第10話 制服姿、見たいですか?

「以上です」


「……え?」


「以上、です」


そう言って、蒼衣はぱたん、と卒業アルバムの重い1ページを閉じる。


「……マジで?」


「はい。卒業アルバムって、そんなものじゃないですか?」


「いや、そんなものだが……。お前、あれだけ自信満々というか、見せようとしてたのに──」


閉じられたページを開いて、パラパラと流し見る。……うむ、やはりだ。


「個人写真と集合写真しかなかったじゃねえか……」


俺は、こめかみに手をやり、ぐりぐりと揉み解す。


「いやいや、そんなものですって。他の写真に写っていることなんて、珍しいと思いますよ? 先輩はいっぱい写ってました?」


「いや、写ってないが……」


「でしょう?」


蒼衣の言うことももっともだ。俺だって、蒼衣と同じく、個人写真と集合写真だけだ。だから、その言い分はもっともなのだが……。


納得出来ない……。


というより。


蒼衣の制服姿が見たかったのに、結局ほとんど見れていないのだ。


気になる。とても気になる。隠されるほうが気になるものだが、少しだけ見せられるのも気になってしまうものなのだ。


だが、もう見る手段がないのも事実。蒼衣のスマホに残っていた写真はすでに見せてもらったし、卒業アルバムもこのザマだ。やはり卒業アルバム、頼りにならねえ。


諦めるしかない、か……。


……そもそもなぜ俺は、ここまで必死になっているんだ……。


別に、そこまでこだわる必要も──いや、やっぱり見てみたいな……。きっと似合っているに違いない……。


そんな葛藤に頭を悩ませていると、蒼衣が口を開く。


「わたしの想定以上に、先輩が見たそうでびっくりしてますけど……。そんなに見たいですか?」


少し驚きながら、頬を赤く染めてそんなことを言ってくる蒼衣に、俺は頷く。


「見たい」


「く、食い気味ですね……。先輩って、制服好きでしたっけ?」


「別に、特別好きってわけでもないんだが……」


離れてこそわかる良さ、というものもある。毎日見ているとわからないが、大学生になって、しばらくすると制服っていいものだなあ、と思うのだ。……まあ、半分くらいは外出用の服を考えなくてもいいというところが、だが。


まあ、制服だけが良い、というわけではない。


結局のところ、ずっと思っているが、蒼衣の制服姿が見たい、というのが1番の理由だ。


「そうだな……。蒼衣、俺の制服姿って、見てみたいか?」


「見てみたいです」


「お、おう」


俺の質問に、蒼衣は食い気味に答える。なんなら、少し目も輝かせながら、だ。俺の制服姿にそこまでの価値はないと思うが……。


「まあ、今蒼衣が思ったことが、お前の制服姿を見たい理由、だと思う」


「なるほど……。先輩もわたしのすべてを知りたいと……」


「うん、違うな」


神妙な顔の蒼衣に、俺は即座に真顔で返す。


そんな重い理由じゃなくて、普通に可愛いだろうから見たいだけなんだよなあ。


「冗談ですよ。単純に、見てみたいだけですよね」


「まあ、そういうことだな」


そう言って、俺は小さくため息をひとつ。


……見れないのは少し、ほんの少し、残念だ。


そんな俺を見て、蒼衣はにやり、と笑った。


「わたしの制服姿が見れなくてがっかりしている先輩に、わたしの本当のとっておきを見せてあげましょう」


ぱちり、とウィンクをしてから、蒼衣は何やら袋を持って、部屋を飛び出る。


覗かないでくださいねー、なんて声を扉の向こうから聞きながら、俺はぽつり、と呟いた。


「……絶対コスプレグッズとか、そんなのだろ……」


そういうのが見たいのではないです。

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