第83話 エルフの館、再び

エルフの館に着くと、メイドに簡単に事情を説明した。

あるじの死を聞いてショックを受けながらも、どこか安堵あんどしている様子が伺えた。

それはつまり、このメイドもオレ達が死ぬことに薄々気付いていたということになる。

「さて、ついては報酬を受け取りたいのですが」

ゲネオスが切り出すと、メイドは慌てて奥の部屋に引っ込んだ。


「サルダド」

オレは口を開いた。

「よく考えるとオレ達は警護のミッションをクリアーしていないよな」

「そもそも警護ではなかった上に、ボク達は大蠍おおさそりのエサにされかかったんだから、まあ報酬を貰う権利はあるんじゃない?」

「それもそうか」


メイドが小箱を持って戻ってきた。

宝石箱のようだ。

施されたエルフ細工と象眼ぞうがんにより、箱自体の価値も相当のものと思われた。

「主が報酬として宝石を示していたことは存じております。しかし私には宝石箱の開け方が分かりませんでした」

宝石箱には鍵穴は付いていない。しかし蓋はピッチリと閉じていて全く開かなかった。

解錠アンロック

マスキロがいきなり魔法を唱えた。

すると箱の一部が飛び出し、その後もあちらこちらから順番に突起物が現れた。

オレ達は目を見張った。

「箱に魔法はかかっておらんかった。エルフの細工だよ。もう箱は開いたはずだ」


オレ達は期待に胸を膨らませながら箱を開けた。

そこには指輪が一つだけ収められていた。

銀色の台座に大きな一粒の宝石がめ込まれている。

金目かねめの物はエルフ達が持ち出した後のようだな。おそらくこれはアクリスの私物だろう」

マスキロが言った。


「これだけ貰っておこうか。パマーダさん、どう?」

ゲネオスが言った。

オレの髪の毛の中でアクリスがガサガサと動いた。

パマーダは指輪を試していたが、しばらくして首を振った。

「これは多分男性用よ」

「じゃあサルダドが持ってたらどう?」

ゲネオスに促されて、オレは指輪を試してみた。

右手の人差し指にピッタリ収まった。

アクリスは静かになった。


エルフの館を後にして、ゲネオスとパマーダが話し始めた。

「命を賭けたミッションで指輪1個は安いね」

「そうね」

マスキロはオレだけに聞こえる声でこう言った。

「あの二人は、この指輪の価値を分かっておらん!」

パマーダが口を開いた。

「じゃあエルフの罪はエルフに請求するというのはどう?」

「ということは?」

次の行き先が決まった。

「山の城へ!」

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