第56話 魔王様、チッパイ極道双子組の訪問に物理的結界をはられる
小学校最後の夏休みまでの期間とは色々と忙しいもので、結局原田ハガネの問題は勇者に丸投げした。
今のところ落ち着いているようなので、我達が手を出すことはしなくて良いだろう。
問題は、夏休みに入る頃、我と勇者と血の繋がった裏社会生まれの裏社会育ちである僧侶と武道家が一緒に住み始めると言う恐怖が待っているのである。
まだ日にちはあるにせよ、万全の体制で挑まねば我のようなか弱き魔王など一瞬にして食い尽くされてしまうであろう。
それほどまでに、あの肉食系チッパイ姉妹は恐ろしいのだ。
ジワジワとXデーが近づく中、魔法使いが我の元へと訪れた。
「さっき叔母さんが話してたけど、明日の朝には武道家と僧侶が到着するらしいよ」
「なんですって!? 予定では来週の筈ですよ!」
驚愕の表情で魔法使いに伝えるも、魔法使いは我の肩にポンと手を置いて小さく首を横に振った。
「逃げれば追う、獲物が美味しければ美味しいほど、あの二人はどこまでも追いかけてくるよ……」
「魔王のどこが美味しいんですか……」
「まぁ、ご飯は美味しいよね」
「そこは否定致しませんが」
「美味しいご飯は全てにおいて正義なんだよ」
何度も頷きながら自分だけで納得している魔法使いだが、確かに元いた世界……オル・ディールでは美味しい食事と言うものは無かったと思う。
無論人間の方でも同じようなもので、この異世界では当たり前に売っている塩や砂糖、その他の胡椒などといったものは高価であったと勇者から聞いている。
それを思えば、この異世界に溢れる香辛料の多さや最高品質といって過言では無い砂糖や塩をふんだんに使った料理と言うのは贅沢品であろう。
また、この異世界……特に我達が転生してきた『日本』と言う場所に置いて、辛みや甘みと行った味だけでは無く『うま味』と言うものもある。
我も勇者もだが、このうま味は本当に自分たちの『日本人』に生まれた性なのか、特に美味しく感じるのだ。
それらを味わうことが出来る味噌汁や煮物と言うのは日本食の代表的なものと言って過言では無いだろう。
「つまり、あの二人にとってうま味こそが正義なのかもしれないね」
「なるほど」
「僕も女の子だったら魔王に胃袋を捕まれてたかもしれないなぁ」
「魔法使いさんが敵にまわったら最悪の布陣になりますので男性で良かったです」
「あはは!」
ゲンナリしながら溜息を吐くと、明日に迫ったXデーに胃がキリキリと痛んだ。
別に我は女嫌いでは無いし、愛しい聖女と言う将来の妻がいる。
しかしだ、チッパイ極道組は肉食系である。
魔王が草食……なんて、威厳もへったくれも無い。
魔王とは堂々としていて然るべきである。
――だが、男の本能的に危険な女子と言うのは避けたくなる生き物なのだ。
しかし急遽明日に迫ったXデーの為にもやるべき事は限られている。部屋に鍵をかける事も忘れてはならない。寝込みを襲われて、こちらが何もして無くとも既成事実を作られては堪ったものでは無い。
幸い二人の泊まる部屋は我と魔法使い、そして勇者とは離れた場所にあるとはいえ、勇者の部屋に入り浸ることも考えれば徹底した結界は必要である。
――ドア鈴をつけるべきか。
防犯に適しているドア鈴は結構重要だ。
明日に迫るXデーに備え、ドア鈴を購入していた我は急ぎ部屋のドアにつけるべく電動ドライバーも持ち出した。
必死に物理的な結界を用意する姿を見つめる魔法使いは「モテる男は大変だね。罪作りな男とも言えるよ」と呆れていた。
「私は魔王でありながら僧侶ですよ?変な噂が出れば寺の恥。ひいては魔王としての威厳が損なわれます。それだけは絶対に避けねばなりません」
「寺の跡継ぎってのも大変だね」
「ええ。気を抜けない場合も多いですよ」
「確かにね」
こうして部屋にドア鈴を装着し鍵も3重にかけることでチッパイ肉食女子への対応は第一段階としては出来上がったと言えるでしょう。あとは追々追加していけばなんとかなりそうである。
さて、明日のXデー……気合いで乗り切ることにしましょう。
彼女たちが寺から去るその時まで――我の戦いが始まるのである。
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