第217話◇無限の可能性を持った者



  

 場所は魔王城、最高幹部専用の会議室。

 僕と魔王様が初めて逢った場所でもある。


 ミラさんと指輪で契約したのも、この空間の転移用記録石前だった。


 魔王様の玉座と、長卓。あとは五つの椅子がある。

 現在、席は全て埋まっている。


 【吸血鬼の女王】カーミラ、【恋情の悪魔】シトリー、【刈除騎士】フルカス、【時の悪魔】アガレス、【隻角の闇魔導士】レメゲトン、そして【魔王】ルシファー。

 僕らは魔王様から集められ、その理由を――パーティー構成の相談だと思っていた。


「貴方が抜けなさい、アガレス」


 アガレスさんは燕尾服ふうの衣装に身を包んだ魔人だ。二十代後半ほどの男性で、銀の髪は後ろに撫でつけられ、額の両端から角が生えている。山羊を思わせる角だ。


「くだらん。私が魔王様のお側を離れることは有り得ん」


 二人の間でバチバチと火花が散る。

 シトリーさんは困ったような顔で笑い、フルカスさんは『なんでもドームカバー』から作り出した料理をもぐもぐ食べている。

 僕も僕で沈黙していた。


 全天祭典競技は、基本五人一組での参加というルール。

 基本というのは、参加者の一部にはこの枠に囚われない者達がいるからだ。


 今回の祭典のコンセプトは『最強決定戦』であり、用意された構図が『伝説に挑む者達』だったりする。


 まず現役の冒険者・魔物を選手でひとくくりにし、多すぎる参加者をふるいに掛ける。

 残った一部の強者を、『伝説』すなわち引退した元冒険者・元魔物と戦わせる、というわけだ。


 今は参加希望者を募っているところだが、冒険者だけでも都合のつくパーティーはほぼ全て参加するだろうことは想像に難くない。

 勇者パーティーだけで数万組いると言われる現代だ、予選からして相当な規模になるだろう。


 ちなみに、ランク上位だからと特別扱いはなし。

 あのエアリアルパーティーでさえ、予選には参加する。

 トーナメントの時のようにランク上位は予選免除にも出来たろうが、そこは最強決定戦、気遣いはなし。


 ランク上位陣の圧勝を望む者達も多いが、ランクでは負けるが自分の大好きなパーティーによる番狂わせを期待する者も多い。

 そこに魔物ファンの期待も加わるのだから、始まる前から誰もが胸を高鳴らせていた。

 

「れ、レメゲトン様はどう思われますか?」


「ふっ、墓穴を掘ったな吸血鬼。参謀殿は貴様と違い、私情で判断を誤ることはない」


「んなっ……! 貴方こそ魔王様から離れたくないという私情塗れのくせして」


「ぐっ、何をふざけたことを。私は一介の臣下として優れた戦力が側に控えるべきだと考えた上で判断したまでのこと」


「他のダンジョンがどうかは知りませんけれど、魔王城に限っては深層の方が強いとかありませんから。勘違いなきよう」


「ふむ。しかし古来より『四天王最弱』という言葉もあるように、勇者一行と最初に戦う四天王は得てして――」


「ふ、ふふ。アガレス、貴方、余程血を見たいようね?」


 この二人の口論は両者一歩も引かないので、ある意味で健全だ。

 カーミラは彼を本当の変態だとは思っていないし、アガレスは彼女を弱いなどと思っていない。


 どちらもそれらが本気なら、とっくに四天王から追い出す動きに出ているだろう。

 二人共、心から魔王様を敬愛しているのだから。

 魔王様に相応しくないと思うなら、この席につくことを許すわけもない。


「貴様らが余を愛してやまないのは分かった。くだらん喧嘩はそこまでだ」


 魔王様の一言で、二人は黙る。


「今日呼んだのは言うまでもなく、祭典について話すべきことがあったからだ」


 僕らの意識が魔王様に集中する。


「余は考えた。強力なパーティーを一つ作れば事足りるというのなら、この中から一人抜いてパーティーを結成すればよい、と。しかしだ。敢えて言う。その程度で、お祖父様は倒せん」


