第74話 母さまの死
アクリスの母さまは目に見えて弱っていった。
病気や怪我をしたわけではない。
母さまを襲ったのは”老い”であった。
アクリスは寝たきりの母さまをかいがいしく世話していた。
「アクリスや、お前はいくつになったの?」
「もう50歳よ、母さま」
「そう、あなたは変わらないねぇ。いつまでも私達の可愛いアクリスのまま」
「母さま、私はもうだいぶ前から大人ですよ」
50歳になっても、アクリスは少女の頃とまったく変わらなかった。
しかし子どもの頃一緒に遊んだ友達は、結婚し、子どもを作り、そして病気で死んだり、事故で亡くなったりする者もいた。
ある日の夜、母さまは息を引き取った。
光のない、暗い夜だ。
父さまは見回りに出ていていない。
覚悟はしていたのでアクリスに涙はなかった。
ただ母さまの隣でじっと座っていた。
アクリスは、自分が相当長く生きることを知っていた。たとえ有限の命であるにせよ。
それはつまり人生の大半を、母さまなしで生きなければならないということだった。
この先何十年も、何百年も。
窓の外がパッと明るくなった。
続いてモノが焦げた臭いや、人々の悲鳴が家の中に入り込んでいた。
家の扉がバタンと大きな音を立てて開いた。
「アクリス! すぐに家を出るんだ! モンスターだ!」
アクリスの父さまが家に駆け込んできた。
「父さま、母さまが亡くなって……」
父さまは母さまの遺体が横たわる寝床に目をやった。
しかし表情をゆがめながらアクリスに命じた。
「駄目だ。もう時間がない。このままにして行くんだ」
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