第318話 真打登場
気合いを入れて、さらに手数で勝負する美紀。
美紀と小百合のHPが徐々にではあるが少しずつ両者の攻撃によって減っていく。
それと並行して両者のMPゲージも少しずつ回復していく。
ここで七瀬の遠距離攻撃の援護が一時的に止む。
「この音と気配……間違いない、ミズナの奴ぶちかます気ね」
七瀬の狙いにいち早く気付いた美紀は小百合に攻撃しつつ誘導し背中を見せるように動かしていく。そこに瑠香が加わり、七瀬から注意を外す二人のコンビネーションにようやく小百合の攻撃の手が防御と回避へと回り始める。
「ルナ、遅い」
「すみません」
「もっとペースあげて」
そう言って限界ギリギリまでペースを上げる美紀。
「は、はいっ!」
それに辛うじてついて行く瑠香。
小百合が大木の影に姿を隠しても両サイドから攻める事で逃げ道を後方へと限定していく。その先には七瀬がいる。そこには赤い魔法陣があり、茶色い髪が赤色に染まり、ゆらゆらと燃え、杖が赤い色に染まり強い光を放ち始めていた。その正体は自動追尾機能を持った七瀬の最大火力の魔法である。
それを確実に小百合へと当てる為、ここから美紀も溜まったMPゲージを使い追い込んでいく。
「スキル『ライトニング』『アクセル』!」
雷撃でダメージを与え、そこからAGIを強化して一気に間合いを詰める。
「なるほど。悪くない手ですが、私に感電は効きませんよ?」
「うるさい!」
「ふふっ。幾ら速くなっても感電しては終わりですし、仮にならなくても広範囲に攻撃すればどうでしょうね? ではお返しです、スキル『ライトニング』!」
「きゃああああああああああ」
小百合の意趣返しに反応が遅れた美紀がダメージを受け怯む。
強制的に攻撃が中断させられた美紀に小百合が止めを刺そうとするが、すぐに瑠香がカバーに入り注意を惹きつける。
「させない。スキル『ペインムーブ』!」
「これは……」
瑠香の僅かな動きと予備動作から攻撃が来るポイントを予測し、バックステップで距離を取る小百合。だけど瑠香も負けてない。足の裏を爆発させて一気に近づき、高速でレイピアによる六連撃を叩きこんでいく。
「…………っう!? まだです、スキル『竜巻』!」
自身を中心とし風を巻き上げ、その風に身を任せ上空へと逃げる小百合。
そして弓を構え、矢を放つ。
一瞬の出来事だった。
弓が燃え、その炎に影響を受けたのか矢も燃え放たれた。
よく見れば一瞬で魔法陣を構築し矢はその中を通っていた。
それは第二回イベントで見た美紀の嫌な記憶を呼び起こす。
『破滅のボルグ』と匹敵する破壊力を持つそれをこの至近距離で受ければ流石の瑠香と言え致命傷になる事は間違い。
そう思った美紀は。
「スキ……ル……ぁ『ア……クセル』!」
気合いで身体に力を入れて、瑠香に向かって飛び込み、地面に身体を転がす。
美紀と瑠香が地面を転がり終わり元居た場所を見ると、小さなクレーターが出来ていた。
「あ、ありがとうございます」
「よくも私の可愛い妹に一発デカいの入れてくれたわね! 覚悟! スキル『爆焔:炎帝の業火』(ばくえん:えんていのごうか)!」
「お姉ちゃん! 一応訂正すると里美さんのおかげで受けてないからね!」
「問答無用!」
今度は七瀬の魔法陣が消え、杖から『焔:炎帝の怒り』を容易く凌駕した燃え盛る炎が襲い掛かる。着地を狙ったタイミング。相手が回避しようにもできない。そして意識を足元に向けなければいけないタイミングでもあることから、敵からしたら正に最悪のタイミングでの自動追尾性能を持つ攻撃。流石は美紀と肩を並べるトッププレイヤーと言った攻撃にこれは貰った確信する美紀と瑠香。
「……まずい!?」
小百合が口を開いた直後、七瀬の一撃が見事小百合へと入った。
そのまま身体を吹き飛ばされる小百合に追撃を入れようと、美紀が動く。
そしてもう一度地面に着地のタイミングで攻撃をしようと近づいて行く美紀だったが――。
身体を空中で回転させてからの回し蹴りで対抗してきた小百合。
そこから矢をクナイのように投げてきた小百合に美紀は強引に膝を折り、態勢を低くすることで間一髪で躱す。頭上を通り過ぎていく矢は小百合の腕力で投げられていることから決して速くない。だけどその一撃は油断し甘く見ていると致命傷になる一撃だったことに美紀は直感で気付いた。痛みに耐え、地面にダイレクトにぶつけた膝に力を入れて再度攻撃に移る。
「矢は投げない、そう思わない方がいいですよ?」
「普通は投げないわよ!」
的確に突っ込みを入れながらも、攻撃の手は休めない。
「貰った。スキル『睡蓮の花』!」
瑠香の高速突進による一撃がタイミングよく小百合に放たれる。
美紀の言葉に注意が向いた隙をついての一撃。
タイミングの良さについ微笑む美紀。
重心が左に傾き、その方向から瑠香が攻撃を仕掛けているため、回避は難しい。
攻めるなら今と、美紀も今ある全MPゲージを使い勝負を仕掛ける。
「スキル『デスボルグ』!」
三人の波状攻撃とも呼べる連続攻撃に小百合が目を閉じた。
だけど何を狙っているかは知らないが、ここまで来た以上最大のチャンスを手放すわけにはいかない。三人の必殺スキルを持って馬鹿みたいにある小百合HPゲージ強引に削るチャンスは限られているからだ。
「「届けぇぇぇぇぇぇ!!!」」
美紀と瑠香の魂の叫び。
