FILE7「膝上五センチの潜入」

「な、何でボクがこんなの着なくちゃなんないんだよ……っ!」


「だからって男装するわけにもいかねーだろ。校則だ校則」


 必要以上に短く感じるスカートを抑えて恥ずかしがるボクに、家綱は意地の悪いにやけ顔を見せつけてくる。どんな表情であり、家綱に見られていること事態恥ずかしくて余計体温が上昇したような気さえしてくる。


「大体っ……短すぎるだろこれ! 校則どうなってんだよ!」


 大体膝上五センチくらいだろうか。実家で普通にスカートを履いていた時は落ち着いた服装の時が多かったせいで、ここまで短いのは本当に初めてだった。


「大丈夫ですよ、短い人はそれより更に十センチくらい短い人も結構いますけど校則の範囲内です!」


「くっ……感性が違う……!」


 というかこのスカートより丈の短いスカートで歩く子がいたところでボクには何も関係がない。恥ずかしいことには全く変わりがないのだ。


「こ、これじゃまるで……女装してるみたいじゃないか……!」


 ひとまずソファに座ってはみたけど、全く落ち着かない。いっそのこと中にハーフパンツかスパッツでも履いてしまった方が良いかも知れない。


「ま、普段が普段だしな……。しかしアレだな、馬子にも衣装っつーか……うん、良いんじゃねえか?」


「えっ……あ……って誰が馬子だよ馬面!」


 いつもならすぐに言い返してくるんだけど、ボクがこんな様子なので家綱は余裕たっぷりに笑って見せる。そしてポケットから古い機種のデジカメを取り出して即座にシャッターを切りやがった。


「記念に一枚……っと」


「あっ……!」


「わり、ちょっとブレたわ」


 そう言って家綱が見せてきたデジカメの画面内には、ややブレてはいるものの紺のブレザーに赤いチェックのミニスカートという出で立ちのボクが、真っ赤な顔でソファに座っている姿が映されている。


「撮るなぁーっ!」


 思わず殴ってしまうボクだった。










 時間は少し遡って、ボクが写真を撮られる大体一時間程前。


 いつも通り事務所で適当に時間を過ごしていると、数日ぶりに依頼人が現れた。罷波市内にある私立高校、野々乃木のののぎ学園の制服を来た彼女、忌野才華いまわのさいかさんからの依頼は、行方不明になっている友人を捜して欲しい、というものだった。


 来客用のソファに向かい合って座り、忌野さんは依頼内容について落ち着いた様子で語っていた。だけど、やっぱり不安みたいで所々声が震えているのがわかる。


 忌野さんはウェーブのかかった長い黒髪の大人しそうな女の子で、ボクと背格好は変わらない。野々乃木学園と言えば学費が高く、お金持ちが通っていることで有名な学校だ。


 余談だけど、ボクはあのまま実家にいたら多分野々乃木進学ルートを歩いていたと思う。


「それで、警察にはもう通報を?」


 話をひとしきり聴いてから家綱が問うと、忌野さんは静かに頷く。


「ですがあまり進展がないまま行方不明者が増える一方で……」


 忌野さんが捜しているという友人――百瀬千代ももせちよさん以外にも、行方不明者は何人か出ているらしい。その上全員が女子生徒ばかりだというのだ。


「その失踪した女子生徒に共通点は?」


 ボクが聞いてみると、忌野さんは少しだけ間を置いてから頷いて見せる。


「……あります」


 そう言って忌野さんが取り出したのは、綺麗なライトピンクのスマートフォンだった。


「お、おお……!」


 ちなみに家綱はスマホの実物をほとんど見たことがない。でも恥ずかしいからそのリアクションはほんとにやめてほしかった。


「……アレが“すまほ”か」


「おじいちゃんかよ。パチンコと競馬やめたら購入検討してあげるよ」


 小声で唸る家綱をよそに、忌野さんは慣れた手つきでスマホを操作し、一枚の画像を僕達に見せてくれる。


「この人は……?」


 画面に映されていたのは、野々乃木学園の男子生徒だ。短髪で爽やかな顔立ちの少年で、晴義に負けず劣らずのイケメンぶりだ。ちょっと綺麗過ぎる晴義と違って、彼はスポーツ選手みたいな溌剌さがある。


 あ、家綱の舌打ちが聞こえた。


宮瓦幸助みやがわらこうすけ君……私のクラスメイトです。私はあんまり興味がないんですが、女子生徒に異常な程モテてて……。親衛隊があるとかなんとか」


「親衛隊って……そんな漫画みたいなことあるんですね……」


「ええ、私も驚きました……」


 依頼人の前だからある程度抑えてるつもりなんだろうけど、家綱の眉間にはしわが寄っていた。ほんと今日こいつ恥ずかしいなと思ったけど、そう珍しいことでもないか……悲しいことに。


「それでですね、今回失踪事件に遭っている女子生徒……千代を含む全員が、宮瓦君に好意を持っているという噂があったんです」


 忌野さんがそう言った瞬間、深く家綱が頷いて見せる。


宮瓦そいつが犯人だ。間違いない。通報するぞ」


「いや早いよ! お前今宮瓦君がイケメンってだけで犯人扱いしただろ!」


「良いか由乃。ああいうのにはいずれ裁きが下るべきなんだ。晴義もいずれ裁かれる」


「意味わかんないし最悪裁かれるのはお前だからな!」


 ……まあもしかすると晴義は裁かれるかも知れない。場合によっては。


「……うん、話戻そうか」


 電話機の方へ向かおうとした家綱を何とかソファに座らせ、ボクは一息吐く。


「あの……受けていただけるんでしょうか?」


 忌野さんが少し心配そうにそう言うと、家綱はああ、と短く答えた。


「あ、ありがとうございます……!」


「ここ最近は犬猫探しばっかで退屈してたところだしな」


 そういえば招原さんの依頼が終わって以来、ペット探しの依頼ばっかりだったっけ……。そんなことをぼんやり思っていると、忌野さんは持っていたバッグからごそごそと何か取り出し始める。そして丁寧に机の上に置かれたソレを見て、ボクと家綱は口をあんぐりと開けた。


「あの、百万くらいで大丈夫でしょうか? もう少し必要ですか? 持ち合わせがこのくらいしかないのですが、後でお父様にお願いして持ってくる形になるのですが……」


 ボクも家綱も、まともに返答が出来ない。実物の札束を前にして、まだ何もされてないのにもう殴られたみたいな気分だ。思わず家綱と顔を見合わせると、口を開けたまま目を見開く家綱の間抜け面とご対面することになる。勿論ボクも似たような顔だった。


「……あっ! そうですよね! 現金ではなく、口座に振り込むべきですよね! ごめんなさい! 口座番号を教えていただければすぐにでもお振り込みいたします!」


「いや、待て、そうじゃない」


 慌てて止める家綱に、忌野さんはキョトンとした顔を見せる。だめだこの人感性が違う。


 今まで良心的な値段でやってきたこの探偵事務所で、五十万という値段は中々見られない値段だった。普通の探偵事務所なら万単位のお金を取る依頼を、ボクらの事務所はその半額くらいでやるようにしている。誰でも気軽に頼れる探偵、というのがボクらのコンセプトなんだけど、それが逆に胡散臭くて依頼人が来ないみたい。


「……わかった、宮瓦は必ず俺達が捕まえる。アイツが犯人だ、俺の推理は当たる」


 金に目がくらんだ探偵、推理が雑。


「だから犯人決めつけんなってば! ていうか事件が学校の中だとしたら、どうやって調査するのさ?」


 ボクの問いに、家綱は一瞬考え込むような顔をしたものの、すぐにニヤリと笑ってボクを見つめる。


「なぁに、潜入調査すりゃ良いだけだ。だろ、由乃」


「…………げっ」


 そしてボク史上最も恥ずかしい調査が始まるのだった。










 そして話は冒頭に戻る。


 家綱の計画は簡単だ。ボクを変装(制服着るだけだけど)させて、野々乃木学園で潜入調査をする。ボクの羞恥心は考慮しない。


 忌野さんの父親は野々乃木学園理事長の親友らしく、一時的に編入させること自体はあまり難しくないらしい。最初は制服をボク用に注文してくれる、という話だったけど、流石に申し訳なかったのと、ボクと忌野さんの背格好が同じくらいだったので予備の制服を借りることになった。


 そして忌野さんの提案で今サイズが合うか確認しましょう、と随分弾んだ声で言われてしまい、さっきまで忌野さんが着ていた制服をボクが着るはめになった。ちなみに忌野さんにはボクのいつもの私服を貸している。


