第108話 最強の二人

「敵が思ったより多いですわね、勇太、基地で使った光の矢でパッと倒せませんの?」


「ごめん、あれはもう使えないみたいなんだ」


「そう、なら面倒臭いですけど、地道に突破するしか無いですわね」


リンネカルロはヴィクトゥルフ・ノヴァが使えない事をそんなに残念には思ってないようだ。それくらい自分の力と、ヴィクトゥルフの力を信じていると言うことかな。


敵が俺たちの存在に気がついたようで、五十機ほどの魔導機がこちらに向かってきた。


「さて、まずはあれを片付けますわよ」


リンネカルロは持っている杖を軽く振るう、するといくつもの雷球が出現して、近づく敵に向かって放たれた。雷球が命中した敵は、バリバリと音を立てて固まり、その場に崩れ落ちる。


俺はヴィクトゥルフを飛行させて敵の集団の後ろに回り込む、10秒程の飛行なので問題ないだろう。


後ろに回り込むと、一番後方にいた敵機を殴り倒して持っていた大振りの剣を奪う。奪った剣を水平に振り抜き、俺を迎撃しようと近づいてきていた二機の敵を上下に分断して破壊した。リンネカルロの方を見ると、すでに十機以上は倒して、さらに範囲攻撃を放とうとしていた。


「テンペスト!」


バチバチバチと稲光が起こり、周囲に雷の光が舞い散る。その雷の嵐に巻き込まれて数十機の魔導機が破壊される。俺も負けていられない、加速して敵機の集団の中に入り込むと、自分を中心に大振りの剣を回転させて振り切り、一気に四機の魔導機を真っ二つに斬り裂いた。


不意に後ろから剣が振り下ろされた。攻撃の気配を察知した俺はそれを避けて、攻撃してきた敵機を左肘で弾き飛ばす。そして止めを刺そうと剣を振り上げて気がついた、攻撃してきた魔導機は前に戦ったクラスメイトの御影守の機体であった。俺は思わず外部出力音で呼びかけていた。


「み、御影か?」


「そ、その声は勇太くん?」


「お前、まだムスヒムの為に戦ってんのか? ちょっといい加減気が付けよ、アイツは最悪の男だぞ、あんなのを王にしたらこの国は終わりだ」


「しかし、僕は……」


御影が何かを言おうとした時、見知った魔導機がまた現れた、確か王国親衛隊の隊長の機体だったよな。


「守! 何をしている! 早く立ち上がって戦え!」


「ビルケア隊長、僕はもう……」

「弱音を聞いてる暇はない! クルス司令の命令だぞ!」


「ひっ……」

クルス司令と言う名を聞いて、御影はあからさまに恐怖の反応を示す──なんだよクルスって……しかし、その疑問はすぐに解決される。


「勇太! 危ないですわ!」


不意にリンネカルロの声が上がる、俺は嫌な殺気を感じて緊急上昇した。


上空から見ると、俺がいた場所の地面が深く抉れていた。


「チッ、ヴィクトゥルフを片付ける機会を……リンネカルロ、余計な事を言わないで欲しかったわ」


そう外部出力音で言ってきた魔導機は、まるで大きな翼を持った天使のような姿をしていた。


「クルス、あなたが出張ってくるなんて、いよいよムスヒムも手札が無くなってる見たいですわね」


「あら、戦況はこちらの方が有利じゃないの、私が出てきたのは自分の手であなたを殺したくなったからよ」


「アークエンジェルでオーディンに勝てるとでも思ってますの」


「ふんっ、いつまでも自分の方が上だなんて思わないことね、このアークエンジェルはあなたの知ってる物とは別物よ! それに貴方たちにはとっておきの秘密兵器があるのよ」


クルスのその言葉を言い終わるのを待っていたように、二機のライドキャリアがこちらに近づいていくる──そしてライドキャリアのハッチがギギギッと音を立てて開いた。


中から現れたのは巨大な魔導機であった……俺の知っている一番大きな魔導機、ロルゴのガネーシャより遥かに大きなその巨体が、ライドキャリアからゆっくり姿を現した。


「魔導機ギガントマキア! ラドルカンパニーの開発した新規格の魔導機よ、三つのルーディアコアを持ち、三人のライダーで操縦されるそれは三人分のルーディア値の力を持っている。三機購入したうちの一機はユーディンを殺す為に出撃させましたが、この二機はリンネカルロ、それにヴィクトゥルフのライダー、お前たちだけの為に取っておいたのよ」


あまりの巨大さに流石にちょっとビビる──だけど、このヴィクトゥルフとリンネカルロなら負けはしない、俺はそう確信していた。

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