鳳凰さんとキャラクタークリエイト!

 プロモーションムービーが終わって、気がつくと私はお空の上にいました。

 な、なにを言っているのか分からねーと思うが……私も分からない。え、ゲームの中でいいんだよね? 天国とかじゃないよね? 


「よくぞ参った、共存者よ」


 やたらと渋い声が頭上から聞こえて見上げる。そこにはいつのまにかやってきたのか、緋色の翼が美しい鳳凰ほうおうのような鳥が浮かんでいた。


 モッフモフである。大きな鳥の羽毛一枚一枚が、彼(?)が動くたびにふわりふわりと揺らめいている。きっと触ったらふかふかの羽毛の中に、手がぐんっと沈み込むくらい気持ちがいいだろうなあ。触りたい。でもさすがに今それはできない。自制心を働かせて首を振る。


 ええと、どうやらちゃんとゲームの世界のようだ。まさか空の上に来ることになるとは思っていなかったけれど。もしかしてそういう内装なだけ? 


「えっと、鳳凰さん?」

「うむ、鳳凰である。ではさっそく、神獣郷での写し身を作ろうぞ。好きな姿を己で作るが良い。だが、選択肢の一つとして天に身を任せることもできるぞ」


 写し身……と少し悩んでいたら、目の前に『アバターを作ろう!』という文字が浮かんできた。天に身を任せる云々について考えると、選択肢の中の『ランダムセレクト』がほのかに光る。なるほどランダム。ガチャみたいなものかな。


 どうせアバターを作るなら可愛くしたいけど……身長をいじりすぎると慣れるのに時間もかかるし、現実とゲームの足の長さの違いで混乱することもあるっていうから、この低い身長はそのままにするしかないなあ。


 ひとまず、鳳凰さんの姿が綺麗だったという理由で髪の色を緋色に。瞳の色を夕焼け色にしてみた。鳳凰さんが出してくれた鏡で確認すると、現実でも後ろでハーフアップに纏めていた髪が、そのまま色が変化したものになっている。


「名を決めよ」

「カタカナで『ケイカ』で」

「承知した。それではケイカよ。なりたい職業と武器はあるか? 選ぶがいい」


 目の前に現れた職業一覧と武器一覧をスクロールしながら目で追っていく。

 重いものを持つのは苦手だし、そんなに身体能力も高くない。戦闘はパートナーがやってくれると思っていたので、自分が戦う想定をしていなかった。

 しまったなあ、どうしよう。


「サポート系の職業とか武器を選出できますか? そこから選びたいのですが」

「良いぞ、サポート系だな」


 鳳凰さんの一言で一覧が勝手に更新され、目の前にわずかなサポート職が表示される。それと武器も。これなら、この武器とサポート職一択だよね。プロモでも『舞』って言ってたし! 


「職は『舞姫』で武器は『扇子』で」

「……共存者よ、本当にそれで良いのか?」

「ええと、デメリットとかもしかしてあるんですか?」


 鳳凰は少し考えた様子だったが、首を振る。


「いいや、それを選べば聖獣を早くに強くすることも可能となるだろう。しかしお前自身が敵に狙われてしまえば、ひとたまりもない。そして、初期スキルの舞を扱う場合、必ず己自身で舞わねばならぬ。それを『恥ずかしい』と思う者も少なくない故にの」


 なるほど、そういうことか。

 舞姫とか美しさの権化だし、私は人前で踊ることになっても構わないな。日本舞踊も好きだし! 紙みたいな耐久力をどうするかは後で考えればいいでしょう! 


「うん、やっぱりこれで大丈夫です。鳳凰さん、次は?」

「共存者がそれで良いなら、良い。舞姫の装備だが、最初の服装はどちらを選ぶのだ?」


 鳳凰さんが両翼を広げると、二つのマネキンと服が現れる。それぞれ洋装と和装に分かれており、可愛らしい洋装ドレスと和装ドレスになっていた。舞姫装備は和装まで選べるらしい。これは一択しかないのでは? 


「和装で!」

「承知した」


 赤い燐光と共に私の服装が切り替わる。朱色と白の、これまた鳳凰さんを表すような美しい和装ドレスだ。初期装備でこんなものがもらえるなんて神獣郷オンラインすごいな! 


