嘘つきはラブコメの始まり⁉
横糸圭
第1話 嘘つき
「ねえ、『嘘つきは泥棒の始まり』って言うけど、何を盗むんだと思う?」
「どうした、
僕がポットからお湯を出してお茶を入れているところに、突然彼女が尋ねてきた。
「いやいや、ふと思ってね。嘘つきと泥棒というのが、私の中で微妙に繋がっているようで繋がらないもので」
「何故僕のことを見ながら言うんだそれを」
暗に僕を嘘つきだと言いたいのだろうか。
まあたしかに、僕のあだ名、というよりは通り名は『詐欺師』なのであながち外れでもないのかもしれない。
「まあ、とにかく。嘘つきは何を盗むんだい?」
「僕が知っている前提みたいに言わないでくれ」
と言いつつも、日頃から使い物にならない頭を働かせて考えてみる。
「――
「……無難すぎて、さすが
「おい、事あるごとに悪口を入れるな」
最初の頃はその悪口にどれだけ傷つけられたことか……。慣れるのも嫌だけど。
「で、
このままだと悪口しか言われない気がしたので、彼女に聞いてみる。
「そうね……」
手をあごに当てて、少し
黒髪のショートは透き通るほど
「……どうしたの?」
「いや、なんでも」
「そう」
ふふっと笑って僕の渡したお茶を飲む。見透かされているようで腹が立つ。
「で、嘘つきは一体何を盗むんだ?」
「ああ、そうだった」
つい
「でね、嘘つきは何を盗むか、なんだけど」
すると、人差し指を立てて宙を指したかと思うと、そのまま自分の胸に誘導する。
……うっ、大きい。
じゃなくて。
「――心か?」
「そう。おっぱいじゃないよ」
「知ってるわ!」
嘘つきになったらおっぱい盗めるんだったらいくらでも嘘つくわ。
「心。もっと言えば、恋心じゃないかな?」
「そんなルパンみたいな」
班目が思いの
「それは実体験か? 例えば最近誰かを好きになったとか」
「ごめんなさい、今好きな人はいないの」
さようなら、僕の初恋。
――じゃなくて‼
「僕がお前を好きみたいに言うな!」
「え、そうでしょ?」
そうだが、否定はしておく。それよりも。
「嘘つきが人の恋心を盗むって、いったい全体どういった論理だ?」
気になるのはその部分だ。
僕が知る限り、班目
そして、彼女の話が論に欠けた感情論であったことは今までに一回たりともなかったはずだ。僕が感情論で話せば鼻で笑って一蹴するような女だからだ。
だから、今回もその例に漏れない。
「嘘をつく理由は人それぞれね。失敗を隠したい、逆に良く見られたい。他にも他人を
身振り手振りを使って彼女は説明をする。頭の悪い僕に配慮した形だ。
「子供だったら何かを壊した時とか、柊くんだったら英語のテストで赤点を取ったとか」
「どうしてそれを知ってるんだよ!」
彼女相手にプライバシーとかあったもんじゃないな。
「でもこれらのことって盗む行為とは結びつかないでしょ?」
「人を
「泥棒は人を騙さないでしょ。気付かれない間にパッと盗んでおしまい。騙す暇もないわ」
たしかに。空き巣もわざわざ家主に「盗みませんから!」とか言わないしな。
「それで、嘘をつく行為と盗む行為が結びつくタイミングは一つ」
「恋なのか」
「そう」
よく出来ましたと言わんばかりに頭を撫でてくる。
や、やめろっ! こういうのは弱いんだ……。
「それで、話に戻るけど」
パッと手を放すと名残惜しくなる。アホか俺は。
「嘘と恋は直結する。好きな人の前では意地を張るし、思ってもないことを口にして褒めたりするでしょ?」
それに関しては肯定も否定もしないが、段々と班目の言いたいことが理解できてきた。
「好きなやつの前で嘘をつくことで、相手の好感度を上げようとする。つまり、相手の心を盗んでいることになるってことか?」
「まあ、おおむね正解だね」
今回は撫でてもらえなかった。――って完全にあいつのペースじゃねえか。しっかりしろよ柊少年。
そんな僕の心の
「女
これに対しては同意見だ。俗に言われる女誑しというのは多かれ少なかれ女性に嘘をついている。いや、ただの妬みかもしれない。
「だから嘘つきが泥棒になって盗むのは人の心ね」
「よし、僕も嘘をつくぞ。今日も綺麗だな、班目!」
「君は一生彼女が出来ないね」
最後にとどめの一発を喰らったのだった。
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