第14話 自分の道は自分で開け!
森の奥深く。生い茂る木や草に邪魔されながら
そこそこ高い身長にクリーム色と茶色が混ざる長い髪、燃えるような赤い瞳をした女性が何かに逃げるように森を走っていた。
どこかで怪我をしたのだろうか左足から赤い血を滴らせ足を引きづっている。
「しつこいんだよ!」
女性が大声を上げたそこには、足が8本ある奇形で大きなトカゲが草木を乱暴に切り分け近づいてきていた。顔中にいくつもある目は完全に女性を獲物として捕らえている。
女性は、"プロクス"と叫び、オオトカゲ目掛け手の平から炎の球を発射された。
その炎の球はオオトカゲの顔面に当たるも軽く怯むだけで気にせず折れ曲がった牙をむけながら近づいてくる。
女性は舌打ちしながら必死に逃げていく
「くそ!毒針部分は炎のナイフで切り取ったのはいいが、その際毒を一発もらっちまうなんて、我ながら迂闊だった。おまけに毒が回って意識が遠のいていく。
っち!こんなことならしばらくあそこで一晩休んでいくべきだったぜ」
遠のく意識の中諦めずもう一度トカゲに炎の球を投げようとした時。
「おわ!」
上がらない足のせいで木の根に引っかかり盛大に転んでしまい地面に倒れこんだ。
危機感を感じすぐさま立ち上がろうとするも体がいう事をきかない。
毒が体にまわりはじめたのだ。
「や、やろう……」
必死に声を上げ腕に力を入れるも雑草生える土から体は離れない。
オオトカゲは獲物がもうすぐ力尽きると理解したのかゆっくりと彼女の方に歩みよってくる。
まさに絶体絶命!
「こうなったら。あの魔法で…」
一瞬。女性の目がメラっと炎が灯った。
その時!
「もらった!」という声と共に生い茂る木々の中から飛び蹴りをするそう我らの放浪人が現れた!
蹴りの攻撃はオオトカゲの固そうな腹部に当たるとズズズっと足がめり込んでいき
そして勢いのままオオトカゲの体は九の字に曲がりながら吹っ飛び近くの木をなぎ倒していく!
放浪人は、女性の前に着地した。
「オオトカゲが通った道筋を外れ、険しい森林の中を進み不意打ちを与える。驚きですマスター」
「ある人に教えられた。己の道は自分で作れ!」
『その言葉の意味は正しいのでしょうか…』
突如現れたジャーバンドと会話している放浪人の姿を見て女性は
「なんだこいつ……」とつぶやきフッと力尽き意識を失った。
『この女性はオオクモトカゲに襲われていた方ですね』
ログは気絶した女性を確認する。
「みたいだな。とりあえず今はこいつを倒すことが先だ」
放浪人が止めを刺そう拳を強く握り睨みつけた。するとオオクモトカゲは何かを感じたように慌てて逃げていった!
「まって!」と追いかけようとした放浪人だったが
『マスター先にあの女性を介抱しなくてよろしいのですか?』
ログの言葉に足を止めた。
放浪人はオオクモトカゲと女性を交互に見て頭を掻くと
倒れている女性に近づいた
♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢
少し時が経った。
女性は何か持ち上げられている感覚を感じて眠りから覚めた。
といっても今だに体は言うことを聞かず指一本動かすのも目も開くのもできない状態だった。
音も何も感じなかったが触れている感覚だけが伝わっている。
何か肩と腰があったかいな、なんか浮いているみたいだ。…なんだこれ、
女性は、生まれて初めての感覚に楽だと思いつつも戸惑った。
なんたって動かない体をどこかに運ばれているのだから!
女性は必至に体の感覚を取り戻そうと意識を集中させる。するとガサガサっと草木が擦れる音が少しずつ聞こえてきた。少しずつだが感覚が戻ってきている。
目は…開きそうだな、と
女性は目に意識を集中させ重い瞼を少しずつ開いた……まだ毒が残っているのか視界がかすれてよく見えない。
目を懲らしめて、微かに見えた視界にうつったのは男の顔
「ッッッ!」
今の状況に理解した女性が慌てて、体を動かそうとするも指が動く程度しか動かない!
なんてこった!こんな恥ずかしい格好誰にも見られたくねえ!、
そう思うのも無理はない
なんせ女性は放浪人にお姫様抱っこをされているのだから
もう一度言うお姫様抱っこをされているのだから!