 魔王様は誰よりも魔王城の職員を愛している。


 師匠が抜けて、強力な魔物の多くが去った。

 彼らは師匠がボスだったからこそ、ついてきただけだから。


 先代のフェローさんが辞める時、多くの魔物を引き抜いていった。

 彼の理想に共感したか、純粋に示された報酬が高かったのかもしれない。


 そして残った魔物と、ルーシーさんが集めた魔物は、どうあがいても師匠の時代の魔王軍と同等とは言えなかった。


 けれど、それは仕方のないことだ。

 主力のほとんどが抜けた中、簡単に立て直せるほど、ダンジョン経営は甘くない。

 スポーツのチームで想像してもらえれば分かりやすいかもしれない。


 だが、魔王様とその配下は、そんな中でも難攻不落の名を守り続けた。

 最深部到達パーティーゼロの記録を、保持した。


 魔物のほとんどが若者で構成され、空席だった第十層フロアボスを人間に任せることになっても、魔王城はあらゆる冒険者の侵攻を跳ね除けた。

 しかし、だ。


 そんな功績さえ、あの人を前にすれば霞んでしまう。

 【魔王】ルキフェル。


 候補、なんて言葉は不要。ただこう呼べばいいし、誰も反論しない。


 世界最強。


 それが許される、唯一の存在。


 全天祭典競技は、単体で最も強い魔王に、選手たちがどう挑むかという催しだ。

 彼の側にはかつての四天王や、アルトリートパーティーまで加わるというのだから、その脅威は計り知れない。


「強制はせんが、お前たちには各々パーティーを結成し、最終戦まで残ってもらいたい」


「――――」


 その時、幹部それぞれが感じた思いは、きっと同じではなかっただろう。


「承知した」


 食事の手を止めて答えたのは、フルカスさん。


「はーい」


 シトリーさんは片手を挙げながら、笑顔で応える。


「魔王様の願いとあれば……」


 カーミラは驚いた様子を見せつつも、頷いた。


「私は魔王様のお側を離れるつもりはございません。どうしてもということであれば、ご命令を」


 強制ではないという言葉からか、アガレスさんは拒否。


「……ふっ。よかろう。貴様は余と来い」


 魔王様は半ば予想していたのか、仕方ないとばかりに笑う。


「ハッ……!」


 彼女の視線が、僕に向く。


「レメゲトンよ」


「はい。別のパーティーに所属する、という点については僕も考えていました。そして、それについて相談したいことが……」


 このメンバーの前だ。わざわざレメゲトンっぽい口調を演出する必要もあるまい。


「あぁ、許可する、、、、


 内容を話す前に、魔王様から許可が出た。

 ……配下の考えることはお見通し、ってところかな。

 さすがは我らが王だ。


「では、こちらへ」


 魔王様が小さな手を広げ、僕へ伸ばした。

 僕は微笑んで、彼女の求めるものへ手を伸ばす。

 これで僕は――。


 ◇


「えいっ、えいっ」


「いいわ……! もっと杖を軽やかに振るいつつ、ローブをはためかせてみて頂戴!」


 パシャパシャ。


「は、はいっ。えと……こう、でしょうか。……えいやっ」


「くぅっ……! か、完璧よカシュちゃん! あなたは天才だわ! さながら天才大魔道士ね!」


 パシャパシャパシャパシャ。


 なんか僕の執務室からカシュの声の他に、荒ぶる女性の声とシャッター音が聞こえるんだけど……気の所為かな。

 そんな現実逃避を一瞬だけして、僕は扉を開く。


 そこでは――撮影会が行われていた。

 犯人は分かっている。


「何をやってるんですか……」


 亜人、というのはあまりにざっくりした区分だ。

 そもそも、多数派である人間ノーマル側に立った言葉だし。

 そのあたりは置いといて、細かい分類もあるにはある。


 たとえば犬の亜人と言えば、カシュのように人間の体に種族的特徴が見られる種族を指す。

 これを犬の獣人というと、その動物が人型に進化したような容貌の種族を指す。

 牛の獣人なら、ミノタウロスなんかが該当する。


 水棲魔物にも同じような分類があって、人の体に水棲生物の特徴が見られれば人魚、水棲生物が人型になったような見た目なら魚人なんて呼ばれる。


「あら、参謀さんじゃない。いいところに来たわね、手伝って頂戴」


 にゅっと伸びてきた触腕から、カメラを手渡される。

 タコの人魚の、お姉さんだ。


 上半身が人間の女性で、下半身はタコの触腕。

 名をスキューと言って、魔王城の魔物魔力体アバター、そのデザインなどを担当する事務所の所長さんである。


 彼女自身もまたデザイナーであり、レメゲトンの衣装を考案したのも彼女なのだとか。

 最近では、リリーの魔物姿である【深き森の射手】ストラスの衣装なんかも彼女に頼んで考えてもらったものだったりする。


「れめさっ――さ、参謀っ……! ど、どうですかっ?」


 僕が来たことで照れた様子を見せながら、カシュが近づいてくる。

 今、彼女は魔法使いふうの衣装に身を包んでいた。


 とんがり帽子には犬耳用の穴が開けられているようで、ぴょこっとカシュの犬耳が飛び出している。ローブはひらひらで、中の衣装はどこかの制服に見えなくもない。あとスカートだった。

