記録15 一緒にアイドルデビュー?
「アイドルっぽい事をしてみたい?」
クローチェの専属メイドであるフィクはクローチェの言葉をおうむ返しに聞く。
「そうなの!ルナーリアが作る、可愛いふりふりドレスを着て~魔王城の中心で歌って踊ったら楽しそうじゃない?」
クローチェは腕をぶんぶん振りながらそう語る。
「なるほど・・・いかにも、姫様の好きそうな事ですね」
「さすがフィク!わかってるぅ~」
クローチェはキラキラとした瞳でフィクにグイグイ近づく。
「まぁ・・・良いんじゃないですか?魔王城の中心で歌って踊るの」
「え!いいの!?フィクが否定をせずに良いって言ってくれた!?珍しすぎる!」
フィクは少し呆れ顔。
「別に構いませんよ・・・。人間の領地に行きたいだのと言われるよりは、遥かにマシですから」
ガバッと勢いよくフィクに抱きつくクローチェ。
「わーい!なら、さっそくルナーリアに衣装のお願いをしなきゃ!探しに行こー!」
クローチェはさっそく、フィクを連れてルナーリアの元へ向かう。
「アイドルっぽい、ふりふりの衣装・・・ですか?」
趣味の裁縫を楽しんでいたルナーリアの元にやってきたクローチェから、アイドルっぽい衣装が作れるか聞かれる。
クローチェの隣に立つフィクは、「無理なら無理だと言っても大丈夫ですよ」とルナーリアにそっと言う。
「だ、大丈夫です!ア、アイドルっぽいと言うことは、踊りやすく、見栄えのする衣装を作れば良いって事、ですか?」
ルナーリアの言葉に、うんうんと激しく頷くクローチェ。頭の動きに合わせてお下げ三つ編みが揺れる。
「そう!そうなのよ!さすがルナーリアッ!ぎゅー!」
クローチェ、ルナーリアにぎゅ~っと抱きつく。
「わ、わわ・・・!あ、あの、えっと、姫様は、何か衣装に御希望とか・・・ありますか?」
ルナーリアがそう聞けば、はっとクローチェが何かに気づいた表情をする。
そして、ルナーリアから離れ、フィクとルナーリアの方を見ては、もじもじと恥ずかしそうに喋り出す。
「あ、あのね・・・私、フィクとルナーリアと一緒に歌って踊りたいなぁ~って、思っててね・・・きっと二人と一緒なら、すご~く楽しいと思うんだよね。どうかな?私と一緒に歌って踊ってくれませんかっ・・・!!」
フィクとルナーリアはぽかんと口を開けたまま固まる。
そのまま、しばしの沈黙・・・
「や、やっぱり駄目・・・かな?」
クローチェがそう言えば、二人ははっとする。
「だ、駄目だなんて・・・・!まさか、わ、私、とっても嬉しいです!と、とっても嬉しいお誘いです・・・!」
ルナーリアは慌てそう言えば、フィクも同意をする様にうんうんと頷く。
「私も・・・まさか、姫様からそんなお誘いが来るなんて、ちょっと夢みたいです」
フィクがそう呟けば、クローチェは「それじゃあ・・・!」と、嬉しそうに頬を染める。
しかし、二人は申し訳なさそうな表情をする。
「そ、その、とっても嬉しいのですが・・・やっぱり、姫様にとびっきり素敵な衣装を着て貰いたいです。そ、そうなると、衣装を作るだけで私は、精一杯です・・・」
ルナーリアはそう言って、申し訳なさそうに縮こまる。
「私も・・・やっぱり、目立つ様な事はあまり得意ではありませんし・・・それに何と言っても、姫様が楽しんで頂ける為にアレコレ準備するので私も手一杯だと思います。やるからには、徹底的に、完璧にやりたいですしね」
フィクもそう言って、ちょっぴり困り顔。
「そ、そっか・・・そうだよね」
クローチェ、しょぼん。
しかし、ガバッとシャキッと起き上がり、フィクとルナーリアの手を握る。
「フィク、ルナーリア。話を聞いてくれてありがとう!ルナーリアの作る衣装、楽しみにしてる!フィク、魔王城の皆が楽しめる、素敵なライブを作ろうね!私、2人の分も歌って踊って、2人が笑顔になっちゃうライブをするね!」
クローチェはそう言って、にっこり笑う。
クローチェのその言葉にうるっと涙目になるフィクとルナーリア。
そこでフィクが1つ提案をする。
「姫様、せっかくですし他の方を誘ってみてはいかがでしょう?他の方でしたら、姫様と一緒に歌いたいと言ってくれる人がいるかもしれませんよ?」
