらして誤魔化した。
「まあ、本人には美人とかそんなことは関係ないんだろ。生きたいように生きる。そんな選択があってもいいだろうよ」
俺もジャンの言葉に賛成だ。一回だけの人生、人に迷惑をかけなければ好きに生きればいいと思った。
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