ゲルニカという歌を聞いたんだ。


深い空にたなびく雲

遠く見ゆるは蒼き山々

実り美しく黄金の海が

うねる様に波立っている


いと高き所におられる

神々の御技であろうか

いやそれは大地に暮らす

人々の願いなのだろう


実る稲穂の美しさは

明日を信じる人の慈しみ

子供達が駆け回るのを

老婆が微笑みながら見ている


今ここに美しき世界よ

暖かい明日を生きられます様に

滑らかな母の腕の中で

祈りながら微睡む


あぁ、あぁ、あぁ、空に


赤黒く染まる焔の空

老いも若きも倒れ伏し

焼き払われた世界で

大切な人の亡骸に縋る


私が欲しがらない物を

欲しがったあの人が

たくさんの命を消費して

私の全てを奪ってゆく


燻り煙を上げる大地に

積み重なる過去形の群れ

未来を亡くした物の瞳を

見つめるのは奪われたひとたち


今ここに残酷な世界よ

経済だの応報だの知ったこっちゃ無い

ちぎられた母を抱き

愛している、愛している、愛している


装置では無いその他でも無い

必要な犠牲でもなければ

ざまあみろなんて言葉じゃない

ただただ言葉をなくし立ちすくむ様な

クソッタレの世界であるなどと

諦められない信じてたまるか

焔は舐める様に美しい世界を焦がす

大切な全てを喪失してゆく

愛している、愛している、愛している

ひとが幸せでいる事に

罪の意識を感じてしまう様な

私の大切な物を

失うのに怯えてしまう様な

病みたる心をどう掬えば、どう抗えば

愛している、愛している、愛している


吹き荒ぶビル風にコートの襟を立てて

私の愛する世界はどこにあるのか

迷子になりながら今日を生きる

おまじないの様に繰り返そう

愛している、愛している、愛している

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