六代目は最後の皇太后

江戸川ばた散歩

プロローグ

 モニターが式典を映し出していた。

 アナウンサーがその様子をアナウンスする。


「今第八代皇帝マオファ・ナジャ・クアツ陛下が退位宣言書にサインされました……」


 彼女は荷物を詰める手を止めて、その画面に見入る。


「今ここに、帝国八百年の歴史にピリオドが打たれた訳です」


 八百年。

 彼女はその言葉を口の中で繰り返す。

 その中でいったい自分の生きてきた時間はどの位を占めるのだろう?

 荷物はそう多くなかった。

 ずいぶん長い間住んできた家だ。離れるのは悲しい。だけど。

だけど、あたしの役目はもう終わったから。

 お気に入りの流行のワンピースを着て、帽子をかぶり、スーツケースではなく、ありふれたバスケットだけを持って出たら、誰も彼女がその館から出たことに気付かなかった。下働きの若い女官が暇をとったのだ、と誰もが思った。


 翌日、旧帝国宮廷内に、先々代の皇后陛下の失踪の知らせがもたらさせた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る