それに呼応するように武器が小百合のHPゲージを一気に削っていく。
瑠香のレイピアがテクニカルヒット、美紀の槍は小百合が身体を捻る事でKillこそならなかったがそれでも大ダメージを与える事に成功する。
だけど痛みに声をあげないどころか、まだ目を閉じたままの小百合に違和感を感じた美紀と瑠香が一旦大きく間合いを取り様子を見る。
すると――。
「逃げましたか。運が良い、いやこの場合勘が鋭いと言った方が正しいかもしれませんね」
その言葉に判断は正しかったと思う美紀。
そして――。
HPゲージを三割切った小百合がゆっくりと目を開ける。
三割と言う引き金はまさに悪夢の象徴でもあった。
なぜなら――。
もう一人の神眼を持つ者が急に強くなるタイミング。
故に――。
もう一人の神眼の三割は。
小百合を中心として白い魔法陣が展開される。
それはとても見覚えがあり、自分達の切り札の一つでもあったスキル『覚醒』である。
「そんな……!?」
「こいつも使うの!?」
「最早『覚醒』のインフレね……」
驚く三人を他所に、
「私の『覚醒』はレイドボス戦用に調整されていますので時間制限はありませんよ?」
と、うっすらと微笑み小百合が警告してきた。
この時美紀は心の中で思った。
神眼を持つ者にまともな奴はいないのかと。
矢を手で投げたり、追い込んだら追い込んだだけ強くなったり、と相手にするとこの上なく厄介だなと。それにここまで三人で協力して追い込んだ気に全然なれない小百合は悔しいが自分達と対等もしくはそれ以上の強者だと認めるしかない。
そんなわけで最後の調整としてこっちはこっちでHPポーションとMPポーションで今出来る事をする。
それから美紀は心の中で願う。
――早く来て、私達の神眼。
――これを相手に残り三分では分が悪すぎる。
――だけど。
――私の大好きな者なら絶対に何とかしてくれる、信じてる。
――だから、私の愛が欲しいならこうゆう時に来い。
「くれないーーーーー!」
その叫びに呼応するかのように一つの影が高速で通り過ぎて行った。
視線を上に向けるとそこには蓮見がいて、矢から飛び降りそのまま美紀の真横に着地した。
「へへっ、今回は間に……ってたががえったみてぃだな……たぁぃ」
「ん?」
何が言いたかったのかよくわからなったので、
「ごめん、もう一回いい?」
聞き返す。
すると、涙目になりながら、
「いたい……」
と、返答された。
よく見れば着地の衝撃に足が耐えられなかったらしい。
「…………しね」
人が真面目にカッコイイ、本当に来てくれたと感動している時に、空気が読めない蓮見につい冷たい視線を送り、つい冷たい言葉を言ってしまった。
「……すみませぇん」
「……今は真面目にして」
「……はい」
その時だった。
美紀はある事に気付いた。
――あれ? そう言えば分身がいない。
それはつまり負けたのだろう。
でも綾香達がここにいないと言う事はあの三人を相手に全員倒したか足止めしたか、あるいはその両方を上手い事したのではないか?
そう思うと、蓮見も頑張ってくれたことは十分に分かったので、
――なによ、いつも肝心な所は言わない癖して頑張ってから……。
(そうゆうことばっかするから……好きになるのよ、ばかぁ)
と心の中で今の気持ちを整理してから美紀は言葉にする。
「ごめん。言い過ぎた。それと……来てくれてありがとう」
「…………急にどうした? 頭でも打った?」
前言撤回!
なんでこの男はいつもいつも私が素直になると心配するのよ!
普通にここはドキッとしてよ!
ったくもぉ信じられない!
別にここは「ありがとう」の一言でいいのよ!
てかそれが今は聞きたいの!
だから女心に疎いとか鈍感とか気付かないとか言われるのよ!
まったく彼女出来ないとかいつも言っているけど、そうゆうところ!
ずっとこんなに蓮見の事大好きな女の子が隣に居て何で気づかないのよ!?
その癖、エリカにはデレデレしてから!
私に男が出来るかもって知ると、泣く癖に!
そんなんなら私に告白したらいいじゃん!
てかしてよ! ずっと待ってるんだからね!
あーもぉ、結論大好きなのよ!
ってなわけで……
――以下略
美紀の女心は一瞬で嵐となったので、本題に切り替える事にする。
――ゴホン
「もしかして風邪か?」
心配しかしてくれない蓮見に美紀は冷たい視線のまま指をさして言う。
「べつに? とにかくあれ何とかするわよ。てか、して欲しいんだけど……?」
「オッケー! 足の痺れは何とか取れたし、今からは俺様の参戦するぜ!」
(ったく、調子がいいんだから。てか痺れとれるの早くない?)
あー、常習犯だからか……。
なので――。
相変わらずここに来ても調子が良さそうな蓮見にクスッと笑って美紀が口にする。
本当一緒にいて飽きないなー、と思ったので、とりあえずここは機嫌を直してあげることにする。どうせなら一緒に楽しくしたいから。それによくよく思い返してみれば後でなんでも言う事を一つ聞いてもらえるのでここで怒る理由は何一つないではないか。
(えへへ~)
「なら任せる。ルナとミズナは私と紅の援護!」
その言葉に頷きながら。
「わかりました」
「任せて!」
返事をする二人。
そしてある女が密かに動き始めた。
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