第30話魔法戦

 レイチェル=ライザールを、《七大地獄セブンス・ヘル》の第二階層、《第二地獄モアブ》に招待。


 最初に裁きの鉄槌を下すのは、魔界随一の魔術の使い手である《怠惰たいだベルフェ》。

 一方でレイチェル=ライザールは人族最強の勇者の魔法の使い大賢者だ。


 互いに魔法と魔術を得意とする両者。

 異次元の魔法戦が、幕を開ける。


「白き槍で死ね、ベルフェぇええ! 《聖槍ホーリー・ランス!」


 レイチェル=ライザールは開幕早々、強力な術を発動。

 無数の純白の槍が、ベルフェの身体に襲いかかる。


 ガッ、キーーーーン!


 だが槍はベルフェの直前で、全て弾かれていく。

 防御壁などという、生易しいものではない。

 時空が歪み、攻撃が弾かれてしまうのだ。


 ――――直後だった。


「……【怠惰黒炎地獄レイジ・ヘル・ファイアー】」


 ベルフェから呪文を発動される。《七大地獄セブンス・ヘル》の時に、ボクを苦しめたカウンター魔法だ。


 ゴォオオオオオオ!


 直後、レイチェル=ライザールの全身が、漆黒の炎に包まれる。この魔法はいきなり発動するので、回避も防御もかなり難しいのだ。


「ちっ、これは⁉ 《完全浄化エクス・キュア!》」


 だがレイチェル=ライザールは即座に、対抗魔法を発動。漆黒の炎を消し去る。


「ほほう、今のは幾重の結界で、アタシの《聖槍ホーリー・ランス》を防御。更に事前に術を展開しておき、カウンターで反撃してきたのか。面白い術式を使うねぇ?」


 驚いたことにレイチェル=ライザールは、一回の攻防でベルフェのカラクリを見抜いていた。

 しかも【怠惰黒炎地獄レイジ・ヘル・ファイアー】で焼け死ぬことなく、即座に対応して難を逃れていたのだ。


「…………」


 一方で見破られても、ベルフェは特に気にしていない。

 相変わらず面倒くさいそうに、無言で突っ立っている。


「仏頂面で気に食わない生徒だったが、見直してやろう、ベルフェ。だが多様性はどうだい? カラクリは今ので終わりか?」


 レイチェル=ライザールは余裕の表情を浮かべている。

 更に魔術師としてのベルフェの評価を……いや、実験体としてのベルフェの評価を下していた。


「あっはっはっは……もっと底を見せてみろ、ベルフェ! いくぞ、《漆黒槍ダーク・ランス》!」


 そして新たなる術を発動。

 無数の漆黒の槍が、ベルフェの身体に襲いかかる。


 ガッ、ズシャ!


 ――――直後、驚いたことが起きる。


 槍はベルフェの直前で、全て弾かれなかったのだ。

 表面の防御壁を貫いて、あと一歩で攻撃が届きそうになる。


「……【怠惰黒炎地獄レイジ・ヘル・ファイアー】」


 すぐさまカウンター呪文が発動される。


「それは愚策だぞ、ベルフェ! 《極限反射エクス・ミラー》!」


 レイチェル=ライザールは次なる術を発動。

 白銀の光が彼女を包み、【怠惰黒炎地獄レイジ・ヘル・ファイアー】の炎を弾き返す。


 ゴォオオオオオオ!


 反射を受けてベルフェは、逆に少しだけダメージを受けていた。


「あっはっはっは……どうした、ベルフェ⁉ 《漆黒槍ダーク・ランス》は弾き返せなかったのか⁉ つまりお前の攻略するのは、《漆黒槍ダーク・ランス》の系統のどれかなのだろう? 随分と簡単だな!」


 驚いたことにレイチェル=ライザールは、すでにベルフェの攻略の糸に勘付いていた。

 ボクが一年間で千回以上も死んで、ようやく見つけた攻略の糸。

 たった二回の攻防で、すでに見抜こうとしていたのだ。


 結論からいうとベルフェを倒すには、【漆黒地槍ダーク・グングニール】の攻撃しかない。

 そして【漆黒地槍ダーク・グングニール】は《漆黒槍ダーク・ランス》の、十二個ある発生系統なのだ。


「さて、あと何種類の攻撃に耐えられるかな⁉ でも、安心しろ! 殺さずにちゃんと解剖してあげるぞ、ベルフェぇえええええ!」


「…………」


 まさかの事態が起きようとしていた。


 七大魔人の一人|怠惰《たいだベルフェ》が、勇者レイチェル=ライザールによって蹂躙されようとしていたのだ。

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