第42話 魔王様、武闘家と話し合ってみる
――従姉妹が揃いも揃って、前世で戦った勇者の仲間だった時の絶望、お分かり頂けるだろうか?
涙目で頭を押える従姉妹、波動からして武闘家だろうと思われる。
もう一人、意識を失ったのは僧侶だろうか。
慌てる魔法使いと勇者、取り合えず頭を押えていた武闘家は、気絶した僧侶の下に涙目で駆け寄っている。
「なんと言うことじゃ! しっかりせぇ!!」
「葉月!! 葉月!! 一体何がそんなにショックだったんだ!!」
「取り合えず茶菓子置いておきます。隣の部屋に布団を用意しますのでそちらに寝かせて差し上げましょう」
そう言うと我は茶菓子を机に置き、隣の部屋に客用の布団を敷いて、眠る僧侶を抱きかかえた。
無論反論しようとした武闘家だったが、私がチラリと見るだけで体が硬直してしまうようで、騒ぐ事はそれ以上無かった。
だが一言……。
「とって喰う訳ではないじゃろうな」
「こんなお子様を食べて何が美味しいんです? 小雪と同じで胸も無い尻も無い。ナイナイ尽くしのお体には興味すら沸きませんよ」
「グハッ!!」
何故勇者がショックを受けたのかは解らないが、魔法使いから「ナイナイ尽くしでもボクは美味しく食べるよ!」とフォローを受け、勇者は魔法使いの頬を思い切り叩いていた。
クッキリ残った手形に満足する魔法使いを放置し、大人達のいる部屋へと戻ると、娘の身の安全など余り気にしてないのか、はたまた私が僧侶だからこそ、その点は安心しているのか、既にお酒を飲んで出来上がりつつある大人達がいた。
「いやー……皐月の突きをかわすどころか、反撃する奴がいるとはなぁ!」
「そうねぇ、皐月はああみえて日本の大会で年齢無差別で優勝者よ? 祐一郎君凄いわ!」
「いえいえ、アノ程度の攻撃では私には当たりませんよ」
「いいねぇいいねぇ! どうだ皐月! 祐一郎君に嫁ぐってのは!」
「却下!!!」
まるで猛犬のように我を睨み付ける武闘家に、あちらの両親は楽しそうに声を上げた。
我としても既に結婚相手はいる訳だし、そもそも……あのむさ苦しい武闘家の爺が少女になっているのだから、脳内で受け入れるか受け入れ無いかの鬩ぎあいが起きているのだ。
「ワシの拳とやり合うと言う点では良き相手となろう。しかしじゃ、結婚相手として此処まで相応しくない相手はおらんじゃろうな!」
「気が合いますね」
「悪いけど、ボクも無理だよ……脳内でおっつかない」
「同感です」
前世のヒゲモジャで頭がツルンツルン、それでいて筋肉隆々で体毛の凄いお年寄り。
そんな姿がどうしてもインパクトがありすぎて、今の可愛らしい姿を受け入れることが出来ないのは魔法使いも一緒のようだ。
「ぬぅ……とにかく、色々聞きたいこともある! おぬし達、ちょっと別室に集まらんか?」
「良いでしょう」
「ちょっとお話しようか」
「そうだな、色々積もる話もありそうだ!」
一人能天気な勇者を置き、三人で溜息を吐いた……。
別室に移動し、四人でやっと顔合わせする事になったのは良いが、武闘家は意気揚々と「それで」と口にする。
「お前さんたち、全員転生したようじゃの。つまり、聖女様も転生しておられると考えてよいのか?」
「ええ、私の将来の妻として、寺嫁の修行もしておられますよ」
「ほほう……聖女様が魔王の妻となるか………フェッフェッフェ! 長生きしてみるもんじゃのう! オル・ディールでは絶対にありえぬ話だったわい!」
「ボクとしては、あのツルピカもじゃもじゃ武闘家が可憐な乙女に転生してくるとは思っても無かったけどね」
「「それな」」
我と勇者の声が被ってしまったが、実際前世の姿を知っていれば、転生してきた姿を見て直ぐに理解は出来ないだろう。
今も少女とハゲ爺との間を脳内が行ったりきたりしているのだ。
「まぁ、そこは運命として受け入れるしかあるまいて。それにワシとしては頼りない僧侶と一緒に双子として生れ落ちた事は安心の種の一つじゃ」
「あー……僧侶からしたら涙目ものだと思うけどね」
「なぜじゃ」
「乙女の事情って奴だよ」
魔法使いの言葉にナニカ含みを感じつつも、武闘家は「そうかのう?」と首を傾げた。
「真に乙女にしかわからない事じゃいかな? 少なくとも元男性だった勇者と武闘家の爺さんには解らない内容だよ」
「「むう」」
「それで? 爺さんは従兄妹が、しかも勇者と魔王が兄妹で生まれてきた事と、まさか魔王が神の教えを伝える僧侶になっていることについてはツッコミないの?」
「無い、一々考えておったら髪が抜ける」
「あ、前世の事は気にしてはいたんだ」
魔法使いの言葉に勇者が噴出しそうになったが、気合で乗り越えたようだ。
確かに少女なのにハゲたくはないだろう……理解できた。
「そもそも、生れ落ちた場所が魔王と勇者は寺であっただけで、ワシと僧侶など、極道の世界じゃからのう……」
「だよねぇ」
「将来的にワシがあとを継ぐことにはなりそうじゃが、僧侶では極道の世界は手に余ろうて」
「まぁ……」
「魔王が現れた瞬間くらいに意識飛ばしたしね」
「オル・ディールと違い、この世界は人間同士の争いのほうが多い、それも醜い争いばかりじゃ。僧侶がまともな精神を保っておられるのは奇跡じゃて」
そう言って我の入れた茶をズズッと音を立てて飲み干すと、大きく溜息を吐いた。
「まぁよい、それに前世での知り合い達がこうして集まっておることのほうに今は感謝しておる。ワシの心配の種が一つ消えたといえよう」
「それは僥倖」
「魔王がマトモそうじゃからな。覇気こそかわってはおらんが、それでいてまろやかになったと言うべきか……ウニがマリモになったくらいの違いじゃな」
「その例えは解りやすいですね。確かに私も丸くなりましたよ。最初こそ魔王なのに何故神の教えを伝えていく僧侶になったのかと葛藤した時期もありましたが、郷に入っては郷に従えとありますし……今の生活は中々充実していますよ」
そう口にすると茶を音をたてず飲み干すと、武闘家は更に声を上げて笑った。
「二度目の人生は中々楽しく過ごせそうじゃわい!」
「爺さん、あんまりムチャしちゃダメだよ」
「何を言う魔法使い、お前さんこそ男に生まれたんじゃ。体を鍛えんか身体を」
「ボクは細マッチョを目指してるから筋肉間に合ってまーす」
そんな会話をしていると襖がスパーンと開き、大粒の涙を零しながらこちらを睨む僧侶が立っていた。
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