女性の体が反応するのを感じてか放浪人は女性の顔を見て
「起きたのか」と人の気持ちを知ってか知らずか吞気に声をかけた。
「お・・・せっ」
口が開かないのか女性がおろせと訴えようとするもうまく伝わらない。
「意識を取り戻したみたいだな。ログの言う通り動けないみたいだが」
「はい。大クモトカゲの毒がぬけるまで。まだ体を動かすの時間がかかります」
背中から聞こえるログの声に女性は驚いた。無理もない
「俺がいなかったら死んでたな」
「確かにその可能性は高かったと思われます。あのオオクモトカゲは、生きたまま獲物を食べる残忍な魔獣です。この辺り一帯の生物を食い荒らしているみたいで討伐報酬も高額です」
「高額か……惜しいことしたな」
放浪人が落ちこんだ。
「おろせ」
弱弱しい声を精一杯な女性。しかしその目しっかり放浪人を睨みつけ、覇気が宿る。
一般の人間なら気押されるだろうだが!馬鹿は違った!
「ことわる。がまんしろ」
放浪人は、特に気にすることなく難なく要求は拒否した。女性は、すぐさま言い返そうと口を開いたがまともに開かない状態。
まだまだ文句を言いたい言葉を諦め変わりにため息をついた。
女性は、落ち着くと放浪人に再び声をかける。
「あんたは?」
「おれか俺は…」
放浪人が少し迷いながらも「放浪人」今の自分の名をこたえた。
「ホウロウジン…変な名前だ」
「うるさい」
放浪人の言葉に女性は笑いそして
「わたしはディア」と名前を返した。
放浪人はそうかと返事を返す一方腕についているログが点滅する。
「ディアさんですね。友達登録しました」
背中から聞こえる声にディアは驚き辺りを見渡した。
「誰かいるのか」
「この声は、腕についているジャー何とかってやつから流れている」
放浪人がディアの背中にポンポンと腕を当てた。
「初めまして、私は放浪人様、もといマスターの補助する為のジャーバンド、ログと申します」
「ジャーバンドだと、これにそんな機能がついていたのか」
「マスターのは特別です。製作者、ミストレス様がカスタマイズして生まれたのです」
ジャーバンドにそんな機能をつけるやつがいたのかとディアは感心した。
「そうか、それにしてもお前には、借りができたな」
借り?と放浪人がピクリと反応する。
「あのオオクモトカゲから助けてくれたんだろ?ありがとよ感謝する。いつかこの借りは必ず返すからな」
笑いながら言うディアに対して放浪人は何故か顔に汗を流し気まずそうな顔をした。
「いや…すでに返してもらったっていうか…」
「返した?」
ディアはなにかを隠そうと放浪人の顔をマジマジと見ると……原因がわかって爆笑した。
「はっはは。なるほど」
放浪人の口元に食べ物のカスがついていた。
「申し訳ございません。マスターは我慢できず全てたべてしまって」
「我慢できなかった。どうしようもなかった」
「とマスターは供述してました」
「スマン」と放浪人は申し訳なさそうに目をそらした。
「ククク。気にするなよ。こっちは生かしてもらったんだ。それくらい安いってもんだ」
笑いすぎて出た涙を拭うとディアはまだ痺れが残る腕をあげた。
「それより、もう降ろしてくれるか?だいぶ痺れが取れてきたし、流石にその…この格好はキツイ」
「わかった」
一言返すと放浪人はディアに言われた通り足からゆっくり降ろすことにした。
ディアは地面に足をつけた。
「おわっ」
しかし痺れがまだ取れていないみたいで放浪人に抱き着いてしまう!
事故で許されると思ってんの?
「大丈夫か?」
放浪人がと目が合うとディアは顔を真っ赤にし焦り
「大丈夫だ!」
といい離れよろめき近くにあった木に捕まりうなだれた。
「情けねえ!こんな姿あいつに見られたら馬鹿にされる!」
ディアは恥ずかしさ120パーセント。
しかしディアは歩ける段階ではなく結局放浪人の肩を借りることで納得した。
「マスターもうすぐ夜になります。今晩休めるところを探してみては」
森林にかくれて空がまったく見えないが夜。
気温も下がり体力も消耗しているので流石に危険!
「といってもな」
辺りを見渡すも安全といえる場所がないようにみえる。
そんな中ディアは自分の右腕のバンドを操作し地図を確認する。
「ちょうどいい、このあたりにわたしがよく使う穴場がある。そこでやすもう」
行く当てもなかった放浪人はディアの提案にうなずくと
「これでおまえに借りはかえしたぜ。これであたしとおまえは対等な!」
ディアはいたずらっぽく笑うのであった。
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