第8話 頭を痛めるのはかき氷かソフトクリームか

「あぁぁぁ……キーンとします……!」


そう言いながら、蒼衣は目をぎゅっと閉じ、手をこめかみに当てている。


買い物を終えた俺たちは、サービスエリアを出発──せず。


駐車場で窓を開けて、かき氷とソフトクリームを食べていた。


「一気に食うからだろ……」


「いや、かき氷を食べるときって、たまにわざとやりたくなりません? かき氷といえばこの頭痛、みたいな」


「まあわからなくもないが……。俺はいかにキーンとしないように食べるか、みたいなほうを気にして食ってるな」


青色のシロップのたっぷりとかかった氷を口に運んで、またも目を強く閉じている蒼衣。どうやら、また頭がキーンとしたらしい。


そんな彼女を見ながら、俺はぺろり、とソフトクリームをひと舐めする。ほんのり黄色く色づいたソフトクリームで、蒼衣曰く、ハチミツバニラ味らしい。たしかに、ハチミツの甘い香りが鼻から抜けていく。


「それ、どうです?」


「美味いぞ。ハチミツのいい匂いもするし」


「先輩、ひと口ください」


「おう」


ストローの先を切り開いて、スプーン状にしてあるものを片手にそう言った蒼衣に、俺はソフトクリームを差し出す。


すると、蒼衣はそのスプーンはぴくりとも動かさず、ぺろり、と直に舐める。目を閉じて、スプーンを持つ手と逆の手で髪を耳にかけながら舐める姿は、ずいぶんと扇情的だ。


「んっ……。本当にハチミツの匂いがしますね。美味しいです」


満足そうに口元をむにむにと動かす蒼衣に、俺は生唾を飲み込んでから口を開く。


「……蒼衣さん、先輩、あんまりそういうこと、外でやらないほうがいいと思うぞ」


「……? なら、家だけでやります……?」


首を傾げる蒼衣に、それだと意味が……、と思いつつ、頷いておく。まあ、家でやる分には別に、俺が見るだけだからな。問題はない。むしろ、たまにはやって欲しい。


そんなことを考えていると、蒼衣がにやり、と笑う。


「……もしかして先輩、今さら間接キスとかで躊躇ってます?」


「そんなことねえよ」


そう言いつつも、間接キス、なんて言われると、つい意識してしまうのが人間というものだ。


一瞬躊躇いつつ、俺はぱくり、と頭からソフトクリームを食べる。鼻に抜けていくハチミツの甘い香りが、なんというか、美味い。


「先輩、ちょっと赤くなってますよ」


「……うるせえ」


くすくす笑う蒼衣から目を逸らしながら、俺は一気にソフトクリームを食べる。少し頭が痛くなるが、気にせずコーンを齧り尽くす。口の中身を飲み込み、シートベルトを締め、エンジンをかける。


「よし、行くぞ」


「はーい! あ、先輩、こっち向いてください」


「ん? んむっ!?」


蒼衣の言葉に顔を向けると、口に何かが放り込まれる。冷たい──これは、かき氷だ。


そう理解した瞬間、シロップの甘さを伴って、頭がキーンとする。


「蒼衣……お前な……」


「先輩も、たまにはかき氷らしさを楽しむべきなのです」


なぜか上機嫌の蒼衣にじとり、と視線を向け、俺は手を頭にやる。うおお、痛え……。


そんな俺を見て、満足そうな蒼衣は、ぐっ、と胸の前で手を握り、テンション高めにこう言った。


「さあ、出発です!」


「俺、お前のテンションについていけるか心配になってきたなあ」


「なんでですか!?」

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