第20話動き始めた美優

「何かかつみさんで覚えている事は有りませんか?」

「簡単な履歴書を書く時、本当の事を書くのか?と尋ねられたので、都合が悪いなら適当に書いて下さいと言いましたよ、しばらく考えて書いていましたが、話し方とかで相当頭の良い子だと思いました」

「それで加山さんに勧めたのですね」

「ど素人の子だったので、安心出来る叔父さんを数人紹介しました、その人達は気に要って何度かかつみさんを指名してくれたと思いますよ」

「その人の事覚えていますか?」

「はい、覚えていますよ、関西から来られる北畠さんと名古屋の赤木さんですが、本名かは判りませんね」

「店に聞けば携帯番号が判りますから警察で調べますが、かつみさんで他に覚えている事は有りますか?」

「短い期間で、面接の時に話した程度で、それ以外はメールか電話のやり取りですからね、ドライバーの方が女の子とは話す事が多いですね」

「ドライバーってホテルとかに送る人ですね」

二人は都合でまた聞かせて下さいと言って、旅館を後に県警に戻り赤木と北畠の携帯番号を尋ねた。

名古屋の赤木は本名を赤沢と云うが、昨年夏肺癌で他界していた。

もう一人の北畠は携帯の名義人は、北村工業で社長の北村利一が持っていた物だが、昨年海外旅行中に事故で亡く成っていた。

「何処に旅行していたのだ?」横溝課長が伊藤に尋ねると「中国です、十一月の大連だと社員が話してくれました」

「二人の携帯にそのかつみとの交信が無いか、通話記録を調べてみなさい」

横溝捜査一課長も事件の進展に苛立ちを隠せない。

「政治家との接点は見つかったのか?」

「初島に桂木常務が行ったのが、女と楽しむだけなのか?初島カジノ構想の為なのか?まだ決定的な証拠は有りません、参議院議員の猿橋が旗を振っている程度です」

「それは以前からだろう?他に誰か有力な人物が絡んでいなければ、成り立たない話しだ、静岡県選出の国会議員全員の調査をして、実体を掴む様に!」横溝捜査一課長は檄を飛ばした。


自宅に帰った一平に美優が「お母さんにもう一度来て貰って美加をお願いして、私が東京を調べて来ます」

「えー、刑事四人が調べて判らない事を美優一人で判るの?」

「日帰りで帰って来るから、朝早く来て貰ってね」

「何を調べに行くの?」

「メゾンむらさき308号に決まっているわ」

「須藤瑠衣の住まいか?」

一平は北畠と赤木の事を説明して、美優の反応を確かめる。

「ドライバー見つかったの?」

「当時のドライバーはもう誰も残って居なかった、おまけに住所も転居していた!バイト感覚の人が多くて女の子と同じで短いらしい」

「じゃあ、手掛かり無しね」

「お袋に尋ねてみるよ!成果は期待出来ないけれど、間抜けの旦那さんだからな」

「根に持っているのね、事件を解決するのが一番よ!元気を出しなさい!」

そう言って頬にキスをする美優。


翌日、国会議員の調査をしていた刑事が、熱海にカジノが本当に来るかも知れないぞと言った衆議院議員が居たと聞き込んできた。

田辺茂議員の周辺で聞き込んで来たと言う。

噂の話しですが、大手の商社が中心に成って根回しを行なっていたと云う。

「大手の商社、東南物産で保々間違い無いだろう?」

「数人の議員がこの件に首を突っ込んで居る様です」

「田辺議員は蚊帳の外か?」佐山刑事が尋ねる。

「どうやら、その様ですね」

田辺議員は人民党では無いので、相手にされていないのは当然なのだが、改新党に情報が漏れている事実は本当なのか?自分達も全く知らないカジノ構想が進んでいる事に困惑している佐山刑事。

人民党の議員を中心にカジノ構想が進んでいるのなら、本当に実現されていた?

桂木常務が亡く成っては、その構想も立ち消え状態に成ったのだろうか?

だがそのカジノ構想で殺人が次々と起るとも考えられないが?

具体的には何も発表が無いのに、いきなり殺人事件が起る事は、捜査一課を混乱させていた。


数日後、東京に向かう日が決まって武蔵小杉の宮本家に訪問の電話をした。

「えっ、静岡県警の方がまた来られるのですか?私共に何か疑いでもあるのでしょうか?」不機嫌そうな声に「静岡県警としてお伺いするのでは有りません、先日お伺いした野平刑事の妻としてお伺いしたいのです」

「刑事の妻?。。。もしかして週刊誌に載っていた美人妻の静岡県警の美優さんでしょうか!」

「宮本の妻の声のトーンが変わった」

「どうしましょう?えっ、私インタビューでも聞かれるのかしら?」急に興奮気味の声に変わって「是非お越し下さい、サインも頂けます?」

「は、はあ!」

「近所の人も呼ばなくちゃ!有名人!わあー大変だ、あの時の刑事さんが間抜け、、、ごめんなさい御主人ね」そわそわと自分だけが喋る。

「明日午後お伺い致します」で電話を終わるが、明日はひと騒動起りそうな予感がしている美優。

だが反面何か新しい発見が有る可能性も期待出来ると思っていた。


その日の夕方捜査本部で大きな動きが起っていた。

ラブホテルの調査を地道に行なっていたチームが、ニシジマの提携先のラブホテルを一軒ずつ調べていて、神奈川県の厚木のラブホテルで防犯カメラに、意外な人物の画像を発見。

捜査本部は俄に騒がしく成っていた。

「このカップルは予想していなかったな」

「はい、一瞬目を疑いましたが、鮮明に写っているので間違い無いですね」

「明日事情を聞きに迎え!」横溝捜査一課長は事件の新たな進展を期待した。

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