「舞姫の初期スキルひとつと、自由枠で三つ初期スキルを選ぶことができるぞ。どれだけ時間をかけても良い」

「ふうん……」


 スクロールしてもスクロールしても底に辿りつかない。オンラインゲームだし、自由度も相当高いんだろう。読んでいて頭が痛くなってくる。


「ランダムで」

「……なんと?」

「ランダムで」


 予想外だったのか、鳳凰さんが目を点にした。可愛い。抱きしめたい。でも我慢。


「良いのか? 組み合わせによっては使えぬものや、ひとつでは効果を発揮せぬものもあるが、それらがランダムで組み合わさる場合があるのだぞ?」


 一応忠告をしてくれるあたり、この鳳凰さんも優しいなあ。


「えーと、『先に出来る後悔はない』って、幼馴染みの口癖なんですけれど、まあつまり、いくら考えたって結果が出てみないと分からないんですよね!」

「いや、恐らく幼馴染みとやらは別の意味でそれを言っているのでは……?」

「だから!」


 食い気味に言うと、鳳凰さんはちょっと引いたように私を見た。


「考える前に飛び込め! です」

「そうか、共存者がそう決めたのなら、それで良い。ランダムセレクトだな。ランダムの場合、スキルは一番最後に決まるものとなる。もし、スキルが良くないものだったとしても、自身の行動次第でスキルは習得できるようになっておるから安心せよ」


 見事に考えを放棄した私に鳳凰さんは諦めたように翼を折りたたんだ。


「それでは、ステータスポイントを振るがいい。ポイントを振れる項目はこちらだ」


 ・力

 ・防御

 ・敏捷

 ・器用

 ・霊力

 ・幸運


 あ、魔力じゃなくて霊力なんだという感想しか出てこない……! 

 というか器用さとかあるんだね。さっきのスキル一覧を一度開いて器用値がなにに影響するのかを見てみた。どうやら舞のスキルは器用値と霊力値が高いほうが良さげ……? 


 あ! 気づいてしまった……! ブラッシングという項目に!!! 

 器用値によって仕上がりが違う!? 聖獣を愛でるのに必須では!? 

 これはやるしかないな! スキルもランダムにしたし、ここまで来たら極振りするでしょう! 私は育成ゲームでも二極振りとかするタイプなんだ! 今は自分のステータスだし好きにしちゃおう! 


「器用値に全部注ぎます」

「……本当にそれで良いのか?」

「はい」


 語尾にハートがつきそうなレベルのにこにこ笑顔で決定。

 鳳凰さんはもはや目が死んでいる。ごめんね鳳凰さん。でも私、神獣郷には聖獣愛でるために行くんだ。バトルするために行くわけじゃないの。


 淡い赤色の燐光に私が包み込まれる。

 それから目の前に浮かんだステータスの、器用値の隣に輝く100の文字にガッツポーズをした。


「この巾着袋はアイテムボックスとなっている。初期装備故、入れられるアイテムは50まで。それ以上のものが欲しければ、露店にいくなり、同じ共存者の店であつらえるなりするといい」

「はーい!」


 言いながら、鳳凰さんが一歩横にズレると、その先に淡い扉のようなものがあるのが見えた。


「ケイカよ、お前について行く聖獣はこの扉より先に一歩踏み出したとき、決まる。今までのお前と我とのやりとりを聖獣のソウル達がこの場で見ておった。最初のパートナーとなるものは、お前の人柄に惹かれて自らついて行ったものということになる。大切にするのだぞ」

「はい!」

「我らの世界では負の感情に沈めば、共存者のパートナーといえど魔獣に堕ちることがある。それを、努々ゆめゆめ忘れぬことだ。善き行いを期待しているぞ、ケイカ」

「はい!」


 この空間のどこかで見ていた聖獣の一匹が、これから私についてきてくれるという。しかも、私がどんな人物かを観察したうえで決めて『自分から』! 

 それってすごいことだ。無数いるプレイヤーのやりとりを見て、その中から私を選んでくれたということなのだから! 


 絶対に愛でる! 絶対に大切にする! 

 待っていて私のパートナー!!! 今迎えに行くからね! 


「お前との縁が合ったことを喜ばしく思おう、共存者ケイカ。ようこそ、我らが愛する神獣郷へ」


 扉を潜る際、最後に鳳凰さんの声が聞こえた。

 そして、私の意識は一度ここで深く深く沈み込んでいくのだった。

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