 魔力を純化・圧縮する機能なんて搭載されていないだろう、杖の小道具を手に持っている。


 その姿は可愛い魔法使い見習いといった感じだ。


「うん、とても可愛……じゃなかった。知的に見えるよ」


「ほんとですか……!」


 カシュが眩い笑顔を放つ。


 スキューさんはカシュの可愛さに耐えられなかったのか、ソファーに倒れ込んだ。

 ぴくぴくと痙攣しているが、いつものことなので放っておこう。


「う、うん。今日は魔法使い系なんだね」


「はいっ……!」


 だいぶ前のことのようにも思えるが、魔王城に雇われたすぐ後あたり。

 ミラさんとお出かけの約束をした僕は、同様にカシュと出かける約束もした。


 で、実際に魔王城裏通りを散策している時に回った内の一軒に、スキューさんの事務所があったのだ。


 スキューさんはカシュをえらく気に入り、魔力体アバター候補と称して様々な衣装をカシュに着せたがった。


 将来の夢が僕の七十二番目の契約者だというカシュは心惹かれた様子だったが、支払える対価がない。

 しかしスキューさんは、写真さえ撮らせてくれればそれが対価だと言い出した。


 以来、カシュの了承を得たスキューさんはそれこそ水を得た魚のよう。

 こんなふうにカシュの衣装――魔力体アバター作成に入る前のデザイン確認用なので、魔力ではなく実際の生地が使用された服――を持ってきては撮影するのだった。


「あっ、お茶を用意しますっ」


 ぱたぱたとカシュが給湯室へと向かう。

 僕はジロリと、スキューさんに視線を向けた。


「……犬の亜人に魔法使い系は発現しにくいって、ご存知ですよね?」


「何言ってるのよ、カシュちゃんの可能性は無限大だわ!」


 小声で言う僕に対し、立ち上がったスキューさんが声高に叫んだ。


「そうですけど、そういうことではなく……趣味に走りましたね?」


 ギクッ! って音が聞こえてきそうなくらい、スキューさんの体が跳ねる。

 カシュはだいぶ真剣に将来の魔力体アバター候補を探しているのだが、スキューさんはカシュに可愛い衣装を着せたがるのだ。


 『可愛い』という言葉を使うと、格好いい魔物を目指しているカシュが『え……』みたいな表情をするので、僕も言えずにいる。


「無限の探求の最中で、一匙の趣味が混入したくらいなんだというのかしら?」


「はぁ……」


「ちょっと、そのダメな大人を見る目をやめなさい。傷つくでしょう!」


 個性的な人魚さんだし、結構な頻度で趣味を反映させてしまうものの、カシュが嬉しそうなので不満は無かった。


「冗談です。とはいえ、今日お呼びしたのはこの件ではなかったと思いますが……」


 本題に入ると、ようやくスキューさんはキリッとした表情になった。

 カシュ関連でへんてこになるだけで、普段は敏腕デザイナーなのだ。


「もちろん引き受けるわ。それにしてもあなた……」


「なんでしょう?」


「あなたの一番恐ろしいところは……人と繋がる力かもしれないわね」


 彼女があまりにも真剣な顔で言うので、僕は呆気にとられる。


「……確かに、人に恵まれていると思います」


