第117話 二人で一つの返事
蓮見は里美と一緒に見張りをしており、今はパネルを操作している。
「凄いな、これ。自軍の拠点の位置がマップに追加されて、各拠点の残りHPが表示されるって」
それを覗き込むようにして美紀が見る。
「確かに。各ギルドの拠点参照情報はリーダーとサブリーダーだけが見れるのね。場所等は誰でも見れるみたいね」
「今メッセージでエリカさんがこっちに戻って来るって。もう行ってもいいよ。どうせすぐには敵も来ないだろうし」
美紀は蓮見に早く戦いたい、せめて動きたいと欲望をむき出しにした瞳で言う。
それは小さい子供が新しいおもちゃを見つけた時のように。
「ホント? 私がいない間に誰かきても負けない?」
「まぁ、多分。最悪全部燃やすから」
「…………そう……ね。全部か……」
「どうしたの?」
「……いや……全部燃やすのだけは最後の手段にしてね。でないとせっかく大木が拠点を隠してくれているのに意味がなくなっちゃうから」
「なるほど! やっぱ里美天才だな! そうゆうことなら任せろ!」
普通は燃やすと言う発想がないんだけど、と心の中で思う美紀。
簡単に燃やすと言うが、大木を燃やすのは案外難しいのだ。発火系統の属性を持つ武器やスキル、魔法でクリティカルヒットを起こさないと中々燃えないのだ。勿論属性ダメージが強ければクリティカルヒットなしでもある程度は燃やす事が可能である。
例えば細い枝とかは、だれでも比較的簡単に燃やせる。
だが大木は水分をかなり内側に溜め込んでいるのでそう簡単な話しではないのだ。
あくまでクリティカルヒットのダメージ増幅効果を使い蓮見は普通のプレイヤーがしない事を当たり前にしているだけである。
その辺を未だに正しく理解していない蓮見だからこそ、固定概念や常識に縛られないのかもしれない。
「……うん。当然よ!」
つい、一瞬言葉が詰まってしまった。
やっぱりエリカが来るまで待っていようかと思ったが、ちょうど長い石段をゆっくりと歩いて登ってきている姿が遠目で見えた。
「あっ、エリカだ。なら私行くね」
「あっ、里美?」
「なに?」
「勝ち負けも大事だけどせっかくのイベントなんだ楽しんで来いよ!」
「わかった!」
里美は笑顔で返事をしてジャンプして飛び降りて行く。
途中エリカが手を振ってくれたので、空中で手を振り返してすれ違いざまに「行ってくる」と言って美紀も偵察に出ていく。
美紀は早速瑠香達が頑張って新しく手に入れた拠点がある方向とは別の方向を調べる事にした。
もしかしたら自分達がまだ見つけていないだけで他にも拠点があるかも知れないからだ。
「何か合った時の為に、あまり遠くには行かないようにしないと」
美紀は蓮見ならそう簡単に負けないと信じていたが、敵が物量作戦で来た時の為にすぐに戻れるようにとは考えていた。蓮見では広範囲攻撃を相手に拠点を護る防御手段を持っていない。その為今の拠点を最悪失う事になるかもしれない。
立地的にも今の拠点は失いたくなかった。
「とりあえずミズナとルナにもメッセージを送って、何かあったらすぐに戻って来てもらえるようにしておかないと」
そう言って美紀は二人にメッセージを送る。
するとすぐに返信が返って来たのだが。
七瀬からは『りょ』と瑠香からは『かい』と返って来た。
「誰が二人で一つの返事をしろと言ったのよ……まったく……しかもこれだと『りょかい』だし……『う』はどこにいったのよ……全く……呆れるわね」
余裕があるのかないのか良くわからない二人の返事を見て美紀はつい笑ってしまった。
いつの間にかあの二人も昔と違ってこの状況を楽しみ初めているのだと思うとつい嬉しい気持ちになった。
「影響を受けたのは私だけじゃないって事か」
それから美紀は蓮見に定期的に連絡を入れ、拠点の状況を確認しながら少しずつ捜索範囲を広げていく。
捜索開始から二十分。
ついに敵のギルド拠点を見つける事が出来た。
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