林間学校②
苦労して目的地に夏美と一緒に辿り着いてた俺らに待っていたのは弄りという名の冷やかしだった。2人が判り易いくらいにニヤニヤしているから。
冬姫がこれぞってばかりにこっちに向かってきた。まるで春夏のように。
「あら~、お2人さんお熱いことで何よりだね~」
「ち、違うの。これは、そのさっき転びそうになった時にハルが助けてくれてまた転ぶのが怖いから手を繋いで欲しいってお願いしただけだから……」
冬姫の追及に夏美は答えてる内に段々声が萎んでいき、最後の方は全然聞こえないくらいだった。あいつ、敢えて夏美に言ったな。
「冬姫、あまり夏美を弄るなよ。俺みたいに慣れてる訳じゃないんだから」
「だって、ハルに弄っても面白いのが返ってこない気がしたから」
「面白みで判断するなよ、全くお前って奴は」
「それが私だもん。ごめんね夏美、ちょっとやり過ぎた」
「ううん、気にしてないよ。ハルとは本当に手を繋いでもらっただけだから……」
どうやら、冬姫もちょっと屋過ぎたと思ったららしく素直に謝っていた。夏美は最後の方はやっぱり聞こえづらかった。
下山するときは4人で降りることにした。
当然だが勾配があり、下山する時も勾配があるので降りるまで夏美と手を繋ぎながら足元に気を付けながら降りた。
山を降り切った時に夏美の顔を見るとなぜか顔を赤くして俯いていたもんだから、顔が赤いってことはまさか風邪と思い、俺はある行動に出ていた。
「夏美、ちょっとごめんな。よっと」
「ひゃ、ど、どうしたのハル?おでこに手なんか当てて」
「んー、熱はないようだから大丈夫かな?顔が赤かったから風邪でも引いてるじゃないかと思って」
「だ、大丈夫だよ。私、荷物置いてくるね。また後でね!」
そう言って、夏美は足早にこの場から去っていってしまった。
一体何だったんだろう、誰か気になる奴でも見つけたのかな?
すると、後ろから『はぁ~、無自覚すぎる』っていう声が聞こえてきた。
「なにが、無自覚なんだよ。俺は普通にしただけだぞ?」
「あれが普通って。もしかして、他の女の子にもそんなことしてないでしょうね?」
「するか!そもそも、俺と関わりのある女子は3人くらいだろうが」
「にしても手慣れた感じがしたけど?」
「そうじゃない。ただ、夏美が赤くなってるのが気になってつい……」
そう考えたら、なんで俺は夏美のおでこに何の抵抗もなく手を乗せてしまったのだろうか。夏美からしたら迷惑だったのかな?
だから、この場を去りたくて行ってしまったのかもしれない。
謝って許してくれるかな……
「ねぇ、アキ?また、ハルがバカなこと考えてる気がするのは私の気のせい?」
「これもいつもハルだからね。今回は少し悩ました方がいいかもね」
「夏美からしたらご褒美みたいなもんだろうからね。今頃は部屋で」
その頃、夏美は部屋でうずくまっていた。
調子が悪い訳では勿論ない、理由は一つ。
※
<夏美side>
「もう、ハルはなんであんなこと平気で出来るのよ。あんなの平然とされたら私の心臓が持たないし。この後、どうやって顔合わせたらいいか分からないよ~」
野外炊飯が始まる間、私は部屋で気持ちが落ちつくのを待つしか出来なかったが、その間に自分の中で疑問が生まれた。それは……
「でも、なんでハルがしてくれたことにドキドキしてるんだろう?今までこんな感じ一回も無かったのに……いや、一回だけある気がする。いつだっけ?ぼんやりしてて思い出せない。すごく大切な事だった気がするのに」
結局、思い出すことは出来ずにいたが気持ちも落ち着いたので、3人の下へ戻ることにした。この気持ちが”恋”と気づくのはまだ先の話。
※
夏美が部屋にいる間、冬姫はハルとアキと一緒にいた。
今戻っても大変だから気持ちが落ち着くまでは1人にさせてあげることにしたのだ。
「なぁ、冬姫。夏美のやつ大丈夫かな?俺、迷惑かけてないか?」
「大丈夫よ、そんなに心配するなら見に行ってあげたらいいじゃないのよ?」
「もう少しして何も連絡とかなかったら見に行くってことにしようよ。それでいいよね、ハル?」
「ああ、そうだな」
ピロンって音がしたので、俺が確認すると夏美からのグループLAMで『今からそっちに行く』との連絡だったので俺は、ひとまず安堵していた。
戻ってきたら、さっきの件を謝らないとな。
数分後、夏美が俺らの部屋に到着するなり急に頭を下げた。
夏美、なんか悪いことしたっけ?