「指輪での契約は、所有者に有利なものだわ。一度契約を結べば、後は自由に喚び出せるんだもの。普通は信用していたって、契約は躊躇うでしょう。いつどんな理由で召喚されるか分からないんだもの、とても大きな選択だわ」


「そう、ですね……」


「けれどあなたは、短期間で相当数の契約者を得ている。貴方になら使役されてもいいと思う人が沢山いる。すごいことね」


「……信頼を裏切らないようにしたいです」


「ふっ。……なによりも! カシュちゃんがあなたと契約したがっているというのが! とっっっても、羨ましくてならないのよね」


 なんて言って、スキューさんは再びだらしない顔に戻るのだった。


 ◇


 彼女との打ち合わせ後。


「あ、あの……さんぼー」


 秘書姿に戻ったカシュと、ソファーで一息つく。


「うん?」


 なにやら悩ましげな様子のカシュ。

 いつもペタンと垂れている犬耳が、しおれているように見えなくもない。彼女の感情に応じて揺れている感のある尻尾も、今はソファーに倒れている感じがしないでもない。

 なんとなく元気がないように見えるのだ。


「【役職ジョブ】は十歳で分かる、というお話は聞いたんですけど……」


「だね」


「それが分かる前でも、適性はある……とも聞いて」


「そうだね。【拳闘士】適性があれば小さい頃から喧嘩が強かったり、【画家】適性があれば絵の上達が早かったり、【役職ジョブ】判明前でも才能の片鱗……じゃ分かりづらいか。えぇと、そうだなぁ……何かが上手に出来ることは、あるよ」


「そう、ですよね……マカお姉ちゃんも、昔からお料理上手だったし……」


 服の裾をぎゅっと握り、カシュは俯いてしまう。

 マカさんは【料理人】持ちの、カシュのお姉さんだ。


「悩み事かい?」


 こくり、と頷きが返ってくる。

 それからぽつぽつと、カシュは語り始めた。


 魔物になると決めて以降、カシュは自分の適性を探した。

 幸い魔王城には多様な魔物が所属していて、カシュはみんなに愛されているので、時間を見つけて色々と付き合ってもらった。


 マルコシアスさんたち人狼組と運動したり、黒妖犬たちの爪や牙による攻撃を見せてもらったり、ダークエルフのレラージェさんに弓の基礎を習ったり、キマリスさんの死霊術を目の前で見せてもらったり、人魚のウェパルさんに泳ぎを習ったり、フルカスさんに稽古をつけてもらったり――そういえば『初級・始まりのダンジョン』派遣時に宿の二人の部屋からそんな声が聞こえていた――、カイムさんのなぞなぞを解いたり、夢魔のみんなにメイド服を着せられたり、アガレスさんに魔法のなんたるかを丁寧に教えてもらったり――常に優しい微笑を湛えていた以外、変なことは一切なかったとのこと――などなど。


 魔王様にも相談したことがあるのだとか。

 随分色々試したようだが、大半は僕がオリジナルダンジョンへ向かっていた時期に挑戦したという。


 それでも、カシュは自分に適性を見つけられなかった。

 強いて言えば体力があるとのことだが、犬の亜人には珍しくない特徴だ。


 カシュは思った。


 戦闘系の【役職ジョブ】が発現しなかったらどうしよう。直接戦闘系でなくとも、せめてサポートに役立つ【役職ジョブ】にならないだろうか。

 もし、戦いの場で役に立たない【役職ジョブ】になってしまったら……?


