第9話 疲労困憊ショッピング
アクセサリーショップ、5軒目。蒼衣曰く、この店が最後の店らしい。
「わあ、先輩、これとか可愛いですよ」
「……そうだな」
俺は、視線を蒼衣に固定したままそう言った。
「せめて物を見るくらいはしてくれません!?」
「正直、どれも一緒に見えてきた」
「……先輩、相変わらず買い物に向いてないですよね」
「それは俺も思う」
基本的に、俺は目的のものを見たらすぐに帰ってしまうタイプだ。恐らく、服とかにあまり興味がないタイプの男性諸君は理解をしてくれると思う。そんな買い物スタイルなので、蒼衣のようにあれこれ見ながらウィンドウショッピング、というのはあまりしないのだ。そして、そういう長時間うろうろするのはめちゃくちゃ疲れるのだ。
「先輩が時間のかかる買い物が苦手なのは知ってましたけど、もうちょっとだけ頑張ってください。今回買うのはペアリングなんですから、ふたりでしっかり決めないと!」
そう言って、また張り切る蒼衣に俺は思わずげんなりする。……これ、まだ時間かかるな……。
「わーお、面倒くさそうな顔ですね……。でも先輩、残念ながら、一生こんな感じですよ?」
「マジで? ……慣れるといいなあ」
そう呟いて、ふと気づく。今、一生って言ったな……。
さらっとプロポーズ紛いのことを言った張本人は、すでに興味をショーケース──正確にはその中身の指輪──に移している。
「うーん……。これもいいし、こっちも……」
ちらり、とその視線の先を見ると、今日一日で何度も見たようなデザインの指輪がある。違いといえば、ついている宝石の色くらいだろうか。
「悩ましいですね……」
むむむ、と端から見ていく蒼衣が、ふと一点で視線を止める。
「あ……これ良いですね」
俺もその一点に視線を移すと、そこにはシンプルなデザインのものがある。ついているのは小さなダイヤモンド。外側にはふたつを合わせると繋がる柄が、内側には軽めの刻印が入っているようだ。
「へえ……。良いんじゃないか?」
「先輩もそう思います?」
「おう」
ちらりと見た値札も、高すぎず安すぎないちょうどいい価格帯だ。
「なら、これにしちゃいます?」
軽く首を傾げる蒼衣に、俺はうなずく。
……ようやくこのウィンドウショッピングも終わりか……疲れた……。
そう思った瞬間。
「じゃあとりあえず、まずは試しにつけさせてもらいましょうか」
そう言った蒼衣に、俺はまだ終わらないことを悟った。……アクセサリー購入、怖い。
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