第86話 流堂にざまぁ
崩原才斗たちが【王坂高等学校】へ車で向かった直後、一人家の中にいたチャケはすぐに行動を開始していた。
虎門シイナにあるものを手渡されている。
それは二枚の紙で、一枚には地図が描かれ、そこに向かうように指示があった。
チャケは彼女に従って、その場所へと急ぎ――。
「――たのもう!」
扉を叩いて中にいる者たちとコンタクトを取ったのである。
ここはある集団が根城にしているファミレスだった。当然今は本来の目的として使われていないが、拠点としては広くて住みやすいということで利用されている。
突然入ってきたチャケを見て、中にいた面々は驚いていた。
「頼む! ここのリーダーと話がしたいんだ! 今すぐに!」
時間が勝負だということを知っているチャケは、なりふり構わずに大声を張り上げる。
当然不躾にも入ってきたチャケを歓迎するムードにはないことは明らか。
そこにいた連中の一人が、追い出そうとしたが……。
「まあ待て。話を聞こうじゃねえか」
一際ガタイの良い男がチャケを迎え入れることを決めた。
「もしかしてあんたがリーダーの大鷹か!?」
「! ……俺の名を知ってるってことは、俺たちが何者なのかも知ってるってことか?」
「ああ、『平和の使徒』だろ?」
ここに集う彼らこそ、今では巷では救世主とも呼ばれているダンジョン攻略集団である『平和の使徒』だった。
「ある奴からコレを預かってる!」
そう言いながら、チャケが虎門に渡されたもう一枚の紙を手渡す。
大鷹がそれを受け取り読み始めた直後、
「……! おい、お前ら! 今すぐ攻略の準備をしろ!」
と、仲間たちに告げた。
当然いきなりの指示に困惑する男たちだが……。
「円条からの直接指名だ。奴には大きな借りもある。それに今回の仕事をすれば、また割安で都合をつけてくれるらしい」
「おお! じゃあ次はサブマシンガンが欲しいっす!」
「俺はもういっそのこと戦車が!」
「いやいや、ここは暗視スコープを増やして、夜の攻略にも備えた方が良い」
などと口々に盛り上がり始めた。
その光景を見てチャケは唖然としていたが、そんなチャケに大鷹が笑いながら答える。
「悪いな、騒がしい連中で。仕事については了解した。ちょうど手すきだったからな。それに流堂について、俺たちも近々何とかしてえって思ってたしよ」
「あんたたち……手を貸してくれるのか?」
「おう。お前さんの彼女も、助けてやろうや。な?」
「……ああ、よろしく頼む!」
こうしてチャケは、頼りになる仲間を得ることができた。
そしてすぐに準備を整えて向かったのは、流堂が拠点として使用している【シフルール】というラブホテルである。
「――突撃ぃっ!」
ラブホテルにある幾つかの出入り口に部隊を派遣し、武器を持った『平和の使徒』たちが、一斉に押し入って行く。
普段と違ってかなり手薄になっていたこともあり、流堂の仲間たちは瞬く間に無力化されていき、次々とフロアが攻略されていく。
そんな中、チャケもまた武装したままホテル内を捜索する。
そして地下に通じる階段を降り、そこで巡回していた男を仕留め、次々と扉を開けていく。
その中で、無惨にも男どもに乱暴された女性たちも発見し、チャケは真っ青な顔色になりながら女性たちの顔を見ていく。
「……アイツがいない……?」
ホッとするのも束の間、だったらどこに……となって、ここを『平和の使徒』の者に任せ、自分は他の部屋を探すことにした。
あちこちから銃声が轟くなら、チャケもまた銃を構えつつ、一つの扉を蹴り破って中へと入る。
するとそこにもまた多くの女性が詰め寄っていて、壁際で全員が震えていた。
だがチャケは、その中で怯える一人の女性を見て思わず銃を落としてしまう。
「美……優?」
