第15話 イブの据え膳?
イルミネーションを見終えた俺たちは、のんびりと駅へと向かって歩いていた──のだが。
「先輩先輩」
「ん?」
「なんだか駅と違う方向に人の流れができてるんですけど、あれ、何の列なんでしょう?」
俺の腕に抱きつきながら、首を傾げる蒼衣。
蒼衣の指差した方向には、たしかに人の流れができていた。あからさま、というわけではないのだが、流れ自体はある。ことごとくカップルなのは、いったいどういう──
「……あー……なるほど……」
この先に何があったかな、と考えてみて、はじめてこの流れの意味がわかる。
「先輩、知ってるんですか?」
「……まあ、知ってるといえば知ってるな」
「何があるんですか?」
興味津々な蒼衣は目を輝かせているが──うむ、これ、あんまり言いたくないな……。
「俺的には、知らなくていいって言いたいんだが」
「わたし的にはとっても知りたいんですけど。知らないほうがいい、みたいなやつですか?」
「いや、そこまでじゃないんだが……。こう、なんというか、言いにくいな、みたいなやつだ」
「言いにくい、ですか?」
「うむ……。まあ、聞きたいなら言うが……」
と、微妙に言い渋りながら言うが、蒼衣はノータイムで食いついてくる。
「聞きたいです」
……そこまで知りたいなら、仕方ない。
俺は、少し目を逸らしつつ、ギリギリ蒼衣にだけ届くくらいの声で呟く。
「……ラブホ街だ」
その俺の言葉に、蒼衣は一瞬きょとん、としたあと、ほんのりと頬を赤く染めて、俺がら視線を逸らす。
「……あー……そういうことですか……」
「そういうことだ」
「クリスマスイブって、その、そういうことをする人が多いって言いますよね」
「まあ、デートのあとに行くのって、ホテルらしいからな……」
「なるほどです……」
なんとなく気まずくなりながら、俺たちは駅へと向かって、歩みを再開した。
そして、数歩進んだところで、くい、と腕が引かれる。
それに反応して、ちらり、と横へ視線を向けると、蒼衣が先ほどよりも顔を赤くしながら、上目遣いでこちらを見ていた。
「……えっと……行きます……?」
「……ッ」
どきり、と心臓が跳ねる。
こんなふうに誘われて、生唾を飲み込まない男はいないだろう。
そして、この誘いに乗らない男もいないはず──なのだが。
正直なところ、興味がない、と言ってしまえば、嘘になる。どんなふうになっているのか気になるのは事実だ。
聞くところによると、回転するベッドとかがあるらしい。コスプレ衣装も色々と貸し出しされているらしいし、行ってみたいところではあるのだが、蒼衣を連れ込むのには抵抗がある。
……というか、まあ、いわゆるこれも独占欲のひとつだ。
俺がただ、蒼衣がホテルに入るところを他人に見せたくない、ただそれだけだ。
だから、俺は首を横に振った。
その俺の行動は、予想外だったのか、確認するように問いかけてくる。
「……据え膳、ですよ?」
安易に理性を揺さぶるの、やめてほしいんだよなあ。
「……それは帰ったらいただきます」
「……そ……そう、ですか」
そう言って、俺の腕に顔を少し埋めた蒼衣の上目遣いを見て、思う。
やっぱり引き返して行くべきか──!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます