第47話 魔王様、勇者たちとのウォーターガン戦争を始められる②

 ウォーターガン戦争勃発である。

 互いに装着したウォーターガンに水を入れ、ペッタン娘を倒すと言うミッションだ。



「私が小雪を狙います! お二方は残りを!」

「じゃあ僕は皐月を狙おうか! 逃がさないよ。徹底的に追い詰めてやる」

「恵コワッ! 俺は葉月ちゃんを狙うけど、お手やわらに行くよ」



 呆れたように口にしたアキラの顔面に、僧侶からの一発がぶち当たった。



「お手柔らかに来られるのでしたら、わたくしはガンガン行かせて頂きますわ」

「ワシも本気モードで恵を叩きのめしてくれようぞ」

「兄を超えるのは……この私だ!! 陣取り合戦の屈辱を今こそここで!」



「「「舐めていられるのも今の内だぞ、小娘共」」」



 我たちの狩りのスイッチが入った瞬間である。

 伊達に三人で体育時間及び遊び時間、そして生徒会と戦ってきた三人ではなのだ。

 再度言う。ペッタン娘に負ける気は一切ない。



「手加減なしで叩きのめす! 宜しいですね!!」

「怪我をさせない程度に叩きのめす! いいな!!」

「負けた方はご奉仕してもらうってことで……ヤッチャウよ!」



 この時ばかりは肉食系男子。

 我たちの気迫に押された三人娘は一瞬、狼狽えた瞬間を見逃さなった。


 ――そこからは、阿鼻叫喚地獄絵図である。


 悲鳴を上げて逃げ回る三人に、的確にウォーターガンをぶちかましていく。

 長谷川の時とは違う、単純に優しくいたぶるだけの戦いだけれど、逃げ回る三人ペッタン娘は尻もちついたりと、泥だらけになりながら逃げ回っている。



「恵さん!」

「小雪のお尻にズド―――ン!」

「いったあああああい!」

「か弱い乙女の清らかなるお尻を狙うなんて! なんて非道な!!」

「恥を知れ若造共!」

「かわいいお尻を痛めつける快感って凄いよね……癖になりそう」

「小雪―! 後でお尻に軟膏塗ってやろうか?」

「ありがたいけど恥ずかしいけどやって欲しけど遠慮しとくー!」



 色々葛藤した勇者であった。

 アキラに蒙古斑の取れないお尻を見られるのは恥ずかしいのだろう。

 今も一緒に風呂に入る勇者は、尻をさすりながら立ち上がった。



「くっそー……お尻の穴が増えるかと思った」

「まぁ、それは大変な事ですわ」

「とはいえ、やられっぱなしなのも気に入らぬ。僧侶よ、本気を出すか?」

「ええ、そろそろ魔王様の濡れてスケスケな姿も拝みたいですものねぇ」



 ゾワッと鳥肌が立った瞬間、一気に武闘家と僧侶が我に詰め寄った。

 ――早い!!

 何とか水は掛からなかったが、連射速度も素早い!!



「今までは猫でも被っていましたか?」

「わたくし達姉妹は、チャカの扱いくらいは一通り習っていましてよ?」

「嗜み、と言う奴じゃ」

「此処からはあなた方が狩られる番ですわ! さぁさぁ! 水も滴る良い姿をお見せになってええええ!!」

「「「肉食系女子!!」」」



 そう叫ぶと我と魔法使いは咄嗟の動きに反応し避けることが出来た。

 しかし、尊い犠牲とは出るものだ。



「ぎゃあああああああ!」

「一匹ゲットですわ~!!」

「コヤツは後でジックリと料理しよう。さぁ魔王と魔法使いよ! 残るは貴様たちだけだ! ジックリこっとりネットリと料理してやるから覚悟するんじゃな! フェッフェッフェッフェッフェ!!」



 正に、涎を垂らした肉食獣!

 背中をつたう汗をそのままに、我と魔法使いはウォーターガンを構えた。



「どうする、魔王」

「まともにやりあって勝てる相手ではありませんね……練度が違います」

「くそっ これだから実家がヤーさんは困るんだよ。下手に扱いがうますぎる!」

「まさにスナイパーですね……」

「一矢報いるかい?」

「見た限り、ウォーターガンの使いが上手いのは僧侶です。彼女を潰さねば勝ち目はありませんね」

「僧侶なのに、何で銃の扱いが上手いんだよ!」

「これも異世界転生の反動なのか否か……取り合えず、こうなったら乱戦しましょう」



 こうして後半戦。

 我と魔法使いは乱戦に持ち込み、体力の続く限り避けながら僧侶と武闘家を狙い続けた。

 途中で滑って転んで泥だらけの勇者を無視して、この双子を叩く。

 それしか、生きる道は無いと見たからだ。



「力押しなんて、スマートじゃありませんわ!」

「戦いにスマート何てありませんよ!」

「くそ! 水切れじゃ!!」

「武闘家貰った――!!」

「ぎゃあああああ!」



 ……こうして、昼の鐘がなるまで遊びつくした我たち。

 最後に勝利の女神が微笑んだのは……我と魔法使いのPTであった。

 しかし代償も大きい。

 作務衣は水浸し、アキラは股間を狙い撃ちされてびしょ濡れ、魔法使いもいい感じに濡れてしまった。



「僕たちも水着着ればよかったね」

「まぁ、夏場ですし直ぐに乾くでしょう」

「俺、こんなに女の子に執拗に股間狙われたの、初めてだよ……」

「新しい扉が開くね」

「その扉はそっと閉めましょう」



 落ち込むアキラにタオルを投げ渡し、息を整える我たちと……。



「やはり魔王は強いのう……ワシらの負けじゃ負けじゃ」

「悔しいですわ……もう一息でしたのに」

「私はあっちこっち転んで泥だらけだよ……お風呂に入らないとな」

「水でも浴びれば宜しいのでは?」

「いっそ三人で風呂にでも入った方がいいじゃろ。男どもは水浴びして貰ってワシらは温かいお湯で体をほぐそうぞ」



 等と、まぁ女性として生まれた以上、冷えは大敵でしょうし、ペッタン娘たちはお風呂へ。私たちはホースから水を頭から浴びて泥を落とす程度に留めることになった。

 男に生まれてきたからこそできる大雑把な水浴び。

 これも一つの夏の思い出だろう。



「さて、私も着替えてお昼の準備をしてきます。その間、お二人は着替えるなり寛ぐなり自由になさっていてください」

「了解」

「お腹ペコペコだよ」

「直ぐに作ってまいりますよ」



 そう言って自室に戻り、着替えを済ませてから厨房に行くと、お風呂上りサッパリの勇者たち一行が訪れた。

 いや、もうペッタン娘と言った方が分かりやすいかもしれない。



「冷えた身体がホカホカじゃぁ」

「魔王、お腹が空いた!」

「久しぶりに良い運動でしたわ。やはり遊びは命を賭けてナンボですわよね」

「僧侶の言葉とは思えませんね」

「ふふふ」

「魔法使いとアキラさんの所で暫くお待ちください。今から作りますから」

「「「はーい」」」



 こうして、一気に人数分の夏祭り風味付け焼きそばを作ることになった我は、鉄鍋を屈して焼きそばを作り、各自に大盛焼きそばを用意してから、しっかりと昼食を摂ることになった。

 しかし、肉食系僧侶……。

 アレは、一番敵に回してはいけない存在……。

 ――そう心に刻んだ出来事でもあった。



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