第268話◇エアリアルパーティーVSエクスパーティー3/斬り結ぶ

 


 凄まじい火力の魔法同士が激突しようとする中――。

 無論、動き出したのは魔法使いだけではない。


「アーサー殿、手合わせ願えるか」


 世界最高峰の剣豪・【サムライ】マサムネが柄に手を掛け、【騎士王】アーサーを誘う。

 アーサーは応じようとしたが――。


「そいつはオレがやる!」


 下半身を馬に変化させた【超越者】モルドが叫ぶ。

 彼はアーサーの返事を待たず突進。


「……拙者に並び称される【騎士王】の剣技を味わいたかったが、致し方なし」


 マサムネはすぐにモルドに意識を向けた。


「オレをぶっ殺してから味わえばいいだろ! 出来んならなぁッ!」


「ふむ。そうさせて頂こう」


「やってみやがれッ……!」


 加速するケンタウロスを前にしても、マサムネは動かない。

 最高速度に達した人馬と正面衝突などすれば、普通の人間は轢き潰されて、人だったものへと成り果てるところ。


 加えて、モルドが再現できるのはケンタウロスだけではない。


 彼の右腕が液状化し、剣の形となり、硬質化する。

 特殊なスライムの特性を部分的に再現し、武器としたのだ。


 同時に、モルドの長髪が逆立った。

 その毛髪の一本一本が針と化し、まるでハリネズミのようになる。


 そしてその針を、彼は一斉に射出した。


「……面妖な」


 マサムネはカタナを傍目にはゆっくりと、実際には迅速に抜き放つ。

 これでバットウジュツは使えない。


 だが針弾は全て弾き落とされた。

 マサムネを見ていると、どこか気持ち悪い。というのも、ズレがあるのだ。


 彼の剣技が早過ぎて、ある針を弾く音が聞こえる頃には、刃は既に他の針を弾いている。

 動きと音が一致しないのだ。


 とんでもない神業だが、針は役目を果たした。

 モルドは既に彼に迫っており、カタナは抜かれたまま。


 粗野な言葉遣いから勘違いする者もいるが、モルドは非常に思慮深い。

 自分がマサムネを抑えることで、アーサーに自由を与えた。


 俺たちの誇る最高の剣士を、敵は放置できない。

 マサムネをぶつけることができないなら、対応できるのは現状二人。


 リューイとユアンだ。

 リューイは優秀だが、錬金するものがない状態でアーサーに襲われては堪らないだろう。


 ユアンが来るならばそれもいい。

 ミシェルとの複合魔法を阻止できる。


「ぶった斬る!」


「叶わんよ」


 マサムネが、流れるようにモルドの横をすり抜け、刃を閃かせた。

 刹那。

 モルドの上半身とケンタウロスの下半身が、上下に分かたれる。


「この程度では落ちまい?」


 極東の剣士は即座に振り返り、モルドの首を刎ねた。

 あまりに呆気ない終幕。

 達人同士の戦いでは、ままあること。

 今回の勝負はマサムネの勝利。


 一瞬、俺たち以外の誰もがそう思ったことだろう。


 そして、マサムネの、、、、、体が吹き飛んだ、、、、、、


「――――ッ!?」


 壁面に激突したマサムネ。彼の右腕は関節と逆に曲がっており、そこに衝撃を受けたことを物語っている。


「悪ぃ、ぶっ飛ばすの間違いだったわ」


 マサムネに斬られた筈の上半身は魔力粒子にはならず、粘液状になってうねうねと蠢いている。


 斬撃の直後、ケンタウロスの馬部分が変化し、鬼の角を生やしたモルドに成った。


 自分の首を模した囮を斬り飛ばしたマサムネを、そのまま殴りつけたのだ。

 粘液はモルドに触れると、彼の体に溶けるように融合していく。


「……奇っ怪な男だ」


 マサムネに落ち度はない。


 これまで世に出ているモルドの情報では、先程のような芸当はできない筈だったからだ。


 ケンタウロスの下半身に自身の重要器官を移し、即座に上半身を囮に変えるなど。

 元に戻れなくなる可能性があるとのことで、彼自身避けていたこと。


 俺とアーサー、マーリンがオリジナルダンジョンに行っている間、モルドは鍛錬を積んでこれを可能にした。


「うちの勇者が、勝つって言ってんだよ。叶えねぇでどうする」


 モルドの腕が人狼のそれに変化し、鋭い爪が伸びる。


「それは、こちらとて同じこと」


 マサムネが立ち上がり、左手でカタナを握る。


「まだ動けんのか。サムライってのは頑丈なんだな」


おぬしもな、、、、、


 モルドの右腕が落ちた、、、、、、、、、、


「…………てめぇ」


 殴られる直前か、あるいは殴られながらか、予想外の攻撃を受けたにもかかわらず、マサムネはそれに対応していたのだ。


 避けるのは不可能と判断し、咄嗟に刃を振るった。

 切れ味があまりに鋭すぎて、世界がそれに気づくのが遅れたみたいに、モルドの腕はゆっくりと落ちた。


 そして、そのまま魔力粒子と散る。

 モルドがスライムへの形態変化を命じていない状態では、ただの肉体。切り落とされても、戻らない。


「これで互いに腕一本」


「それは違うぜ」


 モルドの側頭部からコウモリ羽のような触角が生え、彼の腕が再生される。

 生えてきたのは先程と同じ、人狼の腕だ。


「……吸血鬼の再生能力か。だが、元通りではないようだ」


 マサムネの剣技は、そのカタナによるものか遣い手の力なのか、魔法さえ斬ることで有名。

 斬られた魔法は、術者からの命令を受け付けなくなる。


 たとえば生み出した火球を操作する魔法の場合、操作できなくなってしまう。

 つまり、術者と魔法の繋がりまで含めて、マサムネは断ち切ってしまうのだ。


 そして、それは肉体を斬った場合にも適用されることが分かっている。

 元通りには再生できない。再生しても、脳からの命令を受け付けなくなっている。


「構いやしねぇよ」


 モルドの腕を、蔦のようなものが覆う。

 それら一本一本を、断絶した神経の代わりとして動かすことで、右腕を引き続き使用するようだ。


「ほう。アーサー殿に劣らず、おぬしとの戦いも楽しめそうだ」


「ハッ。今日こそ、一位そこ退いてもらうぜ」


「生憎と、拙者の足に後退の機能はついておらんのだ」


「そいつぁ不良品掴まされたな!」


 二人の爪と刃が、無数の火花を散らしながらぶつかり合う。


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