「お、大勢のライブパフォーマンスなら、な、なかなか派手になりそうですね・・・!」
フィクとルナーリアがそう言えば、クローチェは瞳をキラキラさせる。
「派手!めっちゃ華やかで楽しそうだね!!いいね、いいね!ありがとう。フィク、ルナーリア!さっそく皆に聞いてみるっ!」
そう言って、クローチェは意気揚々と飛び出していった。
「何で、何で・・・誰も一緒に歌って踊ってくれないのぉおおお!?」
クローチェは自室のベッドの上でじたばた暴れる。そのせいでフリルたっぷりのスカートがひらっひらっとなって、もこもこパンツがちらっと見えている・・・
クローチェは魔王城内のほとんどの臣下たちに聞いてまわったのだが、皆に断られたのだ。
こんな感じで。
『わぁ~!クローチェ様、歌うのですか?楽しみですね~!あ、だからルナーリア様もウキウキワクワクしてたのですねぇ!私も衣装作りを手伝ってこようかしらぁ!そういえば、こないだ素敵な宝石をゲットしたのですよ~!アクセサリーに使えないか、ルナーリア様に聞いてきますわぁ~!それでは~!』
『姫様がライブするの?なにそれ~!最高に楽しそうじゃ~ん!じゃあ、皆で人魂を詰め込んでペンライト作って応援するね!そうと決まったら早速つくらなきゃー!それじゃあ、またね!姫様っ!』
『なるほど!!それでフィク殿が張りきってたのですね!ならばボクもフィク殿の会場作りを手伝ってくるですー!!』
こんな感じで断られてしまったのだ。と言うか、クローチェが最後まで話す前に皆、どっかに行っちゃったのだ。
「うぅ・・・皆が楽しみにしてくれてるのは嬉しいけどぉ~・・・ぼっちでライブするの?えぇ~そんなぁ~!」
再びじたばたするクローチェ。
そんな時だ。
ギシッと、クローチェが寝っ転がるベッドが軋む音がした。
「だったら、お母様と一緒にライブをすればいいじゃない?」
クローチェが寝っ転がる側に座る美女、もとい・・・
「お母様!?」
クローチェの母こと、魔王代理がそこにいた。
「え、待って!?何でここにいるの!仕事は!?」
クローチェがパニックになりながらそう聞けば、魔王代理は晴れやかな笑みを浮かべる。
「今日分のノルマは達成よ!!そんなわけで、クローチェ!ぎゅぅう~!」
魔王代理はすかさずクローチェを抱きしめる。
「うぐっ!?やめ、やめて・・・!お母様の立派な胸で顔が!息が吸えないっ!」
何とかクローチェは魔王代理から距離を離す。
「はひぃ・・・お母様の胸に殺される・・・」
やや青ざめた顔でクローチェで魔王代理を見るが、魔王代理は上品に笑うだけだ。
「そうそう、クローチェ。話を戻すけど、お母様と一緒にライブするのはどうかしら?」
「そ、そうだった。ライブの話よ、ライブ。流石にお母様と一緒にとか、恥ずかしいし・・・でも、お母様と一緒ならすご~く心強いけれど・・・てか、お母様は仕事の方は大丈夫なの?」
クローチェがそう聞けば、魔王代理はキリッとした顔で答える。
「大丈夫よ!むしろ、ちょっと休んだ方がいいって言われたわ」
「や、休んだ方が良いなら一緒にライブするんじゃなくて、観てた方がいいんじゃないの?その・・・お母様が良ければ、フィクに頼んで一番良い席を用意するけどって、うぐっ!?」
クローチェが言い切らないうちに魔王代理がクローチェを抱きしめる。
「クローチェ、本当に優しい子ね~!お母様、感動と嬉しさで涙が止まらないわ!」
「いや、お母様。涙が止まらない依然に泣いてないですけど?むしろ、ニコニコ笑顔ですけど?」
クローチェはやや苦しそうな顔をしながらそう言う。
「うふふ。クローチェと一緒にいるだけで笑顔になっちゃうわ。ライブも魔王城の皆をニコニコ笑顔にしましょうね。私たち2人で!」
「うんうん、そうだね・・・え?何か、勝手に話を進められてる気がするんだけど!?」
クローチェ、魔王代理と一緒にアイドルデビューするそうです。
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