第三十四章 夏休みの約束編
第408話 美紀だって恋する女の子
運営の都合により急遽行われた限定イベント(詳しくはSSストーリー)でも大暴れを果たした者は先日行われた美紀とエリカの勉強会を得てリアル(現実世界)でも学生として大きくレベルアップしていた。
人と言うのは不思議で心に余裕が出来ると――。
「ぐぅ~、ふぁぁー&(#&”(=~”#%」
すぐにだらける生き物なのかもしれない。
なぜなら、太陽の陽が最も輝く時間帯でありながら蓮見はぐっすり眠っている。
今日は美紀と久しぶりに二人きりで会う約束がある日なのだが約束の十二時を過ぎても起きる気配は一切ない。
寝言を言いながらニヤニヤする顔は普段なら可愛げがあって可愛いのかもしれない。
だけどこの日をずっと楽しみにしていた女の子からしたら柔らかい笑顔とは裏腹に無意識に握った拳がぶるぶると震えるぐらいにイラっとする光景なのかもしれない。
「…………人の気も知らないで」
いつまで経っても蓮見からの連絡がない美紀は今蓮見の部屋にいる。
先に言っておくがこの家に今は二人しかおらず、親は仕事の為不在である。
なので、これから美紀が何をしても家の住人に迷惑を掛けることはないのだ。
大きく息を吸いこんで、ゆっくりと吐き出す。
そして――。
「――起きろッーーー!!!」
再び握り直した拳を蓮見のお腹目掛けて力いっぱいに振り落とす。
――が!
「えへへ~、みき」
後二センチ。
それが美紀の拳と蓮見のお腹までの距離。
ではあったが、勢いよく振り落ろされた拳は偶然にも蓮見が発した甘い声の寝言により不発に終わった。
「――は、はすみぃ?」
突然のことに美紀が頬を赤くして、目を泳がせる。
「そ、そんな……まさか蓮見が私と夢の中で会ってるなんて……。それも嬉しそうに……」
そう。
夢の中に出てくるぐらい蓮見の中で美紀の存在は大きいのだ。
それに。そんな事をダイレクトに言われたら頬が緩んでしまう。
照れる美紀はもう一回蓮見の寝顔に視線を向ける。
「むぅ~、夢の中の私……早く私に蓮見を返してよ……ばかぁ」
嬉しくも切ない。
そんな気持ちになりながら美紀は下唇を噛みしめる。
なんなら自分が夢の中の美紀になりたい。
なんてことを思ったら負け。
頭ではわかっているのに、どうしてもそう思ってしまう自分がいる。
それに寝顔を見ていると、なんともまぁ……楽しそうではないか。
少なくとも無防備に楽しそうな夢を見ているような表情からは……。
「むぅ~私には……ないの?」
少なく見積もっても夢の中の二人の雰囲気が良いように見えてしまう。
いつも我慢しているだけについ心の声が漏れてしまう。
だけど。
その言葉は本人には届かない。
これが叶わぬ恋なのか。
違う。
これが片想いの甘くも辛い瞬間なのかもしれない。
近いようで遠く、遠いようで近い存在、両想いに見えるほどお互いに気を許しているように見えて本当の所はわからない、臆病な自分がもたもたしている間にライバル(恋敵)がどんどん距離を縮めていると知り焦ってしまう自分。そんな美紀の心の中はモヤモヤで一杯。胸の奥が苦しいはずなのに、蓮見が美紀の名前を読んで幸せそうな顔をするだけでこっちまで嬉しい気持ちになってしまう。
あー、恋とはなんとも非情なのだろうか……。
そんな乙女心に嘘は付けないと美紀はため息をついてもう少しだけ蓮見に良い夢を見てもらうことにした。
「……ばかぁ、しねぇ、あほぉ、昨日眠れないぐらいに今日は久しぶりに二人きりで会えると思って楽しみにしてた私の気持ちに少しは気付けたらし……」
不満を口にしながら、蓮見の寝るベッドに腰を降ろす美紀。
そして念のため周囲に誰の目もない事を確認して、蓮見の唇に自分の唇をソッと接触させすぐに離す。
「……ごちそうさま。えへへ、大好きだ、このばかぁ♡」
と、夢の中の自分だけ良い思いはさせないと美紀は自分の気持ちに素直になってみた。案の定夢の中にいる男は起きる気配を見せないのでこれはこれで一安心なのと、心が急に満たされたことで美紀としては大満足。後は蓮見が起きるのを待つだけなので、スマートフォンで蓮見の寝顔を数枚取り、後は本人を眺めて時が過ぎ目覚めるのを自然に待つことにした。
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