「と、とりあえずいボクが行くのは良いよ、わかった。でも、家綱はどうするんだよ……。ボクだけ行っても仕方ないだろ……」


「ああ。それについては…………あー、アイツ呼ぶか」


 アイツ……ああ、アイツか。


「そんな嫌そうな顔すんなって。そんなに悪い奴じゃない……と思う」


 嫌そうな顔をするボクに、家綱はそんなことを言いながら苦笑した。










 私立野々乃木高校は、罷波町にある私立高校で、お金持ちばかりが通っていることで有名な高校だ。入学金や授業料などが馬鹿高い代わりに、お金の力で生徒の様々な可能性を全力で引き伸ばすという校風で、多種多様な学科が存在する。忌野さんや百瀬さんがいるのは普通科なので、当然ボクらも普通科に編入することになる。


 お金持ちの学校、と言えば結構荘厳な校舎を想像してしまいがちだけど、ここは雰囲気自体はそこまで特別でもない。建物が少し大きいかな、と感じるくらいで、歩いている生徒もわりと普通に見える。


「あら、話に聞くより随分と貧相な建物ですわね」


 偉そうにふんぞり返って腕を組み、ふん、と小さく鼻を鳴らす少女を見て、ボクは大きなため息を吐く。


「じゃあどのくらい大きけりゃ満足なのさ……」


「プラハ城くらいで許してさしあげますわ」


 世界最大にして最古をつかまえて妥協点ときたか。


「ふふふ……高貴なる姫を迎える城はそれくらいでなくてはなりませんわ」


 そんなふざけたことを抜かしながら、右手で左頬に指先を当てて、おーっほっほっほなどとギャグみたいな笑い方をしているのは、信じられないことにあの家綱の人格の内の一人である。彼女の名はロザリー――自称姫である。


 いかにも、と言った感じでキッと釣り上がった目に、真っ白できめ細やかな肌。長い金髪は左右に別れて見事な縦ロールを形成している。姫カットで縦ロールで色白でおーっほっほっほな彼女は、お嬢様っぽいイメージをこれでもかと言う程兼ね備えている。やり過ぎだ、お嬢様キャラの数え役満だ。


「はいはい、それじゃあ姫様はこの学校への編入はおやめになられるのでいらっしゃいますかね」


「そうですわねぇ。この程度ではわたくしには釣り合わないというか――」


「そっか。じゃあ家綱にはボクから伝えておくから、帰り気をつけてね」


 疲れる、と顔全体で表現しながらボクが適当に手を振ってから背を向けると、小さな声で、えっ、と聞こえてくる。それを無視してボクが校門から学校へ入って行こうとすると、慌てて追いかける足音が聞こえてくる。


「ま、まあ少しくらいは付き合って差し上げても構いませんわ。そうですわね、由乃の口から頼んでいただければそれで結構でしてよ」


「…………」


「……か、帰りますわよ!? わたくし本当に帰りますわよ!」


「……じゃ、お願い」


「ふふ、それなら付き合って差し上げますわ!」


 うん、疲れる。










 ボクらが編入したのは二年A組。成績優秀な生徒が集まるクラスで、中には貧乏人だけど成績優秀だから特待生として入学した、という生徒も数名いる。金持ちっぽい雰囲気の子が多い中、どこにでもいそうな感じの地味な子が数人いるのはそのせいだろうか。


「えー今日からしばらくこのクラスで一緒に勉強することになった、ロザリー・ド・ラ・パトリエールさんと」


 長いな偽名。


「和登由乃さんだ」


 横にロザリー・ド・ラ・パトリエールさん(偽名)がいらっしゃるせいで浮きまくっているのが地味に辛い。


 その後、担当教員によって簡単に説明(ボクとロザリーは海外に住んでいて、今は忌野さんの家にホームステイしているという設定)されたけど、明らかに日本人のボクを見て生徒は怪訝そうな顔をしている。ボクについては色々事情がある、と教員が説明したせいで変な想像をしたであろう人達が憐れむような視線を向け始めた。


「……和登、大変だと思うが応援してるぞ」


「あ、え、はい……」


 忌野さんは一体どういう説明したのこれ。


「応援してますわよ」


 やかましいわ。


 適当に自己紹介をすませたボク達は、奥の方に用意されていた空席に並んで座る。ボク達が座った二席の他にも四席、空席があった。恐らくそれらは百瀬さんを含む失踪事件の被害者達の席だろう。


 そして問題の宮瓦は――


「始めまして。和登さんに……えぇーっと、何て呼べば良いのかな、パトリエールさん? よろしく」


 ボクらの前の席だった。






 HRが終わった途端、ボクらはクラス内のほとんどの生徒に囲まれて質問攻めにあった。ボロを出しそうになるロザリーを止めつつ嘘の設定を語り、質問攻めを何とか切り抜けていると、集まっている生徒達をかきわけ、一人の女子生徒がボクとロザリーの席の前に立った。