「カシュ……」


 レメゲトンの歓迎会、その帰り。僕らは約束した。

 いつかカシュは魔物になって、僕の最後の契約者になるのだと。


 何事にも一生懸命なカシュだからこそ、悩まないわけがなかったのだ。

 【湖の勇者】レイスくんや【破壊者】フランさんなど、十歳にして圧倒的な力を見せる者もいる。

 レイド戦でそれを観ていたカシュにとって、まだ八歳だからと自分を慰めることも出来なかったのだろう。


 若く、幼くとも、強い者は強い。


「わ、わたし……その、これからも、がんばる……ので」


 震えるカシュの声。

 僕はソファーから立ち上がり、彼女の前に膝をつく。


 そっと、彼女を見上げ、笑顔を意識した。


「カシュ、君の上司は誰だったかな?」


「……っ? さ、さんぼー、です」


「そうだよね。その参謀さんは、頑張る部下を、【役職ジョブ】で判断して、要るとか要らないとか考える人なのかい?」


「――――っ」


 カシュが顔を上げ、首をぶんぶんと横に振った。


「ち、ちがいます……!」


「確かに【役職ジョブ】は大事だ。とても、とても大事なものだね。多くの人の人生を左右するものだ。けれど、【役職ジョブ】より先に人生を決める人はいて、そういう人の決断を歪められるほど、偉いわけじゃないと思う」


 【勇者】を得られなくても、『勇者』を目指した【黒魔導士】の子供がいたように。


「いつかカシュの【役職ジョブ】が分かって、それがどんなものでもね、僕はカシュのしたいことを応援するよ。それは今と違ってもいいし、同じでもいい」


 カシュがこくりと頷いた。


「もし将来カシュが魔物になるなら、君がどんな【役職ジョブ】でも――最後の契約者になってもらう。約束したろ?」


 無限の可能性を秘めた童女は瞳に涙を溜め、しかしそれをこぼすことなく――。


「はいっ……! わたしは魔物になって、さんぼーを手伝います……!」


 そう言って、笑うのだった。


 ◇


 その日は用事があったので、カシュを家まで送り届ける役目をミラさんに任せ、少し早めに魔王城を出た。


「そこのおにーさん、俺達とお茶しない? ――なんてね」


 なんか僕には一生縁がなさそうなフレーズが、なんと僕に掛かる。

 言う側でも言われる側でも経験しないだろう言葉だったが、まさか言われる側になるとは。


「……レイスくん?」


 深海を連想させる暗い青の毛髪と瞳。まだ幼さの残る顔つきと矮躯。笑顔は自信に満ちたものでありながら、子供特有の愛嬌もあって不思議な印象を受ける。


 【湖の勇者】レイスが、そこにいた。


 俺達と言っていたように、そこには彼の幼馴染である【破壊者】フランの姿もある。


 ウサギを思わせる真っ白の長髪に赤い目。その肌の白さと美しく表情のない顔は、高名な技師が作成した人形だと言われても信じてしまいそうなほど。


「思ったより早く着いたから、迎えに来たよ」


「……わたしがいなかったら道を十二回は間違えるところだった」


「だからお前と来たろ?」


 二人は仲良く手を繋いでいた。

 そう。待ち合わせ場所こそ違うが、僕の用事とは――彼らと逢うことだった。


「そっか。待たせたかな」


「フラン、『それっぽいフレーズ』、次お前の番な」


 なにやら変な遊びをしているようだ。

 フランさんは無表情で僕を見上げ、言った。


「『ううん、今来たとこ』」


「あはは、それはよかった」


 僕は苦笑して、三人で歩き出す。



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