第65話 警護の依頼

「…………」

「サルダド、どうしたの?」

カウンターに正対せいたいして押し黙っているオレを見て、パマーダが声を掛けてきた。

「いや、この街は数年前に厳しい局面を経験していたんだなと思って。オレの故郷の城下町はそういったことはなかったから」

「確かに。最終的にモンスターは包囲を解いたとはいえ、かなりの人が命を落としたんでしょうね」

パマーダは続いて自分に向けて話すように言った。

「後でお墓参りに行きましょう」


バーのマスターが戻り、カウンター越しに再びオレ達の前に立った。

マスターはオレ達に声を掛けようとして、しかししばらく間を置いてから、ようやく意を決したように切り出した。

「アンタ達、冒険者なんだろ? お屋敷の方で警護の依頼が出てるぞ」

「警護の依頼?」

「ああ、アクネス様が砂漠の奥にあるほこら祈祷きとうに行くんだ。ただ街の周りはモンスターがウジャウジャいるから、腕の立つ冒険者をボディーガードとして雇いたいと」

「ふーん、この街にはそんな風習があるんだ」

パマーダが問い掛けると、マスターは少し慌てたように、

「いや、祈祷自体はアクネス様が屋敷に入られてから始まったんだ。ここ1年2年くらいの間にな」

と訂正した。


「どうする?」

オレはゲネオスに問い掛けた。

「そうだね、本当は山の城の方に行きたいんだけど、少し路銀ろぎんを稼いでおくのもありかもしれない」

ミラヤを言い値で買った張本人が経済的な切り口でコメントを返した。

「そうか、じゃあマスター、その依頼を受けたいと思うんだが、どうすればいいんだ?」

「小僧を一人屋敷に走らせるよ。そいつが言付ことづけを持って帰ってくるはずだ」


マスターは再びカウンターを離れ、お店の入り口まで行くと、扉を開けて何か手招きをした。

すると一人の少年がやってきた。

マスターは何事かその少年に伝え、銀貨を握らせた。

この銀貨はおそらく金貨になって、マスターの元に戻ってくるはずだ。

マスターは冒険者のブローカーフィーを受け取ることになるのだろう。

少年はすぐに走り出した。


少年が帰ってくるのを待つ間、オレ達は適当に飲み食いをして過ごした。

「アクリスっていうのはどんな人なんだろうね?」

ゲネオスが言った。

オレは特にアイディアが浮かばなかったのでその問いには答えず、酒場の中に目をやった。

少年が出て行ってから、何となく酒場の雰囲気が変わったような気がする。

それまでより客の声が大きくなり、笑い声も混じるようになった。

しかしオレと目が合うと、客は一様に目をそらせた。

「モンスターの集団に単身乗り込んだというくらいだから、相当肝のわった女性なんじゃない?」

パマーダがかなり遅れてからゲネオスの問いに答えた。


そこへ先ほどの少年が戻ってきた。

マスターに伝言を伝えると、すぐに店を出て行った。

マスターがオレ達のところに近付いてきた。

「すぐに来てほしいということだ。アクリス様がお会いになると」

「よし、じゃあ行こう」

オレ達はカウンターの席から腰を上げた。

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