「ちょっと、あなた達!」


 甲高い声でそう言われ、思わずボクは肩をビクつかせてしまう。


「えっと、和登さん、パトリエールさん、また後でね……」


 集まっていた生徒の一人がそう言ってそそくさと立ち去って行くと、他の生徒も逃げるようにしてその場から去って行く。


「私は濱野浜瑞希はまのはまみずきです。あなた達にはまずこのクラスのルールを説明させてもらいます」


 茶髪ロングヘアの少女で、釣り目も金持ちオーラもロザリーに負けず劣らず、といった感じの子だ。


 この高圧的な態度から察するに、恐らくスクールカースト上位に位置する生徒だろう。やや睨むような視線には反感を覚えてしまうけど、衝突は避けた方が無難だろう。


「何ですか、その態度は」


 濱野濱さんに対して反抗的な目を向けるロザリーに、カチンと来たのか濱野浜さんはロザリーを睨みつける。ここは何とかやり過ごしてほしい、と何とかアイコンタクトを送ったんだけど、それで伝わるなら苦労はしない。


「あら、わたくしはありませんわ。口の利き方のわからない方とお話することは一つもなくってよ。マナー知らずのお猿さんはお山に帰って放屁でもなさい」


 やっぱり衝突は避けられなかったよ……。


「ちょ、ちょっと何考えてるんだよ! メチャメチャ丁寧な言い方で山に帰って屁でもこいてろ猿だなんて!」


 ボクがそう言った瞬間、ロザリーではなくボクの机が勢い良く叩かれる。


「ご親切に要約してくださってありがとうございます、和登由乃さん?」


「ひえっ……」


 ブチギレたっぽい濱野浜さんの表情が、あまりにも怖くて情けない声を上げるボクだったけど、ロザリーの方は屁でもないと言った感じだ。


「あらお気に触ったかしら? わたくし下層階級の方とはどう接すれば良いのかわかりあませんの」


「……だったらあなたはなんだっていうのかしら……?」


「姫ですわ」


 姫は人に猿とか放屁とか言わない。いや……幻想なのか……? ボクが幼いころに本で見たお姫様はみんな癇に障ると放屁とか猿とか言ってたのか……?


「……とにかく、このクラスでは……いえ、この学校ではルールを守っていただきます」


「そ、それってあの……校則とは別に、ですか……?」


「ええ、そうですよ”お猿さん”」


 言ったのボクじゃないんだけどなぁ。


「私は宮瓦君親衛隊の総隊長です。今後宮瓦君に話しかける時は必ず私か、親衛隊隊長クラスの人間に許可を取るように、良いですね?」


 メチャクチャな話だったけど、早くも宮瓦親衛隊が実在することは確認出来た。親衛隊とか総隊長とか、本気で言い出す人いるんだ……。


「いつ誰と喋ろうとわたくしの――」


「あーー! はい! わかった! よくわかりました! ね、ロザリー!」


 何か言い返そうとするロザリーの口を何とか押さえ込み、慌ててボクは何度も頷いて見せる。濱野浜さんは訝しげな顔をしてたけど、小さく息を吐いてから、なら良いです、と告げて去って行く。


 濱野浜さんが自分の席に戻っていったのを確認してからボクがロザリーの口から手を放すと、案の定睨まれた。


「由乃! どうしてわたくしが口を塞がれなくてはなりませんの! あんな横暴なお猿の要求を飲むなんてあり得ませんわ!」


「気持ちはわからないでもないけど変に揉め事起こさないでよ! ……調査で来てるんだよ、ボク達は」


 そう耳打ちすると、ロザリーは途端に得意げな顔を見せる。そしてどこからかヨーロッパ風の豪奢な扇子を取り出してドヤ顔のまま自分を扇ぎ始めた


「でしたら、もうとっくに調査は終わってますわ」


「……え?」


「犯人はあの女ですわ」


「早いよ! ロザリーも家綱も、気に入らなかっただけで犯人扱いするなよ!」


 案外、家綱とロザリーは似た者同士なのかも知れない。












 その後は普通に授業が始まったんだけど、結構レベルの高いことを教えているようで何とかついていくのがやっとだった。ロザリーは聞いてるんだか聞いてないんだかよくわからなかったけど、一々ロザリーのことを気にしていられる程ボクに余裕はなかった。


