第29話 魔王様、チョコレートに細工されてしまわれる
バレンタイン当日。
三人で教室に入ると、女子達がチラチラと我たちを見ていたので首を傾げた。
クスクス笑う者もいるが、一体何事かと思い各自ランドセルを机に置くと、引き出しの中から幾つものチョコが出てきた。
名前は書いてないが、既製品から手作りから色々入っている。
ふむ、これが世に言うバレンタイン……クラスの男子からの視線が殺気立っている。
「オレの引き出しにチョコ入ってる――!!」
そう叫んだのはアキラだ。
流石天然アキラ、チョコを掲げると男子が駆け寄って行った。
しかし名前が書いていないし誰が送ったのかわからないチョコレート。
魔法使いはどうかと思ってみてみると、魔法使いもチョコレートが入っていたらしく、既製品とそうでないものを選り分けていた。
「恵さんも凄いですね」
「手作りチョコはいらないんだけどな。それに誰が送ったのかもわからないチョコって怖いよね」
そう言うと魔法使いは鞄に入れていたビニール袋に、手作りチョコをまるでゴミのようにチョコを入れ込んだ。
すると――。
「恵くんひど――い!」
「女の子からのチョコをそんな風に扱うなんて~!」
そう大声を上げたのは魔法使いの事を気に入らない女子達だ。
クラスの皆もその声に反応したようで、何事かと見つめている。
「だってさ~? 誰がくれたチョコか解らないし、どうしようもないよね?」
「だからって酷くなーい?」
「ね――!」
「じゃあお詫びにコレあげる。ボク手作りチョコは苦手なんだ」
そう言うと手作りチョコだけを選別した袋を掲げ、文句を言う女子に突き出す魔法使いに、女子はざわついた。
「それに、ボクはチョコが欲しいなんてクラスの女子には言ってないよね?」
「そうだけど、女の子の気持ちを踏み躙るなんて最低!」
「それ、女子の意見であって貰う側の意見じゃないよね?」
「女の子の気持ちをわかってあげないなんて恵くん最低だよ!!」
「うん、最低で良いんだ。ボクは君達からのチョコは一切いらない。理由が知りたい?」
優しく微笑んで残酷な事を口にする。
最早女子は口をパクパクとさせて怒り心頭といったところだろう。
「じゃあ教えてあげる、コレな~んだ?」
そう言ってポケットから取り出したのは……可愛い絵柄の紙だ。
女子もソレが出てくるとは思わなかったのだろう、ビクッと動くと魔法使いは中を読み上げた。
「生意気なクソ恵を女子でいじめよう! 参加者はここに名前を書いてね! って書いてあるね」
「マジかよ!!」
「オレにもみせて!!」
魔法使いの言葉に男子は駆け寄り、その紙に書かれている女子の名を呼んでいく。
「こんなのが出回ってるのに、何が混入されてるかもわからない手作りチョコなんて貰えるはず無いじゃない? 男子どう思う~?」
「無理無理」
「女子最低だな!!」
「これ、先生に渡そうぜ!」
「チョコも先生に渡そうぜ!!」
こうなってしまうと、首謀者の女子も名前を書いた女子も顔面蒼白だ。
そんな彼女達にニッコリと微笑む魔法使いは首謀者の女子に歩み寄ると、紙をちらつかせて口にする。
「もっと隠れてやらなきゃ駄目だよ、証拠まで残して詰めが甘いね」
「――!」
「ボクの見た目が気に入らないとか言うのは解るんだけどさ~? 自分がボクよりブスだからって集団でいじめようって考え、浅はかだと思うよ? あ、浅はかって意味わかる? 君は学が無さそうだからな」
クスクス笑う魔法使いに女子は次第に泣き始めてしまった。
「泣けば反省したとでも言いたいの? それとも自分は弱い立場だって言いたいの? 本当、気持ち悪い女」
「うっ……ひっくっ」
「でも証拠があるからこれは先生に渡しておくね? きっとご両親にも連絡がいくよ? 家でなんて言われるだろうね、ボク楽しみだなぁ!」
名前を書いた数名の女子達は涙し、始業のチャイムがなる前にやってきた担任に我も含めて事情を説明して証拠の紙とチョコレートを手渡すと、女子達は別の教室に連れて行かれ自習になった。
