記録40 魔王様ってどんな人?
ぶらぶらと今日も魔王城内を歩くクローチェ。
ぼーっと窓から外の景色を見ていると、クローチェのすぐそばで転移魔法の魔法陣が現れる。
「姫様、こちらにいたのですね」
転移してきたのはフィクだ。
「フィク〜どうしたの?」
「勇者殿と吟遊詩人殿が姫様に会いたいと」
「勇者が?なんの用だろう?」
「姫様に聞きたいことがあるようです」
「とりあえずわかった。いこうか」
差し出されたフィクの手を取りクローチェは勇者リザシオンと吟遊詩人フォルティがいるところまで転移した。
「あ、クローチェ!こんにちは」
リザシオンはクローチェの姿を見つけると、金色の瞳をキラキラさせて挨拶した。リザシオンの隣に立つフォルティもにっこり笑っている。
「ごきげんよう、勇者さんと吟遊詩人さん」
たまには姫らしくクローチェはカーテシーをした。
「それで、聞きたいことって何?」
「その……人、魔族探しを手伝ってほしくて」
「魔族?どの魔族を探してるの?というか、何で探してるの」
リザシオンはクローチェに近寄る。
「……犯人探しで、この間の運動会で親しくなった魔族達から情報を聞きたいんだ」
小声でヒソヒソとリザシオンはクローチェの耳元に顔を寄せてそう言った。
クローチェはぽんっと手を打つ。
すっかり忘れていた。勇者も魔王を裏切った犯人探しを手伝ってくれていたのだ。
「あれ、それじゃあミーチェちゃんは?金髪の格闘家君もいないみたいだけど……?」
きょろきょろとクローチェは友達であるミーチェの姿を探すが見当たらない。
「今日魔王城に来たのは俺とリザシオンだけ。ミーチェとアガットは別で調べてる」
フォルティがそう答えれば、クローチェはがっくりと肩を落とした。
「そっかぁ……ミーチェちゃんとお話ししたかったなー」
リザシオンはちょっとふてくされる。
「いいなぁ……ミーチェはクローチェに名前を覚えてもらえて」
隣のフォルティがそっとリザシオンの頭をなでる。慰めてるようだ。
「えっと……それで、どの魔族を探しているの?」
「まず、ルナーリアさんとリナリアさんを探しているんだ。二人とも今日は仕事が休みらしくて……」
「ルナーリアとリナリア……二人とも休み……あ、ならあそこにいるかも?」
クローチェはルナーリアとリナリアがいるであろう場所にリザシオン達を案内する。
「……食堂?」
案内されたのは魔王城内の食堂だ。
迷うことなく奥へと進んでいくクローチェの後をリザシオンとフォルティは追いかける。
「あ、やっぱりいた。お〜い、ルナーリア!リナリア!」
クローチェが声をかけると、パッとルナーリアとリナリアは顔を上げる。
「ひ、姫様……!」
「フィクに勇者君と吟遊詩人君もいるじゃん」
2人はどうやらパフェを食べに来たらしい。テーブルには食べかけのパフェが2つ乗っていた。
「本当にいた……」
リザシオンは思わずクローチェの方を見る。
「二人とも、食堂の新作スイーツが食べたいーってこの間、言ってたから〜」
クローチェはえへへと笑った。
「魔王様に反感を抱いていそうな魔族?」
リナリアはうーんと唸る。
「わ、私達の知り合いの魔族には、い、いないと思います……。みんな、ま、魔王様、魔王代理様、姫様のこと、その、だ、大好きですから……」
ルナーリアはもじもじしながらそう言った。
リザシオン達は2人に礼を述べて次の魔族を探すことにした。
「ココさんがいそうな場所ってわかる?」
リザシオンが次に探すのは、心が読める魔族、ココだ。
「ココかぁ。うーん……たぶん、あっちにいると思う」
クローチェが指差す方向にあるのは、魔族の居住地区だ。