 授業を終えた後、休憩の間に少し見て回ろう、という話になってボクとロザリーが廊下を歩いていると、セミロングヘアの地味めな生徒がボク達の方へ歩いてくる。


「大丈夫だった?」


「大丈夫って?」


 急に言われて何のことかわからずにボクが問い返すと、彼女は少し躊躇いがちに答えた。


「濱野浜……さん」


 とってつけたように“さん”を付け、彼女は顔をしかめる。もしかすると濱野浜さんのことを良く思っていないのかも知れない。気持ちはまあわからないでもないけど。


「何の心配もありませんわ。わたくし達とあのお猿さんでは格が違いますもの」


 ボクをついでに巻き込むんじゃない。


「そうだよね。安心した。あの馬鹿女……まるで宮瓦君を自分の物みたいに……っ!」


 不意に、彼女の言葉に怒気が込められる。何とか押さえ込んでいるようではあったけど、瞳に宿る嫉妬の炎は燃え盛っている。


「あの……濱野浜さんと何かあったの? 良ければ聞かせてほしいんだけど……」


 彼女の勢いにやや押され、おずおずとボクが問うと彼女はハッとなったような顔でごめんね、と呟く。


「そうだよね、転校してきたばかりだもんね……」


「まあ、大体わかりましたわ」


 得意げにそんなことをのたまうロザリーに、嘘つけ、と言おうとしたけど遮るようにしてロザリーがそのまま言葉を続ける。


「大方、親衛隊とそれ以外の宮瓦ファンの間に軋轢でもあるのでしょう。あなたは親衛隊のメンバーではありませんわね? でしたら、あのお猿さんの横暴が許せないのではなくって?」


 ロザリーの問いに、彼女は呆気にとられたようにポカンとする。それから数瞬停止した後、彼女は小さく頷いて見せた。


「は、はい……その通りです! 私……ううん、私の他にも何人もいるんですけど、横暴な濱野浜達が許せないんです!」


 あれ、ロザリーには敬語だ……。


 それはさておき、ロザリーの言ったことはほとんど当たっているようで、それには少し驚いた。特に何も考えていないようで意外と今回の依頼について真面目に考えてくれているのかも知れない。


「でも、濱野浜の言う通りにするのは嫌だと思いますけど、本当に宮瓦君へは……近づかない方が良いかも知れませんよ」


 警告するようにそう言い残して、彼女は教室へと戻っていく。時計を見れば、そろそろ二時間目が始まる頃合いだ。


「あ、名前聞いておけば良かったな……同じクラスだよね?」


仙道奈尋せんどうなひろ。特待生ですわ」


「え、何で知ってるの?」


「クラス名簿くらい、ここに来る前に目を通しましたわ。何人かくらいは顔と名前が私にもわかりますわ」


 フフンと得意げに、ロザリーは微笑む。調査に関しては意外と協力的で安心した。


「そういえばさっき、何でわかったの?」


 確かに彼女――仙道さんの様子や濱野浜さんの態度を見ていればある程度察しがつくかも知れないけど、気になったので一応聞いてみる。すると、ロザリーはまたしても得意げに微笑んで見せた。


「勘、ですわ」


 ……勘かぁ。






 休憩の度になるべく目立たないよう色んな生徒に聞き込みをしたけど、あまり大きな情報は得られなかった。失踪事件のこと、被害者が全員宮瓦に好意を抱いているという噂があったこと、百瀬さんの他に三人の生徒が失踪していること。忌野さんに聞いた以上の情報は得られない。やはりここは宮瓦本人の話を聞いてみよう、ということになり、ボクとロザリーは一応濱野浜さんに許可を取り(頭を下げたのはボクだけだけど)、宮瓦に事件のことについて聞いてみることにした。




「許せないよね」


 ボク達の話を聞くと、宮瓦は眉間にしわを寄せ、真剣な表情でそう言った。


「もしそれが誰かが拉致したりして、彼女達が失踪したのなら許せないよ俺。一人や二人なら偶然ってこともあると思うけど、四人も失踪してるなら、事件だと疑われて当然だよね。俺も、これは事件だと思ってる」


「だよね……。何か知ってることないかな?」


 ボクが問うと、宮瓦はいや、と首を左右に振る。


「誰か捜している人がいるのかい?」


「うん。忌野さんの友達の……百瀬さんが被害者なんだ。ホームステイもさせてもらってるし、何とか忌野さんの力になりたいんだけど……」


「そっか……。うん、そうだよね。俺も協力するよ。親衛隊の子達がうるさいだろーけど、あれは俺が作ったわけじゃないし、非公式だし。関係ないさ」


 そう言ってニカッと笑った彼の表情は本当に爽やかで、親衛隊まで出来た理由が、少しだけわかった気がした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る