第15話 欠けた記憶

何かを思い出しそうになる。

暗い空。欠けた月

狭い路地に黒い陰。

天にはる糸は蜘蛛よりもずっと力強い


何がよぎったのかはわからない。

ただ、私はあの時にこれを見た。と感じただけ。

いつ見たのか、何を見たのか。

何を感じて、なにを思い出したのか。

なにも。覚えていない。


灰色の雲も白い光も

路地裏もそびえる影も。

地をはう私からずっと遠くに見える


何も覚えていなくとも、何かを思い出しそうになる。

忘れてしまった。遠いと言える記憶ではないはずなのに。

手が届かない。

空は遠くに見える。

白い月が、狭い路地から見えていた。

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