仕事が休みの魔族達が、自由に過ごしている。寝てたり、お喋りしてたり、競い合ったり。
「ココ〜いるぅー?」
クローチェがそう声をかけると、ふよふよと何かがクローチェの目の前に降りてきた。
眼球を模したバランスボールサイズの玉にだら〜っと乗っているココがクローチェの目の前に現れる。
「やっほー姫様。どしたの?てか、勇者君もいる〜お久しぶり〜」
「ココ、本当にこの場所好きだよね〜」
「大好きだよ〜。仕事が休みで気が緩んでる魔族達は、心の声がだだ漏れだし〜面白いし〜」
ココはニヤリと笑った。
「裏切り者は〜見つけ次第、ちゃーんと魔王代理様に報告してます〜」
ココは自身の髪をくるくると指に巻きつけながらそう言った。
心が読めるなら、犯人がわかるのではと思ったリザシオン。しかし、既にココはそういうことをしていた。
「え、じゃあ何で、主犯格の魔族は見つけられてないの?」
リザシオンがそう聞くとココは面倒くさそうな顔をした。
「この魔王城にいる魔族はみーんな私が心が読める魔族だって知ってるのー。雑魚は甘っちょろいからすぐに見つけられたけど、さすがに主犯格の奴らはガードがしっかりしてる。そうそうボロは出さないよ〜」
それを聞いてリザシオンはなるほどと思った。
クローチェはリザシオン達が探している魔族をサクサクと見つけていった。
「すごいね、クローチェ。魔族のみんなをよく見ているのがわかったよ」
リザシオンがそう言えば、クローチェはえへへと笑った。
「私、魔王の娘だし」
そんな時、「姫様ー!」と呼ぶ声がした。声がした方を見れば、魔王城内の図書館の司書が走ってきた。
「あれ、どうしたの?」
「姫様!そろそろお勉強の時間です!ムート館長が待ってますよ〜!」
「え、もうそんな時間!?うわわ〜急がなきゃ!ごめんなさい勇者!私、もう行くね!困ったことがあったらフィクに聞いてみて!」
バタバタとクローチェは司書と一緒に走り去った。
「さて……クローチェが行ってしまったね。どうする、リザシオン?今日も大した情報は得られなかったけど」
フォルティにそう言われ、リザシオンはうーんと唸る。
ふと、困ったことがあったらフィクに聞いてみて、というクローチェの言葉をリザシオンは思い出した。
「あの、フィクさんって魔王様のことをよくご存知ですか?」
「えぇ、もちろん」
「その……魔王様ってどんな人なんですか?」
リザシオン達は、魔王のことをよく知らない。今さらだが、魔王のことをよく知らないで犯人探しするのは無謀だったなと思った。
「そうですね……魔王様は、変わり者でしたね。というか、魔王代理様、姫様も変わり者ですね」
「え、そうなんですか?」
「はい。魔王様、魔王代理様は、とても素晴らしい戦闘技術をお持ちですが、魔族にしては珍しく、戦うことにあまり興味のない方なんです」
「そうなんだ……ちなみに、何に興味があるの?」
「魔王様は睡眠と甘味、魔王代理様は、小動物のお世話。そして、姫様は人間の文化を調べること」
「睡眠と甘味が好きな魔王様……」
「寝て食べて……のんびり過ごすのが好きな方だったのかな?」
フォルティがそう言えば、フィクは頷いた。
「えぇ。仕事を早く終わらせて、一分一秒でも睡眠時間の確保か、甘味を食べてまったりする時間にしたいと考えている方でした」
「そっか……魔王様ってそういう人だったんだ」
リザシオンはそう呟いた。
リザシオン達は魔王城での情報収集は今日はここまでにして、帰ることにする。
ミーチェ達にもフィクから聞いた魔王の話をしようと急ぎ足でリザシオンとフォルティは帰っていった。
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