第8話 湯上がり後輩

雨空が風呂に入っている間、「くつろいでいてください」と言われたものの、そうはいかないのが男というものだ。


女の子が風呂に入っている。しかも、美少女。それだけで、何故かソワソワするのは男として仕方がない。落ち着かないままソワソワしている間に、雨空は風呂から上がってきた。


しかし、そこで終わりではない。


男性諸兄は分かっていただけるだろう。


風呂に入っている美少女を思い浮かべ、耐えた後に襲ってくるものはもちろんあれだ。


湯上りの美少女だ。


妄想はいいものだが、目の前にいるのもまたいいものだ。


上気した頬、ドライヤーで乾かされてはいるが、普段よりしっとりとした髪、そして、いつもより強く感じるシャンプーの香り。


さらには普段の服装とは似ても似つかない、薄めの部屋着。ホットパンツから伸びるすらりとした脚。そして何より、シャツを押し上げる膨らみだ。普段はわかりにくかったものの、どうやら着痩せするタイプらしい。しっかりとその双丘は、存在を主張していた。


まあ、なんというか。


端的にいえば、耐えがたい欲求が巻き起こる状況だ。


だから言っているのだ。もう少し危機感を持て、と。


「あ、先輩。なにか飲みます?」


そんな俺の心の中はつゆも知らず、雨空はいつも通りだ。


「お前と同じので」


「わかりました」


そういうと、なにかをグラスに注ぐ音が聞こえた。


「どうぞ」


「さんきゅ」


ふわり、と漂うシャンプーの香りが強くなり、脳を痺れされるのを感じながら、グラスを受け取る。


冷たい液体を一気に飲み干し、痺れた思考をクリアにする。味はよくわからなかったが、恐らくスポーツドリンクだろう。


変わらずガタガタと窓が揺れる音を聞きながら、何も考えないように、テレビをぼーっと眺める。


バチン! と大きな音がし、雨空の小さな悲鳴が聞こえると同時に


──唐突に、視界が黒に染まった。

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