第135話 戦いの前に/渚
「ラネル、話って何?」
改まってラネルに呼び出された。ラネルはいつもより神妙な顔で私を迎える。
「渚……これからアムリアは大きな戦争が始まるの……」
「知ってるわよ」
「勝ち目のない戦いだし、渚、貴方は無理やり金銭で買われてこの国にきた……貴方が争いが嫌いなのも知っているし、このままこの国の為に無謀な戦いに参加させるのは違うと思うの……だから、お父さんやユキハと相談して決めたわ、これを持って国を出なさい」
そう言って大きな袋を渡してきた。
「1000万ゴルド入ってる。これだけあればしばらくは暮らしていけるから……」
どうやら私を無謀な戦争に巻き込みたくないと思ったようだ……本当に優しい王族だな──
「ラネル、前に私の好きな人の話したよね、馬鹿で単純で、本当になんでこんな奴好きなんだろうって……でもね、そんなどうしようもない奴だけど、私がピンチの時は必ず現れるのよ、そして私より弱いくせに、いじめっ子に向かっていくの……ボコボコにされても大きな体のいじめっ子に必死にしがみ付いて、私を守ろうとするの……彼はね、自分でもそのいじめっ子に勝てないってわかってるんだけど、気持ちで向かっていてたんだと思う」
「渚……」
「だからね、私は気持ちで向かっていく人が好きなの、ラネル、ユキハ、マジュニさん、ヒマリ、ジハードにデルファン、ここで私だけ逃げ出したら、その彼にも怒られるし、何より絶対に後悔するから」
「だけど、渚、死ぬかもしれないんだよ! 無謀な戦いなんだよ!」
「大丈夫、勝ち目のない戦いだけど、彼はいつも最後には勝ってたよ、いじめっ子は根気負けしていつも逃げ出すんだから」
「渚……本当にいいの?」
「うん、みんなで生き残ろうよ」
ラネルは私を強く抱きしめてきた。勇太、私の判断間違ってないよね……
アムリア軍は全兵力を総動員してテミラへ向かった。全兵力と言っても、魔導機60機、ライドキャリア5隻、兵数1200とこれから戦う相手の規模を考えたら心許ない。
テミラに到着すると、ベダ卿が深く頭を下げて迎えれくれた。
「本当にすまない、貴殿にはなんと礼を言えばいいか……」
「アムリアは正しい方の味方だ、共に窮地を乗り切ろう」
マジュニさんは堂々とそう伝えた。ベダ卿と硬い握手をしてお互いを労った。
テミラ軍の兵力は、魔導機200機にライドキャリア12隻、兵数は5000とアムリアよりはかなり多い。それでもこれから戦う敵はもっと多いので、念入りな作戦が必要となる、すぐに主要な者が集まり作戦会議が始まった。
「敵の予想戦力はどれくらいだ」
最初の作戦会議で、ベダ卿が情報を確認する。
「ルジャ帝国、先に東部諸国連合を脱退した四カ国も参戦することを予想すると最低でも魔導機1500、ライドキャリア50隻、兵数20000以上はいるかと……」
「まともに戦っては勝ち目がないな……」
「予想される敵の侵攻ルートは、三つ、エムジ川の下流、ルザン山脈南側、それとバルハ高原、どのルートを突破されても聖都まで一直線で、敗北は必須となります」
「必然的に軍を三つに分ける必要があると言うことか」
「ただでさえ戦力が少ないのに分散するのは痛いな……」
地図を見ながらラネルが提案する。
「激戦が予想されるバルハ高原をテミラ軍に、地理的優位で、少数でも防衛し易いルザン山脈南をアムリア軍が受け持つというのでどうでしょうか」
「そうなるとエムジ川の下流方面はどうするのだ」
「実は我がアムリアの同盟国に援軍の要請をしていまして」
「なんと、まさかエモウ王国か!」
「はい、エモウ軍にエムジ川方面の防衛を担当してもらおうと考えています」
「エモウ軍が助力してくれるのは心強い、それではその担当で防衛準備をしよう」
「一つだけよろしいですか、地理に疎いエモウ軍は、複雑な地形のエムジ川周辺の防衛に苦慮する可能性があります、できればテミラから少数でいいので案内役を出していただけませんか」
「もちろんだ、周辺地理に詳しい者を派遣しよう」
テミラの案内役とは別にエモウ軍を迎える為に、同盟国であるアムリアからも人を派遣することになった。同盟国を迎えるという立場からそれ相応の人物が行く必要があり、その役目をラネルが引き受けた。
「しかし、ラネル、一人で大丈夫か、何人か護衛を付けてはどうだ」
「いえ、ルザン山脈の防衛に一機でも戦力は必要でしょう。テミラの案内役の部隊と一緒だし大丈夫よ」
ラネルは笑顔で魔導機に搭乗すると、エモウ軍を迎える為に案内役部隊と共にエムジ川方面へと向かった。あまりラネルと離れることが無いからだろうか、彼女がどこかへ向かう後ろ姿を見てると、妙な不安感が押し寄せきた。
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