第4話 俺しか知らない昼寝戦争

「んん……」


目を開く。普段にはないくらい、なぜかあっさりと目蓋が上がる。


……ああ、そうか。昼寝をしていたんだったか。


ゆっくりと、思考回路が繋がっていく感覚を味わいながら、部屋を見る。


寝る前に見た光景と、随分と明るさが違う。相当寝ていたのだろうか。今は何時だろう。


そう思い、普段スマホを置いている場所へと手を伸ばそうとして──出来なかった。


そうだ、そうだった。


手を伸ばせなかった理由に、ちらりと視線を移す。


隣に眠る美少女は、俺の腕にしっかりと巻きついて眠っている。


……俺、あの状態でよく眠れたな……。


自分で自分に呆れつつ、どうしたものかと考える。


別に、予定があるわけでもない。


なら、蒼衣を起こす必要もない。


それになにより、この安らかな寝顔の彼女を、起こすつもりにはならない。……このまま寝かせておいてやるか。


すぅ、すぅ、と規則正しい寝息を小さく立てながら蒼衣は眠っている。


それとは違う、けれど同じように規則的な鼓動が、俺の腕へと伝わっている。呼吸と同時に、上下する胸の感覚も。


……これ、寝起きにはよろしくないな……。


そう思いながら、蒼衣を見つめていると、蒼衣が小さな口をもにゅもにゅと動かした。思わず、その唇に視線が奪われる。


条件反射的に思い出された感覚に、俺は思わず空いている左手の甲を口に当てる。


「んんぅ……」


「──ッ!?」


その俺の動きに触発されたのか、蒼衣が俺の腕を、さらに強く抱きしめた。


むにゅり、と。


押しつけられたふたつの柔らかさに、急激に理性が溶かされそうになる。ギリギリの自制心を保ちながら、なんとか腕を抜こうとするも、動けば動くほど、その感触は伝わってくる。


それどころか、蒼衣が離さないとばかりにさらに強く抱きしめるものだから、たまったものではない。


……これは、まずい……!


もう、欲望のままに触れたいと、そう叫ぶ自分を、無理矢理抑え込みながら、ただ耐える。


早く、起きてくれ──!


その心の叫びは虚しくも、そして当然届くはずもなく。


俺は、それから1時間ほど、己の欲望と戦い続けることとなった。




──そして。


「んぅ……。あ、おはようございます、先輩……」


「……おはよう」


ぐしぐしと右手で目を擦りながら起きる蒼衣に、俺は疲れ切った声で返事をする。


「……先輩、疲れてます?」


「まあ、な……」


「……お昼寝したのに、なんでですか?」


心底不思議そうにそう言う蒼衣。


だが、そんなこと、言えるはずもない。己の欲望との戦いに、ギリギリの勝利を収めた俺は、ただ、ひとつだけ、蒼衣に告げる。


「とりあえず、腕離してくれ……」


「?」


まだ触れている柔らかい感触に、俺は降参を示した。


……これ以上耐えるのは、無理だ……。

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