第7話 ふたつでひとつの
昼食をとり、少し休憩してから、俺たちは先ほどの店の向かいにあるお土産店に来ていた。
「可愛い……!」
そう言って、雨空が手にとっているのはペンギンのぬいぐるみだ。
掌より少し大きいくらいのペンギンのぬいぐるみを、雨空は見つめ続けている。
ぴこぴこ、と手を動かしてみたり、毛並みを触ってみたりと、どうやら相当気に入ったらしい。
「……気に入ったのか?」
そう聞いてみると、やはり予想通りの返答が返ってくる。
「はい。すごく可愛くないですか?」
「まあ、わかる。目とかくりくりだしな」
「ですよね。……買っちゃおうかな」
そう言う雨空から、俺はぬいぐるみをひょい、と取る。
「言ったろ? 今日は俺が払うって」
「え、いや、さすがにこれは……」
「いいんだよ。今日は俺が払う」
どれだけ言っても曲げないことがわかったのか、雨空は、
「じゃあ……お願いします」
と言って、ぺこり、と頭を下げる。
そして、もうひとこと。
「あの、もうひとつだけ欲しいものがあるんですけど、いいですか?」
そう言って、上目遣いでこちらを見る。
思わず、心臓が跳ねた。
……やっぱり可愛いな、こいつ……。
ドキッ、としたことを悟られないように、なるべく平静を装って答える。
「お、おう。どれだ?」
「これ、です」
そう言って、雨空が差し出してきたのはストラップだ。
どうやら2つ入っているいるようで、それを合わせると、ぴったりと合わさるように出来ている、ペア用の赤と青のイルカのストラップ。
「……その、先輩とひとつずつ持ちたいな、と……」
雨空が、頬と耳を真っ赤に染めながら、そう言う。
「──ッ」
思わず、声が出そうになった。
はっきり言って、めちゃくちゃ可愛い。
「……ダメ、ですか?」
そして、ダメ押しの上目遣い。
「……い、いや、ダメじゃ、ない」
ダメなはずがない。
「よかったです……!」
ほっ、と胸を撫で下ろす雨空は、照れ笑いをしながら、顔の熱が抜けないようで、その後ぱたぱたと手で顔を仰いでいる。
「……あとは、なんか欲しいものあるか?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
「おう」
それを聞いて、俺はレジへと向かう。クレジットカードで支払い、店の外へと移動した雨空の元へと戻る。
「先輩、ありがとうございます。……それで、さっきのストラップなんですけど」
「おう」
「一緒にスマホにつけませんか……?」
「良いけど、俺のスマホにストラップつける部分ないぞ?」
「それは大丈夫です。イヤホンジャックにつけられるようになってますから」
そう言われて、袋の中のストラップを見る。さっきは雨空に気を取られすぎていて気付いていなかったが、たしかにイヤホンジャックに挿せばストラップとして使えるようになっているようだ。
「……せっかくだし、今からつけるか」
俺がそう言うと、雨空は嬉しそうに笑う。
「はい! 色、どっちがいいですか?」
ストラップの色は、赤と青だ。
「俺は青がいいけど、雨空は?」
「わたしは赤がよかったので、ちょうどいいですね」
「そうか。……ほい」
それを聞いて、俺はストラップを取り出す。雨空に赤を渡し、俺は青をスマホに取り付ける。
「えへへ……。ありがとうございます、先輩」
「……ん、おう」
ストラップをつけたスマホを顔の横まで上げながら笑う雨空は、上目遣いよりも、照れ笑いよりも、今日一番に可愛かった。
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