砕魔のミョルニル

松山さくら

第1章 オーク退治

第1話 旅立ちの朝

「サルダドよ。遂に冒険者として旅立つ日がやってきた」


この国の若者はある年齢に達すると、冒険者として旅に出ることになっている。

今日はオレの誕生日。旅立ちの日だ。


「旅立ちの日には武器を渡すのがならわしだ。ついてきなさい」


父は家の地下室へと進んで行った。

地下室へ着くと、積み上げられたガラクタをどかし始めた。そうしてようやく一つの木箱を引っ張り出してきた。

箱を空けると、片手持ちのウォーハンマーが入っている。

「最初の武器が剣ではないんですね……」

「棍棒よりはマシだろう。それにこのウォーハンマーには名前が付いている」

「何という名前ですか?」

「ミョルニルだ」


ミョルニルとは、神トールが用いた鎚型のアーティファクトだ。その威力は凄まじくほとんどの魔物を一撃で倒したと言う。そのような神器がなぜ我が家に?

しかしオレの考えを見透かしたように、父はこう続けた。

「いやこのミョルニルにはそんな力はない。もしあればお前の先祖はとっくに王になっている」

「……」

「普通に持つ分には、これはただのウォーハンマーだ。ほれ、お前にも持てるだろう」

そう言うと父は、素手でミョルニルをつかんでオレに手渡した。

「素手で持ってもいいんですか?」

「当たり前だ。こうしている分にはただの金属製の金槌かなづちだからな」

ミョルニルは腕にズシリと響いた。


「しかしアーティファクトである以上、一つだけ特殊効果がある」

父の言葉にようやくオレは身を乗り出した。

「ミョルニルは投げると手元に戻ってくる。投げたあと、そのときのターゲットをくっつけて一緒に返ってくる」

効果を理解するのに少し時間がかかった。まず投げられて空中で回転するウォーハンマーを想像した。そしてウォーハンマーにくっついて運ばれるものを考えた。


少し間を置いて、オレが理解したと判断したのか、父は続けた。

「しかし条件がある。ターゲットは自分の目に見えているものだけに限られる。そしてミョルニルが運べるものは自分が持てる重さのものに限られる。なので自分の身体より大きい大岩を狙うと、大岩が戻ってくるまでに圧死するだろう」

重いものは駄目。しかし軽いものなら抵抗できない。アーティファクトの効果は絶対だ。

「それでも凄い効果だと思いますが。城の財宝も取り放題じゃないですか」

「お前は城の財宝を見たことがあるのか?」

確かにそうだ。お城の財宝を見るためには、城壁を越え、お城の中に入り、多分地下にでもあるような宝物庫に行かなければならない。宝物庫の前には、踏むとダメージを受ける床があってもおかしくない。


「うちは魔法使いの家系だから武器と言えばそれくらいしかない。しかし何かの役には立つだろう。剣が欲しければ自分で報酬を貯めて買いなさい」

父は続けた。

「お前はいくら教えても全く魔法を覚えなかった。だからお前は戦士としてやっていくしかない。勇者を見つけてパーティに入れてもらうのだ。勇者のほかには魔法使いと僧侶がお勧めだ。全員魔法が使える」


「街の酒場に行けば仲間が見つかるだろう。行け、サルダドよ!」

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