第290話 モデルチェンジ

「しかし大将の《ショップ》スキルなら、深海でも問題なく進むことができる乗り物とかもあるのではござらんか?」

「まあカザの言う通り、潜水艦を購入しようと思えばできるが……俺に操舵技術なんてねえ」


 特別な訓練も受けていないし、潜水艦の構造だって把握していない。今から勉強してもいいが、それだとどうしても時間がかかって仕方ない。

 まあファンタジーアイテムの潜水艦もあるにはあるが、地球産もそうだが、どっちもバカ高い。


 無人潜水艦ならともかく、人を乗せて安全に深海一万メートルまで潜ることができる艦となれば目が飛び出るほどの高額だ。


 普通の潜水艦で200億円以上だが、安全性や万が一モンスターなどに襲われた時に対応できるようなものは、軽く1000億以上の値がつく。今の俺の資金ではお手上げだ。


「では生身でも潜れるようなアイテムなどはないのでござるか?」

「……あるにはある。《マーメイドキャンディ》ってのがあって、これを食べると一時的に水中でも呼吸や会話ができるようになる。それに水圧にも耐えられるだろう」

「それに問題が?」

「効果時間が短くてな。一時間が限界らしい。しかも続けて使用はできないタイプだ」


 効果が切れれば、三十分間の休息が必要らしい。これでは深海でまともに動くことはできない。


「こうなったら金を溜めて潜水艦を購入するのが一番妥当かもな。だが何百億、いや、それ以上の金を回収できるかどうか……」


 実際潜水艦を航行できるようにしても、【ダイヤモンド遺跡】でそれ以上の報酬が期待できればいいが、もし下回ったら目も当てられない。


 それに簡単に何百億というが、もし集めようと思ったら、もう美学など無視して所構わずに目に映ったものを売却していくしかなくなる。地道に貯めようと思ったら、それこそどれだけの時間がかかるか分からないからだ。


 俺含め、皆が何か良い案がないか唸っていると……。


「ねえねえ、ボーチ」

「ん? 何だオズ?」


 考え込んでいる俺の服をクイクイッと引っ張ってきた。


「ボーチは海底に行きたいん?」

「ああ、そうだが」

「だったらボクが連れてって上げるのん!」

「そうか、そいつは助かる……って、え?」

「「「「え?」」」」


 俺と同じように、オズ以外の全員も呆けてしまう。


「オ、オズ、今何て言った?」

「だ~か~ら~! ボクが連れてってあげるって言ったのん!」


 どうやら聞き間違いじゃなさそうだ。


 ……いや、そもそもよくよく考えれば、この話はオズから出たものだ。そしてかつてドワーツは、その海底にある【ダイヤモンド遺跡】に足を踏み入れている。


「まさか……《オズ・フリーダム号》は……行けるのか? 海底に?」

「うん! ボクはただの船じゃないのん! かの大海賊、ドワーツ・テイラーが乗った船だよん! 海の上はもちろんのこと、その気になったら海の中もスイス~イなのん!」

「……一体どういう原理なんだ?」

「ん~じゃあその眼で確かめてみるといいよん。ついてくるのん!」


 急にオズが走り出したので、俺たちも半信半疑ながら彼女のあとをついていく。

 到着した場所は、船が停泊している海岸だった。


「ほらほらぁ、みんな乗ってん!」


 とりあえずオズが言ったように、俺たちは甲板へと乗り込んだ。


「ずいぶんとボロボロですが、よくこれで航行できますわね」


 イズの言う通り、確かに見た目は今にも沈没しそうだ。


「大丈夫なのん! ボクさえ無事ならどこへでも行けるよん! じゃあさっそく出発するからねん!」


 驚くことにひとりでに動く船。いや、まあ幽霊船だしおかしくはないが。そもそもこうやって乗れている事実がすでに疑問ではある。

 誰も舵取りせずに船が動き出し、沖までやってくるとピタリと止まった。


「じゃあこれから潜るからん!」

「い、いや待てオズ! 潜るってこの状態でか!? 水が入ってきたら俺たちは呼吸ができねえし溺れちまうぞ!」


 思わず声を荒らげてしまうが、オズは「そのままで大丈夫ん!」と笑いながら言う。


「《オズ・フリーダム号》――モデルチェンジなのんっ!」


 オズが発言した直後、俺たちは愕然とする光景を目にすることになる。

 突如船のあちこちが壊れ始めたのだ。いや壊れ始めたのではない。それはまるでレゴブロックのように次々と剥がれていき、また別の場所で合体して船の形を変化させ始めたのである。


 そうして俺たちが息を飲んでいる間にも、船はどんどん帆船から姿を変えていき、気づけば周囲を壁で覆われた潜水艦のような船として生まれ変わった。


「「「「…………」」」」

「フフフ~ン! どうどう? これがボクの真骨頂――モデルチェンジなのんっ!」


 自慢げに胸を張っているオズに対し、俺たちはまったく予想だにしていない現象に絶句していた。


「あ、あれぇ? えっとぉ……みんな? ボーチ?」

「……オズ」

「! ど、どうしたのん?」

「オズ! お前すげえよ!」

「ふぇぇ!?」

「お前マジですっげえ船だよ! ハッキリ言って感動したぞ!」


 まさかこんな場所でロボットのような合体シーンを見られるとは思わなかった。やっぱり俺も男だ。こういう変形する乗り物というのは何歳になってもロマンを感じるものだから。


「フフーン! そうでしょそうでしょん! も~っと褒めて良いよん!」


 完全に鼻を伸ばしているオズに、俺以外の者たちまで絶賛し始める。

 ひとしきり皆からの称賛を受けほくほく顔のオズに、俺は「これなら潜れるんだな?」と尋ねると、


「もうすでに潜ってるよん。ブリッジに行ってみるのん!」


 船首の方に新しく設置された舵がある場所へ向かうと、そこにはまたも驚くような光景が広がっていた。

 前方にはガラスが張られているかのように、海の中が見えるようになっている。オズの言うようにすでに潜っていたらしく、目前には海中の姿が映し出されていた。


 大体水深が30メートルほどだろうか。小魚の群れや岩場などが確認でき、日の光もまだ届いていて、キラキラと海が輝き美しい光景が広がっている。




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