第5話 社会生活への復帰の決心

スケジュールがぐちゃぐちゃじゃないか!!



退廃的な感じを出してみようと飲み干しそのままにしていたビールの缶を鷲掴みにして、きょとんとしている『わるもん』に向けて再度ちから一杯投げつけた。


「そちの怒りは尤もだ…」


その声をきいた瞬間に、めまいがして気を失った。


そちって…。


じいちゃんが、悪いんだ!

あの世で会ったら何も食べられないように入れ歯隠してやる!


そんなことを薄れていく意識の中で考えていた。




無断欠勤を続けて、三日が経った。


最近では、外へも出ることなく、パジャマ姿で一日を暮らす。




相変わらず『わるもん』は部屋にいたし、私のベッドの下がお気に入りのようだったが、深夜にトイレに行くとき、くるぶしあたりにそっと触れてくるようなセクハラをするので、段ボールでベッド下を塞いで入れないようにした。




その段ボールなどで、どんどん、部屋が見苦しくなっていく…耐えられない。


そもそも、このアパートは、ペット不可なのだ…。


見つかったら、不動産屋さんになんて言ったらいいかわからない。


「部屋、うつらなきゃだめかなぁ…」




頭を抱えながら、パソコンのキーを打つ。


「そもそも…なんだわぁー…動物って環境省の管轄なんだ…」




『わるもん』という動物は、身体又は財産に害を加えるおそれがある動物。


『わるもん』は、飼養又は保管をしてはならない。


ただし…


許可を受けることができれば、お医者さんは飼育できるということはわかった。


許可って、どこの許可?


特定危険動物って、都道府県知事の管轄?


『わるもん』は、公安の管轄じゃないの?国家転覆に関わる生き物だから…。






飼っては行けない種類の『わるもん』という生き物だけれど…。

飼い主の方へ守ってほしい5か条をじっと見ていた…。


1.動物の習性等を正しく理解し、最後まで責任をもって飼いましょう

2.人に危害を加えたり、近隣に迷惑をかけることのないようにしましょう

3.むやみに繁殖させないようにしましょう

4.動物による感染症の知識を持ちましょう

5.盗難や迷子を防ぐため、所有者を明らかにしましょう




はいはい…。


1.習性は正義の味方ネットワークの『わるもん』データベース で確認しよう…最後までっていつだろう…。そもそも『わるもん』の寿命を知らない。

2.危害とか…そんなことがあったら私の正義の味方生命が断たれてしまう。

3.繁殖て…こいつどうやって繁殖するのよ…。

4.感染症て…

5.所有者を…できるわけないじゃない!!私は正義の味方なのに!!




ということだ。




だめだ…。


もう、頭が働かない…。

慣れない難しいことをやりすぎた…。




体を床に投げ出すように倒れ込むと、変身ベルトが無造作に転がっていて、仕事道具を大事にできない私は、つくづく正義の味方失格だなぁと思った。




変身ベルトに手が届くところまでゴロゴロ転がって移動する。

パジャマのままで、寝転がったままベルトを装着した。




なんだか、変身の準備が整うと、気持ちがすぅっと落ち着いた。

仰向けになったまま両方の足をぶんと振り上げて一挙動で跳ね起きる。




両足は肩幅にスタンスを整えて、手はグーで腰の位置。

変身ポーズのセットボジションをつくる。


「変身ベルトも、たまにはメンンテナンスしてあげないとね…」と独り言のように呟き、腕をぐるりと回しながら体を捻るようにすると、光に包まれた体に目が眩んだ瞬間、一瞬で正義の味方が鏡の前に出現した。




「大丈夫かな?結構派手な音がしたかも…最近使ってなかったからなぁ…きちんと動いてるかな?」と、独り言を呟きながら腕まわりや、足回りを点検していると、鏡に写っている『わるもん』が目を見開いて激しく蠕動していた。




「ふるえてるのか…?」愕然とした思いでそれを認めて、一瞬で変身を解く。


『わるもん』には、私が正義の変身ヒロインだと一度も言ったことがなかったな…と今更考えていた。



「ごめんよ!びっくりしたねー。びっくりさせてごめんね!」と言いながら手を伸ばすと、激しく怯えるように蠕動しながら素早く後ずさった。

(こんなに早くこの子は動けたんだなぁ…)

生き物というのは、命の危険に敏感なのだ…。



よりによって、天敵と同じ閉鎖された空間にいるという事実を知った『わるもん』は、二度と私に懐くことはないだろう。私は知っているのだ…。




私は、ため息をつきながら、一週間は無断欠勤をするつもりだったが、四日を残して出社することに決めた。


相変わらず、額は切れていたし、頭頂部はハゲていた。




それでも、頭のてっぺんにおだんごを結い上げるくらいの髪の毛はあったので、とりあえずカモフラージュを行って、額には、傷パワーパッドを貼り付けた。




帽子を探したが、頭の上におだんごを結っていたのを思い出して苦笑いしながらかぶるのをやめた。


それでも緩めのニット帽だけはカバンに押し込んだ。




『わるもん』の様子を伺うような小声で、「いってきまーす…」と告げて扉を開けた。


気にはなったけど、鍵は閉めて行かなかった。




多分、帰ったら『わるもん』は恐怖のあまり、この部屋を出て行ってるだろう。


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