我とアキラも、貰ったチョコを先生に渡すことになったが特に気にしては居ない。
結果、彼女達が作った手作りチョコにはチョークの粉が入っていたらしい。
女子の一人が自供したそうだ。
我とアキラの分にも入っていたらしく、学校でチョコを持ってくるのは禁止となった。
当たり前の処遇ではあるが、一部の女子達は今回の首謀者含め名前を書いて参加した女子を良くは思わず、かといって今のところ目立ついじめはしていないようだ。
そしてクラスの男子からは「女子ヤベェ」と囁かれ、女子と男子は少し距離が置かれた。
これも致し方ない事だろう。
「知りもしない相手からの既製品のチョコなら貰うけどね」
「知りもしないって……同じクラスの女子じゃん」
「ボクにとって小雪以外の女はその辺の石ころと一緒だよ」
呆れたように口にする魔法使いにアキラは溜息を吐き、我は小さく溜息を吐く。
魔法使いの勇者への気持ちがどれほど根深いか知っているからだ。
「小雪が将来どんな男性を選ぶかによりますが、恵さんを選ばなくとも応援はしたいですね」
「祐一郎、それはボクを敵に回すってことだよ?」
「回してでも守りたい妹と言うのは存在するのですよ」
そう言ってアキラをチラッと見ると、アキラは少しだけビクッとしたが顔を背けた。
――解りやすい。
だが本人はまだ気がついて無いのだろう、今後を見守りたいところだ。
「さて、アキラも学校が終わったら寺に来ませんか? 小雪がチョコを手渡したいそうで」
「あ、なら行こうかな」
「恵さんの分も用意してあるのはご存知ですよね?」
「もちろん、ボクの為に一生懸命チョコを作る姿をみてあるからね」
「では三人で帰りましょう」
こうして三人で寺に帰り、出迎えた勇者は最初に魔法使いにチョコをポイッと手渡し、感動している間にアキラにチョコを手渡していた。
アキラも嬉しそうにチョコを開けて食べて「美味しい!」と言っていたし、勇者もその反応に喜んでいたし、我も手作りチョコを皆に配り夜は聖女と共に過ごす。
「祐ちゃんのチョコ美味しい――!」
「心寿のチョコも美味しいです」
聖女も我に手作りチョコを作ってきてくれた。
今年はハートのチョコか……感極まりそうだったが一口サイズで食べれるように作ってくれている辺り聖女の気遣いを感じる。
「やはり、本命チョコは良いものですね。私は毎年貴女には本命チョコしか渡したことありませんが」
この言葉に顔を真っ赤に染める聖女、何とも初心な奴だと思ったが……この初心な聖女が来月には卒業してしまう。
それを思うと少し溜息が出てしまったのだ。
「どうしたの?」
「いえ、貴女が来月には卒業してしまうので……」
「寂しい?」
「ええ、とても寂しいです」
そう告げると聖女は我を抱きしめてくれた。
――我の世界には聖女がいないと始まらない。
――我の生きる意味は聖女にある。
――他のモノたちはオマケに過ぎない。
そうは思っても、寺の息子として徹底した教えの中で生きると……なんと欲にまみれた考えなのだと心のどこかで我の考えを拒否するものがいる。
魔王としての考えが、僧侶として異世界で生きる我を叱責するのだ。
――このままの考えでは駄目だと。
「私が卒業したら、祐ちゃんに話があるの」
「?」
「私もまだ考えを纏めてるところだから、その時を待ってね」
「ええ、解りました」
そう告げると聖女は少しだけ困ったように笑った。
そして我の頭を撫でると額に口付けし、その日は帰ってしまった。
一体なんの話があると言うのだろうか?
結婚するのがイヤだと言う雰囲気ではない、きっと深い考えがあるのだろうと思い母屋に帰ったバレンタインの日の事。
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(魔法使いは いろんな意味で 強かった!)
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