第394話 三人の悩み


 そんなこんなで朝日が登ってから登校し朝日が沈み始める頃まで担任との濃い時間を過ごし早一週間があっという間に過ぎ去りようやく蓮見に平穏な(勉強をしなくていい日々)が舞い戻ってきた。


 その日の夜。蓮見は勉強からの開放感から窓を開け夜風をベッドの上で感じながら天井を見つめて長かった地獄(勉強)の日々がようやく終わったなーと今までの事を遠い過去を思い出すような感覚で思い出していた。


「勉強をサボるとこうなるのか……」


 だがここで思う。


「なぜだ? なぜ同じ時間ゲームをしているはずの美紀は学年一位(トップ)を取り俺は学年一位(アンダー)を取ったんだ? それはあまりにも両極端で非常な気がするが……」


 世の中理不尽だな、と思うもこれも才能の差かと早くも諦める。

 見えない所で努力しているかもしれないが、努力しても報われる人間とそうじゃない人間がいると自分に言い聞かせて少し先の事を考えてみる。


「このままだと……特別課題は担任に提出だから頑張ったら認めて貰えそうだけど、夏休みの宿題は各教科の担当だから空欄が多かったり間違いが多かったりするとやり直しになる……さてどうしたのものかな……」


 今年は補習の生徒が多かったという理由から回答は後日配布となっている。

 その為、生徒は夏休みの宿題をある程度終わった状態で一度登校日に提出してから担当の先生に提出の確認と中身のチェックをしてもらってから回答を受け取るシステムと今年はなった。なのでその日までにはなんとかしてある程度は終わらせたいのだ。もし終わってなかったりするとここ一週間のように特別補習を受けに学校に行かないといけなくなり貴重な休みが週単位で一人減らされてしまうのだ。これも進学校に進学したツケだと身を持って知った蓮見は勉強で疲れた頭を回転させる。


「美紀に相談しても見返りなしだと嫌がるだろうし、自分の力でしないと意味ないでしょ? ってド正論言われそうだしな~」


 仰向けのまま視線だけを窓から見える空を照らす星へ向ける。

 すると月明かりに負けじと沢山の星が照り輝いていた。

 だけど蓮見の未来(夏休み明け)はその逆で真っ暗闇。

 それだけ勉強ができない者にとって夏休みの宿題とは強敵なのである。

 いっそのこと灯油をかけて燃やしてしまおうとも考えるが怒られて再発行されて解けと言われる未来がチラッと見えたので没にする。

 ならば、と思い考えるもすぐに言い答えがでてこない。


「う~ん、困ったな~」



 ■■■


 その頃、美紀の家。

 それもお風呂場では、なんだかんだ仲良し二人組がお風呂に入っていた。


「んで、どうするの?」


「んなこと言ったて……絶対蓮見勉強で忙しいって断りそうだもん……」


 甘い香りが香るシャンプーを泡立て頭を洗いながら答えたのは蓮見の幼馴染の美紀。

 そんな美紀にチラッと視線を向けて隣で同じように髪を洗うのはエリカ。


「そうよね~。一生懸命勉強頑張ってる所に限定アイテム欲しいから力貸してーとは言いづらいはわよねー」


「うん、だよねー。私は蓮見と一緒にこの夏も遊びたいんだけどね……」


「ねぇ、美紀?」


「なに?」


「私が言うのもどうかと思うのだけれど……。蓮見君のこと好きすぎない?」


「う、うるさい! え、エリカも大好きなんでしょ? だったらいいじゃない、私が大好きでも……」


 動かしていた手を止めて顔を真っ赤にして必死の照れ隠しをする美紀を見てエリカがクスッと笑う。


「可愛いわね、美紀」


「う、うるさい……恥ずかしいからかわないでよ……ったくもぉ~」


 まんざらでもなく嬉しそうな美紀はぶつぶつ独り言を言いながら止めていた手を動かし残りを洗っていく。

 その間二人の間に会話はなく、しばらく沈黙が続く。

 だけど二人共身体を洗い終わり、仲良く湯舟に入るとすぐにエリカが口を開き会話が再開される。


「んで、どうするの?」


「……どうするもこうするも……我儘言って甘えても蓮見の迷惑にしかならないだろうから……我慢しようかなって……」


「やっぱりそうなるわよねー」


「「はぁ~」」


 まるで合わせ鏡のようにタイミングよく二人がため息をついた。

 どうしても限定アイテムが欲しい二人は限定アイテムを餌にどうにかして好きな人と一緒にゲームもしたいと考えた。だからこそ色々と悩んでいる。本来であれば美紀が一言かければ七瀬や瑠香はもちろんのこと他の強いプレイヤー達も喜んで力を貸してくれるだろう。だけど二人にとってはそれじゃダメなのだ。何か一つでも多くこの夏は好きな人との時間(想い出)を多くしたいと考えている。その理由は簡単で時期的な問題である。夏と言えばカップルが多くなる時期でもあり、道中を歩けば若い男女が手を繋いだり、キスをしたり、会話をしたり、食事したり、と一緒にいるシーンをよく見かける。特に夏祭りとかで。そのせいか少しでも好きな人の近くにいたいと言う欲望が制御の範囲を超える程に大きくなってしまったのだ。


 当然だが女の子にだって性欲はある。

 その為これは正しい感情であり間違ってはいない。


 そもそもの話し。

 ただ隣にいれるだけでもいいし、お話し相手になるだけでもいい。

 なんなら忙しいのであれば無言でも良いから側にいてくれるだけでも、女の子(美紀とエリカ)は幸せな気持ちになれる。

 当然そこで少しでも構って貰えれば心がより満たされ幸せになれる。

 だからこそどうにかして口実を作り、自然な流れで側にいたいのだが、蓮見の事情を考えるとゲームをしている余裕はないようにしか見えないので困ってしまった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る