8/13(木) 部田凛々子⑥

ポンポン☆


 不意に、後ろから肩を叩かれて同時に振り返った。



「ラビッ……!!」



 凛々姉はそう叫ぶと、信じられないとばかりに口元を覆った。

 俺たちの真後ろ1メートルばかりのところに、ファンタジーランドの看板を背負うキャラクター、ウサギのラビリンが立っているではないか。



「え、なんでここに? だってラビリンと写真撮るのも1時間半待ちなのにっ!」

「イッテ! だからって! 俺を叩くな!」



 興奮して我を忘れている凛々姉が言うように、ラビリンの後方では子供たちが列を作って並んでいた。



「チッ。なんだよウサ公」

「チュン太。ラビリンへの無礼はあたしが許さない」



 その目、本気!?



「はいはーい、そこのカップルの彼女さーん!」



 頭上のスピーカーからそんな声が聞こえて、いつの間にか、ラビリンの隣にヘッドセットを付けたつなぎ姿のお姉さんが現れた。



「お誕生日カードを身につけていらっしゃいますね? ラビリンから、プレゼントがあるそうですよ!」



 ウサギの着ぐるみはこくこくと頷き、ペコリとお辞儀をした。

 そして頭を上げたとき、ラビリンの手にはファンスタの絵柄が描かれたビニール袋が……って、手品?



「ファンタジーランドのバースデーストラップでーす! どうぞ大事にしてくださいね♪」



 お姉さんの声に合わせ、ラビリンが凛々姉に袋を押し付ける。目をパチパチさせながらそれを受け取る凛々姉を見て、お姉さんはニコッと笑った。



「うふふ。お誕生日に、悲しい顔はNO! というわけで、ラビリンと一緒に写真を撮りましょー!」



 お姉さんが指をパチンと鳴らした。

 それと同時にラビリンは小さく飛び上がる。そして二人はベンチの左右分かれて回り込み、俺たちの正面に来た。



「じゃあ彼女を真ん中にして、ラビリンがおじゃましまーす! 彼、カメラ持ってますか?」



 ニコニコと俺を見るお姉さん。



「いや、カメラは」

「おや、スマホがありますね〜☆」



 陽キャすごいな、ぐいぐい来るんだが!



「じゃあ借りまーす!」

「あっ」



 半ば強奪される俺のスマホ……。



「わっ」

「おっと!!」



 どんっと倒れてくる凛々姉を慌てて支えた。身体が一気に近づく。

 ベンチの端に座ったラビリンが親指を立てる。グッドじゃねえよ、クソウサギ……!



「ほーら、もっと二人とも寄ったら、こっち見てくださーい☆」

「お、おねーさん、俺たちそういうんじゃ……」

「……言う通りにして」



 凛々姉が小さくささやいた。それでも顔の距離が近いから、その声は鮮明に届く。

 だから俺は、それ以上、何も言えなくなって。



「ハイチーズ♪」



……そうして俺たちはなぜか(ラビリン入りだけど)、超絶密着しているという、恥ずかしい写真をスマホに残すことになったのだった。

 もちろん、お姉さんの持っていたカメラで撮った写真も買い取ったよ。

 だって、凛々姉がそのまま指をくわえるんじゃないかって思うほど欲しそうに見てたら、そりゃあ、ねえ?

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