第94話 納品

依頼人がいると言われる場所は周りのキャンプと比べてそれほど違いはない。

雑然と組まれた木組みの構造で、外から見えないように幕で囲っているのだけが違いだった。

これでは教えてもらわないとたどり着くのは無理だ。


ここではさすがに門番から誰何すいかがあったものの、オーク・エクスプレスの名前を伝えるとすぐに通してくれた。

「意外とガードが甘いな」

俺が言うと、

「オークにやられるようなボスではないんでしょ」

とパマーダが返した。それもそうだ。


「入れ!」

おそらくはその場所の主の声にしたがって、オレたちは奥の間へと入っていった。

そこには玉座を真似た粗末な椅子がしつらえてあり、一体のモンスターが腰掛けていた。

「デーモンか」

とマスキロが小声でつぶやいた。

依頼人はプエルトの料理対決で見たレッサー・デーモンとよく似ていた。ただしレッサーデーモンよりやや小さい。そしてちゃんと服を着ていた。

体から湧き出る雰囲気や近くで仕えるモンスターたちの様子から、デーモンはこのモンスター・キャンプの首領であるのは間違いない。


オレはマスキロに小声で話しかけた。

「マスキロ、デーモンって意外と小さいな」

「デーモンはグレードが上がるほど小さくなるのだ。しかしその戦闘力や凶悪さはそうではない」

マスキロが言った。


デーモンはオレたち一人一人をじろりと見回した。

「オーク・エクスプレスでは人間も配達員として使うようになったのか?」

「はい、経費節約のためでございます」

マスキロがそつなく答えた。

「ふむ、ここのモンスターは人間とオークの区別もつかんのか。まあよい」

デーモンはそう言いながら、納品物の品定めをし始めた。

「オーガー1体、確かに受け取った」

デーモンはオレたちに言った。


「代金はイマミアンド本店宛に手形を振り出しておく」

「手形? 振り出す?」

何のことか分かっていないオレをさえぎるように、あわててパマーダが割って入った。

「ありがとうございます。それで結構です」


オレはパマーダに小突かれ、余計なことは喋らないようにしようと思った。

その代わりゲネオスがデーモンに尋ねた。

「ところでこのオーガーを何に使うんですか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る