10/2(金) 穂積音和⑦

 先輩の教室を出てから、次の場所をスマホを覗き込みながら考えていると。



「なっちゃーん!! しおりん先輩っ!」



 顔を上げた先に、七瀬が走ってきていた。



「よかったー! あたしも時間空いたから、一緒に回ろうと思って!」

「おー。よく俺たちのこと見つけたな」

「うん! ほづみんからメッセがあって、なっちゃんとしおりん先輩が二人でいるから混ざったらって! いやー、ほづみん気がきくわー!」



 あいつ、俺らに置いて行かれたからって嫌がらせかよ!



「んじゃ行こ行こ! 昭和レトロ縁日、気になってたんだー!」

「あ、うん」

「そ、そうですねっ」



 今度は元気いっぱいな七瀬のあとをついて行く俺らだった。




………………


…………


……




「わーーーー! パチンコたのしーーー!」

「言葉だけ聞くと大変よくない語弊が……」



 昭和レトロ縁日という模擬店で、早速スマートボールという、パチンコ玉をはじいて穴に入れるゲームに興じる七瀬。

 小さいころに行った熱海のゲーム屋でも見たことあるけど、きちんと木で作って本格感出しているところが好感を持てた。



「おーっし! このままノナカの記録越すー!」

「センスはあると思うけど、せいぜい頑張れー」



 横から野中も口を出している。

 こいつ、俺と解散してからクラスの男子と集まって、だいたいここで遊んでいたらしい。

 詩織先輩はというと、紙でできたエコ金魚をすくうたらいの前に座って、水面を眺めていた。



「詩織先輩〜取れた?」

「いえ、なんの成果も。私が不得手なばかりに、いたずらにポイを破き、水面を汚すだけで。1匹も……救うことができませんでした……」

「あらスペクタクルなお話ですね」



 ポイが破れていても未練がましく、漂う金魚を見つめている。

 そんな先輩の頬に、飲み物をぺたりとつけてみる。驚いて「ひゃん!」とかわいい声を上げた。



「外の屋台で買ったんだけど、タピオカ。よかったらあげる!」



 二人で回る約束が途中で反故になっちゃって、申し訳なくて買ってはみたけど。お嬢さまってこういうの飲めるのかな。



「何組の、たぴおか、誰さんですか?」

「ぴってどんな苗字だよ! 流行ってるじゃん、雑誌でも見るでしょ?」

「!! この黒光りが、そのタピオカ……!」



 先輩は好奇心に目をキラキラと輝かせて、おそるおそる口をつけた。そしてひと口飲むと、表情がとろんと崩れる。



「えっと、気に入った?」



 そのままこくこくと何度も頷く。知性、飛んで行くほどお気に召したようでよかったです。


 その後、違う味もあることを教えると、先輩はあと2つ買って飲み比べをしていた。

 とろとろにとろけている先輩を見てると、俺も幸せな気持ちになる。


 ……見た目よりハイカロリーなことは黙っておこ。


 七瀬の分は自分で買わせて文句を言われたが、ククク……。世の中は不平等だということを教えてやったのだ。

 勉強代にパンチを頂戴することになったので、結局あいつの方が一枚上手だったわけだけどな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る