第156話 天災の使者は語る



 美紀と七瀬は出来るだけ身体に負担をかけないようにと無駄な戦闘は避けるべきだと考えていた。


 故にここで綾香と戦うことは合ってもソフィと戦う事までは望んでいないのである。


 もっと言えば時間稼ぎができ、綾香を挑発出来るのであれば戦う必要すらないと考えている。これは二人がここに移動してくる途中で話し合い気付いた事実である。


「ねぇ?」


 七瀬が周りを見て、声を大きくして言う。

 そして七瀬を護るようにして前に出ていた美紀の隣まで歩いてくる。


「綾香もここにいるんでしょ? 出してよ」


 その言葉に周りのプレイヤー達の緊張感が高まる。


 とても小さな反応だが美紀と七瀬はその変化を見逃さなかった。つまりここが【雷撃の閃光】ギルドの本拠点なのだろう。


「……正気なのか?」


 ギルドメンバーの一人が七瀬に聞き返す。


 それもそうだろう。


 わざわざ敵の親玉ではなく、親玉つまりはギルド長と対等もしくはそれ以上に強いかもしれない人間を呼んでくれと自ら敵が言っているのだから。

 ここで仮に綾香を倒してもソフィを倒さない限り【雷撃の閃光】ギルドが第三回イベントからリタイアすることはない。


 当然その反対もある。


「も~ちろん! 紅と戦いんたいんでしょ? だったらソフィは居てもいなくてもいいから綾香を呼んでよ。どうせ貴方達に綾香が協力した条件ってそんなところでしょ~?」


 七瀬は含みのある言い方をする。

 周りからしたらバカにされている感しかないが、ギルドメンバー達から見れば美紀と七瀬もまたトッププレイヤーなのだ。

 ここは我慢し、相手の情報を引き出すのがギルドの為と判断し耐える。


 ここで無理して美紀と七瀬を倒せたとしても【深紅の美】ギルドと【雷撃の閃光】ギルドの勝敗が決するわけではないのだから。


「嫌だと言ったら?」


 男は鋭い視線を向けながら問う。


「今は姿を隠している紅がこの拠点を攻撃する、と言えばその解答になるかしら?」


 七瀬はニヤリと微笑みながら返答する。


 その言葉と表情に敵が視線を森へと飛ばす。

 それもそうだろう。


【神眼の天災】の前では障壁等そもそもあまり役に立たないのだから。


「では何故奇襲を仕掛けなかった?」


 男の言いたい言葉に七瀬が納得する。


 仮にここに蓮見がいれば奇襲の数発で拠点を落とせたはずなのに、男はそう言いたいのだろう。


「それは簡単よ。貴方達が幾つも拠点を持っているのは知っているし、この拠点制圧してもすぐにこの人数差だし取り返される可能性の方が高いじゃない? だったら奇襲より少し取引を持ちかけた方がお得だってバカでも気付くわよ」


「ふむ」


 男は腕を考えて、少し考える。


「良かろう。綾香様をお呼びする。それで文句ないな?」


「えぇ」


 そう言って男は近くにいた、ギルドメンバーに指示をして拠点の中で待機している綾香を呼びに行かせた。


 この時点で約五分の時間を稼いでいた。


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