第1話 その高校生、大神悠夜


 ある1組の親子。


「おかあさん?なんであめはまっくろなの?」


 そう問いかける少女。

 母は答えた。


「神さまがイタズラした人に怒って泣いてるのよ」


 誰もこの事件の詳しい話は知らない。

 当時、町人には”鴉御家の次男・秀久が神の怒りに触れた”とだけ伝わり、その影響で非常に強い反発が起き鴉御家に非難が集まった。

 だが、今となっては小さい子には”神様にイタズラした人がいる”と教えるが、次第に鴉御家の名前を口にする者は少なくなっていった。




 場所は変わりここはある町のある高校のある教室、中では歴史の授業中。

 学校でも数年前から「黒雨事件」について取り扱うようになった。


「えー、黒雨事件について皆さんは知ってることはありますか?」


 教壇に立ち質問を投げかける年老いた教師が1人。


「あれだろ?神様を怒らせたとかそんなんだろ?」

「そうそう!お金持ちがなんかしちゃったんだよね?」


 若い子供たちはこの事件に興味はない。

 "金持ち"が"神様を怒らせた"この2つのワードしか知らない事がその証拠だ。

 だが1人の高校生が質問を飛ばす。


「その金持ちは神様に一体何をしたんですか?」


 彼は、大神 悠夜(オオガミ ユウヤ)だ。

 彼は他の誰よりも黒雨事件について気になっていた。

 理由はわからないが、何故か気になっているようだ。


「いや、それについては……」


 先生は何かを言おうとして飲み込んだ。



 しかし再び口を開いた。


「皆さんは鴉御家というのはご存知かな?この国に長く続いた大財閥なんだが…」


 急に声のトーンが変わり周りは少しざわついている。

 それもそうだ、鴉御家と言えばこの町で知らないものはいないぐらいのお金持ちだ。

 続けて先生はこう続けた。


「どうやらその鴉御家が神様の選ばれしモ…」


 その時、勢いよくドアが開き教室の視線が一気にそちらに向いた。


「先生、その話はその辺りにしときましょうか」


 開いたドアの前に立っていたのは校長だった。

 穏やかに笑っているように見えたその顔だが、目の奥は鋭い物を感じどこか恐ろしさを感じる。

 先生は小さく頷いたまま下を向いている。


「あとで校長室に来てください。皆さん、何も聞かなかった事に。いいですね?」


 そう言うと校長は教室を後にした。


「それじゃあ授業の続きをしますか、えー教科書の57ページを開いてください」


 何事もなく授業を再開する先生。動揺するクラスメートからはざわめきが止まらない。


「先生!!さっきの話の続きはなんなんですか!?」


 悠夜は立ち上がり先生に問いかけた。

 今大きな一歩を踏み入れようとした、暗い闇の中に光が差し込もうとした、だからこれを逃してはならない。直感で悠夜は思った。


「さっきの話は忘れてくれ、すまない」


 しかし先生に悠夜の熱量は届かず、また暗い闇の中に引き戻された。

 そして何事もなかったかのようにいつも通りの授業に戻った。



 休み時間、クラスメートがヒソヒソと話をしてる。


「やっぱり大神って変わってるよなぁ…」

「わかるわかる〜何考えてるかわかんないよねぇ」


 悠夜はこの学校内で気味悪がられている。

 なぜなら、この町の人間は黒雨事件などどうでも良いと考えているからだ。

 鴉御家が全て悪い、そしてその鴉御家がいなくなった今誰も興味がなくなりどうしようもないからだ。

 しかし、そんな悠夜にも友達はいる。


「よう!さっきの話なんだったんだろうな?」


 話しかけてきたのは智史。

 悠夜の親友で、唯一彼の黒い雨好きに理解を示してくれるがとてつもないバカだ。


「先生何か言おうとしてたよな?」


 智史は黒雨事件については興味がない。

 だが、こうやって悠夜と話すきっかけを作っている。きっといい奴なんだろうと悠夜は信頼を置いている。


「くそっ!気になるなー!何言おうとしてたんだろ」


 すると智史はその性格とは真逆の悪い顔をしながら言った。


「ちょっと校長室行ってみるか?」


 なんとも直球な提案だったが、悠夜はそれはそれでアリだなと思い校長室に行く事にした。


 悠夜達はコソコソと校長室の前に陣取り、ドアに耳を当てる。バレたらやばいが、それよりも興味が勝った。

 耳を澄ませると会話が聞こえる。それはやはり先生と校長だった。


「先生、困るよ。ああ言うことを勝手にやられちゃねぇ」

「はい、すみません。やはり本当の事を教えるべきかと思い…」

「そんな事をして学校の評判でも落としたらどうするつもりだ!!」

「そ、それは……」

「君は……明日から校内の掃除でもしてなさい」


 先生は謝り倒してはいたが、校長は一歩も引かないというような態度だった。


「おい、なんかヤベェよな?」


 智史はバカだがこういう雰囲気は分かるようだ。


「あぁ、そろそろ休み時間も終わるし戻るか」


 悠夜達は、バレる事なく教室へ戻れたのでこのミッションは大成功だ。


 いつも通り1日が終わる。

 ただ次の日、やはり先生は教室に現れなかった。

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