エピローグ 白に向けて
ときに雑談をしつつ、ときに呻きながら、お互いに課題が終わった頃には日を跨ぐ直前になっていた。
「終わった……」
「お疲れ様です」
「おう、お疲れー」
ぱたり、と床に倒れると、正面からはぼすり、とベッドの沈む音がした。恐らく、雨空が頭をベッドに預けたのだろう。
示し合わせたように、揃って大きくため息を吐く。
課題は、考えることも大変ではあるが、パソコンで文字を打ち込むことに不慣れな現代の若者である俺たちには、そこもひとつの疲労ポイントなのだ。スマートフォンのフリック操作に慣れすぎた末路である。
もういっそスマホで作ってやろうか……。なんて考えるが、社会に出たら大体パソコンを使うということを考えると、今のうちに慣れておかないと、とも思う。
……社会に出たら、か……。
……面倒くさいなあ……。
少しずつ近くなる現実から目を背けながら、腹筋だけで起き上がる。
それに気づいた雨空が、ぐでっ、と力を抜いたまま、視線だけこちらに向ける。
「……眠いです」
「もうちょっと頑張れ。家までの辛抱だ」
「はい……」
雨空が、ほわぁ、と小さくあくびをしながら、荷物を鞄に片付ける。
その後、玄関へと向かい、雨空がドアを開ける。
「わ、さむ……」
「おお、まだ冷えるな……」
毎日このドアを開けるたびに言っているような気もするが、寒いものは寒いので仕方がない。……1年通して暑いか寒いしか言ってない気がするな……。
「じゃあ先輩、おやすみなさい」
「おう、おやすみ」
眠いことに寒いことも相まってなのか、雨空が階段を降りるのがいつもより早い気がした。
「雨空」
そんな早足の雨空を、俺は呼び止める。ひとつ、言っておきたいことがあるのだ。
「はい?」
くるり、と雨空が振り返る。
「その、チョコ、ありがとな」
なんとなく、もう一度言っておきたかったのだ。少し恥ずかしくて、頬を掻く。
「はい!」
雨空が笑って答えたのを見て、小さく息を吐く。
「それだけだ。今度こそおやすみ」
「はい、おやすみなさい」
隣のマンションへと向かう雨空を見届ける。
エントランスへと入ったのを見て、俺は部屋へと戻った。
さて、ここからは考えないといけないことが山ほどある。
まだ残っている別の課題や、テストもそうだが、さらに重大なものだ。
ホワイトデーのお返し、である。
……何を渡せば良いんだ……。
俺は、今までバレンタインデーにチョコを貰った経験もなければ、ホワイトデーに何かを返した経験もないのだ。
昼間に一度放棄したことを考えながら、シャワーを浴びて、ベッドに入る。
…………うーん。
やっぱりわからねえな……。
そんな、ひと月先のことに頭を悩ませながら、俺の意識は眠りへと落ちていった。
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