「……っ、ナリ……くん? ナリくん……なの?」
「美優っ!」
「ナリくんっ!」
互いに駆け寄りキツク抱きしめ合った。
「良かった……良かった……無事で……本当にっ」
「信じてた、信じてたよぉ、きっとナリくんが助けにきてくれるって!」
そこへ『平和の使徒』のリーダーである大鷹も姿を見せる。
「皆さん、すぐにここから脱出します。ご案内しますので、急いでください」
「え、えと……あなた方は一体?」
そう尋ねるのはこの中で一番の年長者であり、おっとりとした雰囲気を持つ女性だった。
「我々は『平和の使徒』です。あなたたちを助けに来た者です」
「まあ……やはり神様は見ていらしたんですね。私は田中小百合と申します。本当に……本当に感謝しますわ」
「ご無事で何よりです。では速やかに移動を開始してください。おいっ、この人たちを頼むぞ!」
大鷹が仲間たちに彼女たちの先導を任せる。
「そっちの二人も、嬉しいのは分かるが急いでくれ」
「! す、すみません! 美優……行こうか」
「うん! ナリくん!」
二人はもう二度と離さないと言わんばかりに手を繋ぎ、一緒に外へと出て行った。
※
わざわざ困惑していた崩原と流堂に謎解きをしてやったチャケ。
「すみません、才斗さん。……本当にすみませんでした」
「チャケ……いや、お前の気持ちは分かった。……あんがとな。それに虎門もよ。それとチャケ……生きててくれて本当に嬉しかったぜ」
「才斗さん……!」
そしてすべての説明が終わった際、俺はこちらを睨みつけてきていた流堂に言い放ってやる。
「――どうかしら、すべてを掌握し、自分の思い通りに事を運べていたと思っていた勘違い野郎さん?」
「全部……全部全部全部ぅ! てめえの仕業かぁ、女ぁぁぁぁっ!」
「私は虎門シイナ。死ぬ前に名前だけでも憶えてくれたら嬉しいわ」
圧倒的な上から目線で言うと、怒りで血管が破裂するのではないかと思うくらいに悔しそうな顔を見せてくる。
ああ、そうだ。この顔が見たかった。
人を陥れ、傷つけ、殺すことしかできず、救いようのない奴が有頂天になっているところから一気に叩き落すのは清々しい気持ちになる。
特に今回、流堂は長年に渡って練りに練った計画を実行し、あともう少しでそれが為せたはずだった。
それをたった一つの俺という存在でぶち壊された彼の胸中は、もうドロドロの煮え滾ったマグマのような怒りで満たされていることだろう。
「このクソ女がぁぁぁぁぁぁっ!」
さっきまでの逃げの姿勢はどこへやら、俺に向かって流堂が駆け寄って来た。
だがその前方に崩原が庇うように立つ。
「どけぇぇぇっ、崩原ぁぁぁぁっ!」
「言っただろ。お前の相手は――俺だ」
勢いそのままに繰り出された流堂の蹴りを左腕で防御したあと、そのまま奴の足に沿って身体を動かした崩原は、自身の両手を奴の腹部へとつけた。
「――《崩波》!」
「ぐがはぁぁぁぁぁっ!?」
大量の血液を口から吐き出しながら、流堂は両膝をつき、そしてそのまま仰向けに倒れてしまった。
今のは明らかに致命傷だろう。もう立つことはできまい。
「がふっ……ぁ……ぐ……ほ……う……ばらぁ……っ」
それでも凄まじい形相で崩原を睨みつける流堂。
「俺……は…………こんな……とこで…………終わらね……ぇ……っ」
「才斗さん、しぶとい奴ですから、さっさとトドメを刺した方が良くないですか?」
チャケの言うことももっともだし、彼もまた早くこの世から消えてほしいと思っているのだろう。
自分の仲間が殺され、彼女でさえ危険に晒されていたのだ。無理もない。
「――――待ってくれ!」
するとそこへ予想だにしない人物が現れた。
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