9/9(水) 部田凛々子①

「……たーかーなーしぃーーー」



 虎蛇のドアの隙間から、ゾンビのような土気色の顔をした男子が、恨めしそうに覗いている。これで4人目……。

 出し物に対して「差し戻し」を突きつけられた意義ありプンプン丸たちを、別室で作業中の凛々姉に案内すれば、その数分後、何人かがこうやって文句を言いに戻ってくるのだ。俺は最終苦情処理係になったらしい。



「あいあーい。撫でとく?」

「……ナデナデシテー」



 まじかよ、乗ってきたの初だよ。まーいいけど。

 作業の手を止めて、俺の膝に突っ伏す野球部の坊主頭をなでなでした。

 向かいの席の七瀬がシラーっとした視線をよこしているが、場を丸くおさめるためには、俺もお前も我慢しような。



「もーーちょっと、融通きいてもよくない? なんとかならんー?」

「野球部、なんの企画出したの?」

「球場広いからいろいろやるんだけど、その中の景品のお菓子がダメってー」

「まあ、そういう食いもんは、ちょっと難しかったりするんだよ」

「保護者のツテで大量にお菓子がもらえるんだぜ? それ使わない手はないだろ? 力説したんだけどなんなのあの人、1つ言ったら5億倍くらいの正論で返してくる。もうやだ……」



 あー、文句言いに行く人数が多すぎて、凛々姉もピリついて加減できてないんだろうな。合掌。



ガラッ



「ちょっとなっちゃんー!! なんなの、あの人なんだかすごいムカつくんだけど!! って、キャーーー!?!?」

「ああもう、いらっしゃいませーーー!!」



 新しく餌食になった女子が扉を開け、バッチリと男の花園を目撃されたのだった。

 言っておくけど、ちゃんと七瀬も音和も、詩織先輩も同じ室内にいるからな!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る