「心配かけてごめんなさい。もう大丈夫だから、ハルも迷惑かけてごめんね」
「いや、俺の方こそごめん。夏美の気持ち考えずにしてしまってほんとにすまなかった」
「ふふ、ほんとに2人はお似合いだね。謝ってばっかり」
「ちゃんと謝れるのは、いいことだよね。きっと、相性がいいだろうね」
「「………」」
俺と夏美は、2人が言ってることに言葉が出なかった。
俺と夏美お似合い?相性がいい?そんなことないって思って夏美を見ると何故か呆けた顔をしていた。
2人は俺らに何を感じているのか全く分からなかった。
そろそろ、夕食の時間になってきたので俺らは、外に向かう。
食材等は各自の場所に置かれており、中身を確認するとメニューは予想できたというか、野外炊飯で定番のカレーであった。
俺ら以外のメンバーに色々と準備をしてもらい、俺とアキは野菜等を切る係りになってひらすら切っていると。
「ハルも最近、しごかれてるのもあって上手くなってきたよな」
「その言葉、そっくりそのまま返してやる。まさか、ここで役に立つなんて思ってなかったよ」
「全くだ。おばさんの提案に感謝する以外ないな」
「今回ばかりは否定できないのが辛いな」
冬姫に言われた通りに切りつつも女子のことも考えて小さめに、切っていると『おーい』と声が聞こえた。この声は。
「へぇ~、犬飼君と綾瀬君って料理できるんだ。すごーい」
「意外」
「そんなこと言ったら失礼だよ~。ごめんね」
雪月花だった、しかも3者3様の答えでそれぞれの温度差が凄い。
3人がここにいるってことは……
「もう、調理終わったの?早くないか?」
「ん?終わってないよ、私達は食べる専門だから他の人にお願いしてるの」
「それで、こっちに来るってことは何か用があったんじゃないのか?」
「さすがですね~。いやね、もし出来たらカレー対決でもしないかなーって」
花村さんがそんな提案をしてきた。俺個人としては面白そうであるが一応確認を取ることにした。すると冬姫がとんでもない提案を出してきた。
「その対決に勝ったら、ハルを一日自由にできるっていうはどうかな?」
「「「え?いいの!」」」
「あー、それは面白いね。やってみようか」
おい、ちょっとまて。なんで俺が景品みたいになってるんだよ。
しかも3人はめっちゃ乗り気だし、景品にされた人間の主張は通ることはなく対決が決定した。まぁ、この際対決はいいがこっちが勝った場合はどうするつもりなんだ?
「あ、うちらが勝った場合は夏美がハルを一日自由にしていいからね」
「そ、そんな私なんかがハルを自由になんて……うう~……」
「その辺は、勝った時にまた決めればいいでしょ。ハルもそれでいいよね?」
「いいもなにも全部勝手に決まってるから全無視だし、言う暇すらなかったわ」
「ごめんね、ハル。景品にしちゃって」
「別に夏美が謝ることじゃないだろ?それに向こうに勝たれると怖いからとりあえず、勝つことを優先とするか」
こうして、何故か景品化されてしまった使い道のない俺をかけての料理対決が決定した。どうしてこうなってしまったのか?
決まった以上、勝たないと向こうに何を要求されるか分からない。
今回ばかりは夏美と冬姫に全力でやってもらうことなるんだが……
「よーし、久しぶりに本気でやりますかね。夏美、ついていける?」
「うん、冬姫にしっかりついていくから好きにやっちゃっていいよ」
「目に物見せてあげるし、ハルとアキも手伝ってよね?夏美の為にも」
「ああ、そうだな。大事なお姫様の機嫌を損ねる訳にはいかないしな」
なんか、冬姫とアキがなんか意味深なこと言ってますけど、いつの間に夏美がお姫様になってるんだ?
王子様はどこにいるんだろうね?迷子かな?
調理が始まるや否や冬姫の作業スピードが急にアップして、それを夏美が全力でフォローしているように見える。
実際は2人とも同レベルのスキルがあるので単に相乗効果を生んでるだけだった。
俺とアキは、2人の指示のもとで場所馬のように動いた。
どうやら、俺らが後ろで動いてるおかげで2人は鍋に集中できてるようで、出来上がるにつれてものすごくいい匂いが漂ってくる。
この場で作ってるのもあるけど、本気で作るってこうゆうことなんだって料理の深さを垣間見えた気がした。
「出来たー」
「冬姫、お疲れ様。ここまで本気なのは”あの時”以来じゃないか?」
「そう言われたらそうかな。だって、今は雪月花も仲間だけどそれよりももっと大切な仲間の為に頑張るのは当然のことだしね」
「いつもは弄ったりするのにこうゆう時はしっかりやる冬姫は偉いと思うし、そんな冬姫が俺は好きだよ」
「えへへ~♪アキに褒められた♪」
出来上がった途端に、何故か美味しい物と甘い物が一度に出来上がったけどどうゆうことかな?
いきなり、バカップル全開にされると俺と夏美がいたたまれないだろうが!
俺と夏美をよそに2人はカレーよりも熱い雰囲気出していた。
それは俺らのいない所でやってくれ。目も当てられんわ……夏美は顔真っ赤だしさ。
向こうも出来たようなので、お互いのカレーを持ってきたのはいいのだが判定する人を忘れていた。
どうしたものかと悩んでいたらとある人物が現れたのだ。
「その判定、俺らが承ろう」
「うひょ~、どっちも美味そうだな」
「げっ、杉下と鏑木」
現れたのは杉下と鏑木という男子生徒2人だった。
どうやら雪月花は2人の存在を知ってるらしく、露骨に嫌な顔をしていた。雪月花とこの2人ってなんか因縁でもあるのかな?と思ったら部室での会話を思い出す。
「もしかして、非公式新聞部?」
「いかにも我らが非公式新聞部である!」
非公式新聞部。それは、公式新聞部に対抗して作った部(同好会)らしいのだがやっていることは新聞を作ることではなく、ただ公式新聞部に喧嘩を売ってるだけらしい……雪月花談。
そんな訳で、突如現れた2人に判定をお願いするしかないので俺らは渋々了承をしたのだった。
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