5/18(月) 転校生②

 すぐに担任も到着してホームルームがはじまった。


 俺の席は、中央の列で後ろから2番目のわりといい席。どうだ主人公らしいだろう。左隣には七瀬が座っている。

 ちなみに野中も中央の席だが、教卓の真正面で一番人気のない、くじ運が悪い人の成れの果て席だった。

 野中いわく、「堕天使たちのシャワーつばが降り注ぎたる我が席……」とのことだが、まったく想像したくない。


「ねえねえ」


 不意に肩を叩かれて振り向くと、後ろの席の女子がにんまりしていた。


「知ってる? 今日、転校生が来るんだって」

「へえー?」


 俺が反応すると女子はさらに身を乗り出し、自分の口元に手を添えた。


「しかもー、女の子だって」

「おお! 可愛かった?」

「わかんない。楽しみだよねー」


 転校生かー。わくわくするなあ。

 そんな俺とは対象的に、野中は興味なさ気に机に突っ伏していた。

 担任は課題の話をしながら、さっきからやたら俺のほうをチラチラ見てくる。


「――提出物の連絡は以上だ。おい野中ー」

「ぐー」

「これから転校生の紹介をしたいから、今日くらいは自分の席に戻ってくれんかー?」


 クラスが一斉にざわついた。

 そんな中、七瀬はため息をつきながら、寝ている野中の肩を揺すってくれていた。

 うん。コイツな。俺の膝の上にちょこんと座っているのだ。

 まるで猫っていうか、虎だな。でけーし。


「じゃあ転校生、入りなさーい」


 その言葉を待っていたかのように前方の扉が開かれ、みんなの目は釘付けになった。

 ウチのグレーのブレザーとはちがう、紺色のジャケット。白いシャツに小豆色の細いリボン、そしてリボンと同じ色のミニスカートをひるがえし、手足同時に出して教壇に移動する女の子の顔を見て確信を得た。


「あっ」

「あーー!!」


 七瀬とハモる。


「えっと、はははははじめまっ、えっ!?」


 どうやら彼女も気づいたらしい。


「あわわわわ嘘ーーっ!!」

「またか落ち着け日野。って芦屋と小鳥遊、知り合いか?」

「いえー、今朝見ましたー」


 真顔でぶんぶんと手を横に振る七瀬。

 風変わりな言動も間違いない。まぎれもなく、今朝、虎蛇に飛び込んできた――!


「わわわわわわー今朝はどうも失礼いたしました!」


ゴツン!!!


 急いで頭を下げた転校生はクラス全員が見守る中、教卓に向かって思いっきり頭蓋骨ダイブをかましていた。


「だ、大丈夫か……?」

「~~~~☆! ☆!」


 担任がおそるおそる覗き込むが片手でおでこを押さえてしゃがみ込みながら、転校生は、イケる!とばかりにオッケーマークをしきりに見せ付けていた。


 全くオッケーじゃなさそうなのは教室の誰もが悟り、ドン引きだった。

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