希怒哀楽の叫び
小夜華
『希』 第一話
才能と運って奴は無責任な誘拐犯みたいだ。
二本目の煙草に火をつけた。
「ただいま」
閉め慣れた自分の家の鍵をかける。
一人暮らし男にありきたりなワンルーム。
部屋の電気は付けずに、窓から差し込む外の街頭を頼りに部屋の奥に進む。
リュックも降ろさずに、まずベランダに出る。
一本目の煙草に火を付ける。
ふーっと最初の煙を吐くところまでして、やっと家に帰ってきた安堵感がやってきた。
左手には、今部屋に入る前に郵便受けからとった封筒。
宛先は書いてないけど、なんのお知らせかは見なくてもわかった。
先日の劇団のオーディションの結果。
…開けなきゃいけないよな。見なきゃいけないよな。
自分で応募して自分でオーディションを受けてきたのに、結果の通知が来てから罪悪感が湧いてくる。
加えてこの中身はきっと不合格の文字だ。なんとなくそんな気がした。
それでも、何度経験しても、オーディションの結果を知る前の息が詰まりそうな高揚感はなくならないんだなと、敢えて冷静に自分を分析してみる。
一本目の煙草がそろそろ終わる。
今からこの封筒をあける…その前に、決めておこう。
この中身が不合格だったら、二本目の煙草に火を付ける。
もしも合格だったら、今所属している劇団に辞めますと電話する。すぐに。
優しすぎるあまり、傾いた線のような目をした笑顔の座長が思い浮かぶ。
決して嫌だから、一刻も早く今の劇団を辞めたいからじゃない。
むしろ逆だ。約二年お世話になっているこの劇団に感謝しているし、所属する役者としても観客としても本当に好きな劇団だ。
…例え、この半年役が貰えていないにしても。
それも役がないのは、誰でもない自分のせいだと痛いほど自覚していた。
自分のスランプのせいで役がないのに、やけになって劇団から逃げるように他の劇団のオーディションを受けた。
辞めるなら、この罪悪感が大きくなる前に連絡してしまいたい。
期待はしない。けど、もしかしたら。
封筒を開けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます