第53話 魔王様、仲間たちと異世界憧れ少年と対峙する②

「どうします? 反省しますか? それとも――」

「反省します!! だから俺を異世界へ連れて行って下さい!!」



目を輝かせ我を見る少年――原田ハガネに、我は目を見開いた。

特殊な部類に入りそうな性癖を曝け出しつつも、ハガネの瞳は希望に溢れ、まさに純真無垢な輝きを放っていたのだ。

正直毒気が抜かれたが、我の後ろに隠れていた勇者がヒョッコリと現れると、ハガネは勇者の許へと駆け寄った。



「勇者! 僕を仲間に入れてくれ!」

「いやいや、何の仲間だ?」

「異世界の仲間だよ! 勇者に魔法使いに魔王軍の参謀! 更に魔王様までいらっしゃる。現実世界はクソだと思っていたけれど、現実世界に異世界があった! これは奇跡としか言いようがない! 僕は異世界に憧れているんだ! どうか僕を異世界に連れて行ってくれ!」



懇願するハガネだったが、我と勇者は冷静であった。



「魔王、お前コイツの頭のネジを外したのか?」

「いいえ、元々頭のネジは無かったようですね」

「もしネジがあったとしても、お忘れ物に届けられてることはなさそうだな……」

「落とし物の中にもないかもね」



幼馴染でもあり、長い付き合いのある我たちを見つめハガネは目を輝かせて返事を待っているようだった。

なので、事実を伝えるしかあるまい。



「原田ハガネさん」

「はい!」

「残念ですが、貴方の仰っている異世界というものは、この世界には存在致しません。そう言うものは物語の世界の産物であり、猫型ロボットが現代に存在しないのと同じように別次元の事なのです。私たちが魔王だ勇者だと言っているのは、学校で皆さんがやっている陣取りゲームでのチームの名前でそうなっているだけですよ」



そう、あの陣取りゲームが発端となり【魔王軍】【勇者軍】と別れ、更に我が魔王軍を率いていたのと、勇者が勇者軍を率いて別れて競っていた為に、それが定着しただけに過ぎないのだ。



「そもそも考えてもごらんなさい。勇者と魔王ですよ? リアル世界で存在していたら、間違いなくお互いが戦いを始めるようなもんでしょう? 私ならそうしますね」

「私もそうだな。勇者とは悪を倒すべき存在だ。もし仮に私が勇者だというのであれば、魔王と呼ばれる実の兄を倒さねばならないじゃないか」



まぁ実際、魔王と勇者な訳だが。

だが悲しい事に――現代の魔王は僧侶である。

人々を導き諭す存在である我は、魔王ではあるが、仏に仕える者なのだ。



「よって、異世界は存在致しません。憧れは小説や漫画の中だけに留めておきなさい」

「そんな……」

「あと、妹を淫らな視点で見るのは止めて頂きたいところですね。男の性とも言えるのでしょうが……兄としては不愉快極まりないので」



此処でバッサリと切り捨てる。

この手の輩はハッキリとこちらの主張を伝え、それ以上なにかを聞くつもりは無いと言う意思を突き出さねばズルズルと話が続いてしまうからだ。

これで問題解決。

ホッと息を吐きそうになったその時だった。



「確かに……異世界は無いかもしれません。でも、この糞みたいな現実世界でもスキルと言うか、ステータスはあるんです!」

「「「は??」」」



お前は、何を、言っているんだ?

とばかりに、我と勇者、そして魔法使いが声を上げた。



「僕の考えはこうです。年齢に関して、それをレベルと計算し、そこから各々の育ってきた環境及び習い事、そして様々な出来事が起きたと考えます。それらによって各自のステータスやスキルと言うものは個人差が生じ、例えば魔王様のような方は【カリスマ】【総統性】等のスキルを持ち、その場を支配することが出来ると言う特殊スキルを得ていると思います」



なんか始まった。

しかしハガネの表情はこれまでにない程の生き生きとしていた……。



「魔法使い様に関しては【カリスマ】を魔王様よりは弱いけれど持ち、尚且つ【情報収集】【現状分析】と言うスキルも持っていると思われます! それらを魔王様に伝える事により、より円滑に物事を上手く動かしていると思うんです!」

「そんな風に僕の事見てたんだ」

「更に勇者に関しては魔王様と同じような【カリスマ】を持ちつつも、【人を魅了する】と言うスキルにたけており、頑張る姿を周りの人間が応援したくなるような……そんなスキルを持っていると思います! そして参謀様は魔王軍および勇者軍の中間に立ち、両者の緩和剤のような役目をはたしている……【癒しの波動】を持っていると思います!!」



どや顔で言い切ったハガネの表情は――輝いていた。

そして、我たちはアキラを除き、ドン引きした表情でハガネを見ていた。



「異世界がないなら、異世界が存在しないなら……僕たちで異世界を作り上げましょう!」

「断ります」

「遠慮する」

「魅力を感じないから却下で」



原田ハガネ――彼は別の意味で大変話の通じない子供であり、更に言えば、異世界拗らせ系男子であることも理解できた。



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