8/10(月) 月見里 蛍②

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 言われた通り夕方に、ひとりでほたるの部屋を訪れた。ノックをするが返事はない。

 そっと扉を開けてみると、本を読んでいたほたるがちょうど顔を上げたところだった。



「よっ。久しぶり」

「あっ、おにいちゃん」



 本を閉じると、気まずそうに目を逸らされた。



「返事がなかったから、寝ているかと思った」

「本、読んでたから」

「体調は?」

「うん、落ち着いてる」



 そうは言うが顔は真っ青だ。

 俺はベッドサイドの椅子に座った。



「なに読んでるの?」

「さあ」



 ほたるは初めて見たかのように、本の表紙を眺めた。

 なんの本かを知ることも、彼女にとっては意味を見出せないのかもしれない。

 でもそれは違うって、そう伝えたい。だから俺は言った。



「明後日、出かけようぜ」



 突然の誘いに、ほたるがやっと視線を合わせてくれた。

 その目には疑いだけじゃなく、期待の光が灯っているようにも見える。



「出かけるって?」

「山登りだよ☆」

「無理。体力ないよ」



 しかし即答だった。

 責めるようなため息が個室に響く。



「あっでもそんな大変な山じゃないし、近くまでは電車で行けるんだよね。無理だったら俺、超背負うし!」

「でもわたし、そもそも外出許可なんて……」

「え。そんなの黙って二人で抜け出すんだよ。楽しそうだろ?」

「……駆け落ち?」



 幼い顔して口にした言葉が、あまりにも不釣り合いだったから。まあ、それも悪くないなと思って笑った。



「そして山の上で、心中?」

「違う、やめなさい!」



 ツッコんでから、肩をすくめて薄く笑う。



「でも、もし君が途中で死んでしまったら、俺はきっとそうするよ」



 もうこの際、それはやぶさかではないなと思うから。

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